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2016年10月9日付
今年のノーベル医学生理学賞に、東京工業大学栄誉教授の大隅良典さん(71)が選ばれました。授賞理由は「オートファジーのしくみの発見」。日本人の単独受賞は、自然科学系では1987年に医学生理学賞をとった利根川進さん以来です。日本の受賞は3年連続で25人目。医学生理学賞は2年続けて4人目です。
「人がやっていないことをやる」。受賞が決まった3日夜、大隅さんは記者会見で、研究に対する信条をこう話しました。
研究テーマのオートファジーは、ギリシャ語で「自分を食べる」という意味。生物を形づくる細胞の中で、自分自身のたんぱく質をリサイクルするしくみです=図とメモ参照。
たんぱく質は、呼吸や体を動かすことなどに使われ、ヒトを形づくる細胞一つひとつの活動に欠かせません。筋肉や皮膚などの主な成分でもあります。このたんぱく質が足りなくなると「リサイクル」が始まります。菌類から植物、ヒトまで、細胞に核をもつ生物(真核生物)すべてに共通する機能です。
こうした現象は1950年代から知られていましたが、そのしくみはわかっていませんでした。大隅さんは単細胞の微生物、酵母の「液胞」に着目。当時は誰も見向きもしなかった器官です。地道に研究を続けて88年、世界で初めて、光学顕微鏡でオートファジーを観察しました。93年には、オートファジーに欠かせない遺伝子を14種類、見つけました。
研究は世界中に広がり、酵母以外の生物でも現象が確認されました。細胞の中をクリーニングすることや、病原体を消化する新たな役割もあることが明らかになりました。
今後は、アルツハイマー病やパーキンソン病の解明に役立つと期待されています。神経細胞に異常なたんぱく質がたまることが原因の一つとされ、細胞のリサイクルがカギになるためです。がんなど様々な病気の解明や治療法の開発にもつながりそうです。
会見では、中高生に向けて「自分の興味を探すのは難しいけれど、『あれ?』と思うことは世の中にはたくさんあります。そういう気持ちを大事にして」とメッセージを送りました。(寺村貴彰、松村大行)
オートファジーのしくみ まず、細胞の中に膜ができる。膜がたんぱく質やミトコンドリアなどの小器官を取り囲むと、分解酵素を持つ「リソソーム」と合体。胃が食べ物を消化するようにたんぱく質が分解され、新しいたんぱく質の材料やエネルギーに。
イラスト・やないゆうじ
おおすみ・よしのり 1945年、福岡県生まれ。東京大学教養学部を卒業後、74年に同大学院で理学博士を取得し、米ロックフェラー大学研究員に。東大教養学部助教授に就任した88年、オートファジーの観察に世界で初めて成功した。東京工業大学特任教授を経て2014年、同大栄誉教授。
受賞の喜びを語る大隅良典さん=3日、東京都目黒区の東京工業大学、近藤理恵撮影
記事の一部は朝日新聞社の提供です。