朝日中高生新聞
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1面の記事から

「フクシマ」を発信  未来への架け橋に

2016年12月18日付

原発事故と向き合う中高生たち

 2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所の事故から6回目の冬を迎えた福島では、まだ8万人以上が避難しています。原発の廃炉には30年以上かかり、費用が膨らみ続けるなど出口は見えません。県内の中高生たちは世界から注目される「フクシマ」と向き合い、未来へとつなげる発信を続けています。(猪野元健)

放射線を研究、海外にも実態伝える

県立福島高 スーパーサイエンス部 物理放射線班
「事実を知って」線量調査を継続/「しっかり説明できる大人に」

 福島市の県立福島高校。スーパーサイエンス部の物理放射線班(13人)を訪ねると、生徒のスマートフォンに箱型の装置がついていました。「放射線量を計測する線量計です。体にも同じものをつけています」とあやさん(2年)とくまがいりささん(2年)。目に見えない放射線に普段どれくらいばくしているのかを継続的に記録。より正確な値を求めるため、携帯電話が線量計の測定値に影響を与えていないかも調べています。
 放射線班は、放射線の研究を通じて、国内外に福島の現状を伝えています。「3・11」後、放射線に対する不安から発足。学校グラウンドの土壌汚染を調べ、農家に風評被害を聞き、避難区域の町にも取材してきました。
 「フクシマに人が住めるの?」。2年前、交流先のフランスの高校生から質問されたことにショックを受け、放射線の実態を詳しく調査することに。県内(避難区域以外)と県外、ヨーロッパの高校生ら216人の協力を得て、被曝している放射線量はどの地域もあまり変わらないことを証明しました。成果は英国の論文誌に掲載され、今年2月には助言を受けた東京大学のはやりゅう教授と東京都内の日本外国特派員協会で、10月には横浜市で開かれた九都県市首脳会議で発表しました。
 「福島の復興を考える上で、風評被害も原発の廃炉も、放射線と切り離すことはできません。事実を知ってほしい」とすずろうさん(2年)。
 原発事故が発生した時は小学生。不安になる親を見て放射線に関心を持ちましたが、中学校に入ってもわからないことが多く、放射線班に入りました。鈴木さんは「社会的な問題としてもサイエンスとしても研究する価値がある」と話します。
 11月、放射線班などの13人が福島第一原発を2時間にわたりバス見学したことでも注目を集めました。18歳未満が事故後に構内を見学するのは初めてだったためです。廃炉の様子や学んできたことを目で確かめる目的で、専門家や東京電力から話を聞くなど事前学習を重ねてきました。
 原発見学が報道されると、研究への励ましとともに、「高校生が危険にさらされている」などという声も寄せられました。放射線は、科学的に安全とされる範囲でも、人によって受け止め方はさまざまです。生徒は根拠のない批判に傷つくこともありますが、「見学による外部の被曝線量は、胸部のX線撮影1回で被曝する線量の約10分の1だった」と説明できます。事前に想定していた通りでした。
 のりさん(2年)は「廃炉は長い戦いで、自分も向き合っていきたい。福島のことをしっかり説明できる大人になる」と話しています。

生徒が持ち歩いている線量計の写真
生徒が持ち歩いている線量計

避難先で見つめ直した故郷

福島県双葉郡8町村の学校がサミット

 福島第一原発がある福島県ふた郡8町村の学校が、故郷を見つめ直し、その魅力や復興へ向けた取り組みを発表する3回目の「ふるさと創造学サミット」が3日、福島県こおりやま市で開かれました。小中高の約270人が学習の成果を披露しました。(猪野元健)

シリアの子とビデオ交流

 双葉郡は避難区域に指定されている地域が多く、6町村の学校が別の地域に移っています。
 双葉町立双葉中の3人が発表したのは「シリアについて知っていますか」。シリアの文化や内戦で国内外に1千万人以上が避難していることを説明し、福島との共通点をあげました。①2011年から5年以上の避難が続いている②住む場所を奪われ、仕事を失った人がいる③仲の良かった子どもたちがばらばらになった――などです。
 双葉町には福島第一原発が立地し、全町民が避難を続けています。双葉中は40キ  ロ以上離れたいわき市で学校を再開しましたが、生徒は200人から12人に減りました。
 シリアの学習は今年3月から始め、支援者を通じてトルコに避難する家族の映像を見せてもらいました。同世代の子どもが「シリアに帰りたい」と話す一方で、将来のためにトルコ語を学び、趣味の楽器を演奏会で披露するなど前を向く姿がありました。生徒は自分たちも避難先で友達との仲が深まるなど、ただつらいだけではないとあらためて感じたといいます。
 わたしげきよさん(2年)は発表をこう締めくくりました。「シリアの人たちも僕たちも故郷に安心して帰れません。それでも希望を捨てずに生きている人々に心動かされ、世界の人々が手を差しのべてくれるようになりました。世界の絆を強くしたともいえます。互いに手を取り合い、協力して活動したいと思いました」
 双葉中とシリアの避難者は、ビデオメッセージで交流を続けます。

人口の増やし方をプレゼン

 はる町で授業を続けるかつら村立葛尾中の12人は、村の人口を増やす方法を考えました。6月に大部分で避難指示が解除されましたが、帰還したのは約100人。子育て世代が戻らず、学校の再開は2年後という現実があります。生徒はハンググライダーなどが体験できる「飛ぶ!道の駅」を観光の目玉として建設、住みたい人に土地を無料で提供し、デザイナーズマンションを格安で売る提案をしました=写真。
 ふるさと創造学サミットの実行委員長で、葛尾小のみのる校長は「両親や祖父母が育った地域のことを学んで歴史をつなぎ、ふるさとを支える人材に育ってほしい」と話していました。

 【東京電力福島第一原子力発電所の事故】
 2011年3月11日に東日本大震災が発生。地震による津波が福島第一原発をおそい、4基が爆発などで壊れて大量の放射性物質が外にもれた。世界的にも史上最悪レベルの原発事故。福島県によると、16年11月現在の避難者は県内外で8万3千人。経済産業省は今月、原発事故の処理費が、従来想定の約2倍の21.5兆円に膨らむとの試算をまとめた。最終的には電気料金を通じて集められ、国民の負担が増す。

東京電力福島第一原子力発電所の写真
(C)朝日新聞社

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