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2016年8月7日付
広島、長崎への原爆投下から71年。盈進中学高校(広島県福山市)の生徒たちは、被爆者の体験を聞き取り、思いを受け継ぐ活動を続けています。被爆者たちの願いは、5月に現職のアメリカ大統領として初めて広島を訪問したバラク・オバマ大統領が呼びかける「核なき世界」と重なります。(編集委員・別府薫)
7月最後の週末、世界遺産の原爆ドーム前で署名を訴える中高生の姿がありました。「核廃絶の署名にご協力をお願いしまーす」「署名はすべて国連に届けます」。盈進中高ヒューマンライツ部の20人です。
部長で5年間署名活動を続けている高橋和さん(高2)は「署名集めはネットでもできるけれど、この季節に街角に立たないと分からないことがある」と力を込めます。高2の作原愛理さんは「71年前もこんなに暑かったのかな、川を死体が流れていたのかな、地面の下には今も骨が埋まっているのかなと想像します」。
あたたかく声をかけてくれる人もいれば、「そんなことをして何になる」となじられることもあります。「違う意見にも耳を傾ける。それが相互理解の第一歩」と部員たちは考えています。
ヒューマンライツ部は名前が示す通り「人権(ヒューマンライツ)」について考える部活動。被爆者、ハンセン病の元患者、沖縄戦の体験者への聞き取りなどを続けています。
昨年8月、当時の部長、橋本瀬奈さん(高3)が日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)の集まりで、広島の原爆で亡くなった曽祖父について、調べたことを話しました。警察官だった曽祖父は、爆心地で敵機の監視業務中で、遺骨も残っていません。
「会ったことはないけれど、父とよく似たひいおじいちゃんの写真を見て親しみがわきました」と橋本さん。「被爆者の方は『同じ過ちを繰り返してはならない』と体験を語る。幼い子を残して死んだひいおじいちゃんも、同じ思いなのかな」
橋本さんの話に心を動かされたのが、日本被団協代表委員の坪井直さん(91)です。今年の春、生徒たちの聞き取り活動に応じてくれることになりました。話は、被爆体験から、「ピカドン先生」と名乗った中学教師時代、世界に向けて核兵器廃絶を訴え続けた日々へと広がりました。
オバマ大統領の広島訪問が決まったとき、作原さんは大統領に宛てて英文の手紙を送り、被爆者、なかでも「坪井直さんに会って直接話を聞いてほしい」と訴えました。
オバマ大統領と坪井さんの対面を作原さんは式典会場で、多くの部員はテレビで見守りました。坪井さんは謝罪を求めず、握手を交わしました。
坪井さんの話を冊子にまとめる作業を進めている高橋悠太さん(高1)は、その気持ちが分かったような気がしました。坪井さんのこんな言葉を思い出したからです。
「意見が違っても『俺もお前も人間じゃないか』、そう言って手をつなぐ。ネバーギブアップ(あきらめない)」
部員たちが聞き取った坪井さんの半生は、今週号から始まる連載「にんげん坪井直」(全4回の予定)で報告してもらいます。
記事の一部は朝日新聞社の提供です。