朝日中高生新聞
  • 日曜日発行/20~24ページ
  • 月ぎめ967(税込み)

1面の記事から

不安消える日は、いつ? フランス・パリで同時テロ

2015年11月22日付

近郊で生活する日本人中高生は

 フランスのパリで13日夜(日本時間14日早朝)、コンサートホールやサッカー場などを標的とした同時多発テロ事件が起きました。約130人が亡くなり、約350人がけがをしました。過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出し、フランス政府もISが計画したとの見方を固めました。

サッカー観戦で事件に遭遇の同級生も/「戦争」に現実味が…

 パリやその近郊には日本人も数多く暮らしています。多数の犠牲者が出たコンサートホールから13キロほど離れたブーローニュ市の中高生に、今の思いを聞きました。

ひらさん(高1)
 週末はパリのデパート、映画館、マルシェ(市場)なども閉鎖されました。人が集まる場所、地下鉄やバスは危険性が高いので、多くの人は外出しなかったようです。
 学校は月曜から通常通りありましたが、校内は緊張感が漂い、泣いている生徒もいました。同級生の中にも、フランス対ドイツのサッカー親善試合を見に行き、事件に遭遇した人たちがいます。強い爆発音がして異常事態と察し、パニックになったそうです。幸い無事でしたが、いまだに恐怖におびえています。
 パリでは1月に新聞社「シャルリー・エブド」が襲われました。今年2度もテロ事件があり、特に今回は無差別に大量の市民が殺されて、大変な恐怖、悲しみとなっています。明日、どこかで何かが起こるかもしれないという不安の中に私たちはいます。
 フランスは多民族国家で、多文化、多宗教の社会です。お互いを尊重し合い、共存していくことがとても重要であり、また難しい問題だと感じています。

弟のともさん(中1)
 みんな危機感を持って行動しています。今は、友達と道で待ち合わせをしたり、登下校時に正門の外で友達と話をしたりすることもできません。登下校にバスを使わず、歩く人もいるようです。
 今回のテロで一般市民が犠牲になり、僕は戦争をイメージしました。これからも「やったらやり返す」ということが繰り返されていくのではないかと考えると、とても不安です。現実味のなかった戦争が、本当にぼっぱつしてしまうのではないかと心配な毎日です。
 誰もが不安や恐怖の中で生活しています。僕はテニスと卓球を習っているのですが、すべて中止となりました。早く通常の生活ができるようになってほしいです。

厳戒の中、多くの市民巻き込む

ISが犯行声明、首謀者死亡

6カ所でほぼ同時刻
 テロはほぼ同時刻に、パリ市内と近郊の計6カ所で起きました。最も多くの犠牲者が出たのはコンサートホール「ルバタクラン」でした。米国のロックバンドのライブに1500人が集まった中、黒装束の犯人らが乱入して自動小銃を乱射。89人以上が亡くなりました。警官隊が突入すると、犯人は自爆装置を起動させました。
 パリ郊外のサッカー場ではフランス対ドイツの親善試合が開かれていました。数万人の観客が訪れ、オランド大統領の姿もありました。試合前半、競技場入り口付近で3人が自爆し、通行人が巻き込まれました。
 この他にカフェやレストランも標的となりました。パリでは今年1月に風刺新聞シャルリー・エブドが襲撃される事件があり、厳戒態勢が敷かれていましたが、またも事件は起きてしまいました。オランド大統領は国境封鎖を命じ、非常事態宣言を出しました。

「拠点」に突入、銃撃戦
 ISは14日、ネット上の映像で犯行声明を出しました。仏政府はISが計画を立て、戦闘員に実行させたとの見方を固めました。
 犯人たちは周到に計画を立て、隣国のベルギーで準備し、パリで3グループに分かれて犯行に及んだとみられます。13日に死亡した7人と合わせ、少なくとも18人の関与が疑われます。
 フランスやベルギーで大規模な捜索が行われ、18日にはパリ近郊サンドニで、犯行グループの拠点とみられるアパートに警官隊が踏み込み、銃撃戦となりました。仏司法省は19日、テロ事件の首謀者でベルギー人容疑者(27)の死亡を確認したと発表しました。容疑者はISのメンバーでした。

