朝日中高生新聞
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政治手法は「ポピュリズム」?

2017年2月19日付

就任1カ月 トランプ米大統領

入国制限の大統領令に、国民の賛否は割れる

 米国のトランプ大統領が就任してから20日で1カ月です。しんぞう首相との日米首脳会談では大統領らしい姿勢を見せましたが、大統領令やツイッターなどを通じて推し進めてきた政策については、批判も浴びています。その政治手法は「ポピュリズム」という言葉で表現されることもあります。(松村大行)

「人々へ権力を」と宣言/裁判所やメディアも敵に

 政治や軍の要職についた経験がなかったトランプ氏。昨年の選挙戦から繰り返してきたのが、誰かを敵とみなし、さかんに攻撃する手法です。特に目のかたきにするのが、政治や経済の分野で力を持つ「エスタブリッシュメント(既得権層)」です。1月の就任演説でも「一握りの政治家がコントロールする首都ワシントンから人々へ、権力を取り戻す」と宣言しました。
 大統領就任後も攻撃の手を緩めません。例えばテロ対策として署名した、中東・アフリカ7カ国の国民の入国を一時禁止する大統領令。その効力をワシントン州の連邦地方裁判所が一時停止したことに対し、「何かあったら裁判官と司法制度のせい」と公言。行政、立法、司法が互いをチェックする「三権分立」の仕組みにけちをつける態度を見せました。
 大手メディアも標的にします。新聞社のニューヨーク・タイムズなど自身の政策に批判的なメディアは「フェイク(うそ)ニュース」呼ばわり。記者会見では、特定のメディアからの質問に答えない場面もありました。

つぶやき拡散

 トランプ大統領の動向を知るうえで欠かせないのが、約2500万のフォロワーがいるツイッターでのつぶやきです。攻撃の発端になり、万単位の規模で拡散します。訪米した安倍首相とのやりとりも、写真を交えて紹介しました。政権運営に関わる重要事項について次々とつぶやくため、「誰かにアカウントを乗っ取られたら」と心配する声もあがっています。
 一時入国禁止を命じた大統領令の是非について、ロイター通信が1月末にインターネットで1201人に行った世論調査では49%の人が賛成し、反対の41%を上回りました。一方、同時期にギャラップ社が電話で1018人に行った調査では、反対が55%で賛成の42%を上回りました。国内の世論が分断されている現状がうかがえます。
 従来の政治家とは異なる手法で政策を進めようとするトランプ氏を、ニュースではよく「ポピュリスト」と呼びます。この現象は米国に限ったことではなく、欧州各国でも「ポピュリズム政党」が台頭しています。

トランプ大統領のツイッターの文面と、支持者と反対派の写真をレイアウトした画像
デザイン・佐竹政紀
写真はどれも(C)朝日新聞社

ポピュリズム政党、欧州で台頭
自国第一、移民制限などを主張

隠れた声すくい上げる良さ
異論聞かず分断生む危うさ

 欧州ではいま、欧州連合(EU)や共通通貨ユーロからの離脱を目指す動きがあります。「EUが加盟国の主権を奪っている」と訴える政党が、オランダ(自由党)、フランス(国民戦線)、ドイツ(ドイツのための選択肢)などで支持を集めています。
 英国では昨年6月の国民投票でEU離脱派が過半数となりました。「英国独立党」が繰り返してきた主張が現実化した形となり、他国でも国民投票の実施を求める声が高まりました。
 これらの「ポピュリズム政党」は、自国を第一に考える姿勢、移民の制限やイスラム教徒のはいせきなどを主張する点でも共通しています。

格差が背景に

 ポピュリズムは「大衆げいごう主義」と訳されます。『ポピュリズムとは何か』(中公新書)の著書がある千葉大学のみずしまろう教授によると、その起源は19世紀末の米国で生まれた「ポピュリスト(人民)党」です。
 石油や鉄鋼などの分野で巨大企業が富を独占した時代で、貧富の差は広がりましたが、2大政党の共和党と民主党は、人々の声を聞き入れませんでした。ポピュリスト党はその不満をすくい上げ、政治を人々の手に取り戻そうと主張。大統領選挙でも一部の州で勝利しました。
 ポピュリスト党はその後すぐに消えましたが、政治手法としては南米の国々に引き継がれ、福祉の充実など労働者寄りの政策が充実しました。水島さんは「政治の目が向きにくい人々の声を取り入れようとするのはポピュリズムの良い面」と評価します。いま欧米で支持を集めているのも、経済や教育の面で広がる格差が背景にあります。
 水島さんはポピュリズムを「民主主義と切っても切り離せない存在」と表現します。選挙で勝利したり、国民投票をして多数の支持を集めたりすることで、主張の実現を目指すからです。主張の中身が事実と異なると批判されても押し通し、「本音を言える指導者」に見せようとします。
 ポピュリストは少数者の声や反対意見には耳を貸さないため、支持者と反対派との間で分断が広がります。水島さんは「必要なのは人々の『結び』。違う立場の人がつながり、理解し合うことが大切」と話します。

 【ポピュリズムが注目されそうな選挙】

3月にオランダで総選挙、4、5月にフランスで大統領選挙、9月にドイツで総選挙があります。どの国でもポピュリズム政党やその指導者が支持を集めるのではと予想されています。

ヨーロッパの地図。イギリス、オランダ、フランス、ドイツが強調されている

オランダのウィルダース党首、ドイツのペトリ党首、(1人おいて)フランスのルペン党首が並んだ写真
(左から)オランダの「自由党」ウィルダース党首、ドイツの「ドイツのための選択肢」ペトリ党首、(1人おいて)フランスの「国民戦線」ルペン党首
(C)朝日新聞社

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