IS打倒に向け連携
 フランスはISとの全面対決を決め、15日から米国と連携して、ISが首都と称するシリア北部のラッカを空爆しました。ロシアもこれに協力し、ラッカを空爆しました。
 シリアは、アサド政権と反体制派とISによるどもえの内戦状態にあります。米国主導の有志連合は反体制派を、ロシアはアサド政権側を支援する立場です。
 シリア和平について米ロなど17カ国の外相らが14日にウィーンで開いた協議は、アサド政権と反体制派が参加する「移行政権」発足の目標を6カ月以内とすることで合意。当事者であるアサド政権や反体制派は不在でしたが、初めて明確な日程目標を定めました。
 オバマ米大統領とロシアのプーチン大統領も15日にトルコで会談し、停戦とシリア人主導での政権移行が必要との認識で一致しました。
 今回の同時多発テロをきっかけに、ISやシリアをめぐる動きは新たな段階に入っています。

閑散とする通りの写真
テロの影響でクリスマスマーケットが休止になり、閑散とする通り=15日、パリ
(C)朝日新聞社

パリ同時多発テロの発生場所の地図
(C)朝日新聞社

なぜフランス? 国際的な影響は?

 なぜフランスでテロが起こったのでしょうか。今後、国際社会にどんな影響があるのでしょうか。専門家に聞きました。
(沢辺雅俊、八木みどり)

狙いが不明確、過剰反応しない

シリア政治やISの動向に詳しいたかおかゆたかさん(中東調査会の上席研究員)
 ISが犯行声明を出しましたが、組織としてどの程度関わったのかは不明です。テロであるなら、目的は何か、IS側から説明がなくてはならないはずですが、具体的な説明がないままです。
 9月にフランスがシリアでISへの空爆を始め、その報復かという見方もありますが、ISはフランスだけでなく60カ国以上を攻撃対象とする声明を出しています。別の国で別の時期に事件が起きても、「空爆が理由」「ISを攻撃する有志連合メンバーだから」とこじつけできるので、空爆説は説得力がありません。
 ISはシリアやイラクでは今年1月をピークに衰退していると私は見ます。地元の人にも有害な存在でしかなくなっています。
 各国は、詐欺まがいの送金や殺人といった犯罪行為を警察の力などでつぶしていくべきです。同時に、テロに訴えなくても政治的な目的を達成したり主義主張を唱えたりできる社会やルールを定着させていくべきです。
 今後、日本国内というよりは、海外の日本大使館や日本人の駐在事務所などが標的になる危険があります。大事なのは過剰反応しないこと。テロであからさまに行動が変わる国は、逆にテロを招き寄せてしまいます。

移民の多い国、社会に不満も

フランスの移民問題に詳しいすずのりさん(東洋大学社会学部准教授)
 フランスは1970年代初めまで、かつて植民地だった国々などから労働者を受け入れてきました。
 フランス国立統計経済研究所によると、移民の数は約571万人(フランス国籍を取得した人を含む)。人口の約8.7%に上ります。
 フランスで生まれ、フランス語を話す移民2世、3世も今ではたくさんいます。しかし、イスラム系の移民が多く住んでいる地域の中には治安が良くない場所もあることから、こうした場所に住んでいることや、アラブ系の名前であることが、就職で不利になることもあるそうです。
 イスラム系移民の中でも、テロリストになっているのはほんの一部の人たちです。「なんでこの状況から抜け出せないんだ」という絶望感が、社会に対する怒りに変わってしまう要因になっています。
 ヨーロッパでは、シリアなどから流入している難民の受け入れが大きな課題となっています。今後は難民の受け入れ審査が厳しくなる可能性もあるでしょう。

過激派組織「イスラム国」(IS)とは

「国家」だと一方的に宣言

 元はイラクを中心とするイスラム過激派の武装組織で、シリア内戦に乗じて勢力を拡大。昨年6月、イラク北西部からシリア東部の一帯に、イスラム法にもとづく国家をつくったと一方的に宣言し、世界各地でテロを起こしています。国際社会は国として認めていません。米国主導の有志連合は昨年8月から、ISへの空爆を続けています。
 今年1月にはフリージャーナリストのとうけんさんら日本人2人が、ISの人質となって殺される事件が起きました。
 最高指導者のアブバクル・バグダディ容疑者は、イスラム教の預言者ムハンマドの「代理人」を意味する「カリフ」を名乗ります。ISのねらいの一つは、カリフによる政治体制を復活させて、イスラム教を厳しく守る社会を実現することです。
 ISはインターネットを使った宣伝にもたけています。北アフリカや中東、欧米からも多くの若者が加わり、国際問題となっています。

ISの支配地域の地図と対IS空爆を行っている国々とISの関連が疑われるテロ事件の表
(C)朝日新聞社

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