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2020年8月30日付
新型コロナウイルスの影響で、学校に行けなくなったり、外に出かけられなくなったりする日々が続きました。日本のみならず、世界中が同じ危機に直面しています。手洗いができなかったり、教育を受けられなくなったりしている子どもたちもいます。世界の現状を聞きました。(小勝千尋)
新型コロナウイルスや、それに伴う感染防止対策は、世界中の子どもたちに影響を与えています。
日本ユニセフ協会の林茉以子さんは「子どもたちを取り巻く問題は以前からありますが、新型コロナウイルスの影響を受け、さらに深刻になっています。特に、最貧困層の子どもたちに影響を及ぼしています」と話します。
問題点として、林さんは四つあげます。一つ目は、手洗いなどの「公衆衛生」の問題です。日本では、各家庭に水道やせっけんがあり、手洗いできるのが当たり前ですが、世界を見ると、その環境は誰もが手にできるものではありません。
ユニセフ(国連児童基金)によると、世界の30億人の家には、せっけんや水道がありません。特に途上国では、人口の4分の3が手洗い設備を持っていないといいます。「手洗いは、自分も周りの人も守ることができる安価で効果的な手段です。その基本的な対策にすら手が届かない人たちがいます」
二つ目は「教育」です。日本でも休校が続きました。今も、世界の100カ国以上で休校が続いています。
遠隔での授業が世界中で行われ、インターネットやテレビ、ラジオなどが使われていますが、設備の格差が浮き彫りになりました。遠隔授業で最も多く活用されているインターネットが使える家庭は、世界で半数未満です。テレビやラジオの所有率が低い地域では、教育を受けられない子どももいます。
学校給食がなくなることで、栄養面も心配されています。一日の栄養を給食に頼っていた子どもが何百万人もいます。また、女の子にとっては給食が学校に行く理由になっていることも多いそうです。「給食がなければ教育の必要はないと、親が学校をやめさせてしまうケースも増えています。すると、経済的な理由から児童労働や児童婚が起こりやすくなります」
三つ目は「保健サービス」です。予防接種を受けられない子どもが増えています。5月の時点で、はしかのワクチンは27カ国、ポリオは38カ国で中断されました。
国としてサービスをやめてしまっているほか、外出を控える人が増えたり、交通手段が断たれてしまったり、経済的に費用が出せなくなったりしたため、接種する子どもが減っているといいます。すると、ワクチンを打てば防ぐことができる病気で、命を落とす可能性が出てきます。
四つ目は「暴力のリスク」の問題です。子どもたちが家庭で過ごす時間が増えることから、家庭内暴力の増加が心配されています。「ソーシャルワーカーの家庭訪問も中止され、被害に遭う子どもなどが助けを求める場も、動けずにいるようです」と林茉以子さんは話します。
ユニセフは、こういった問題点を解決するために、手洗いや遠隔授業の設備を整えたり、ワクチンや子どもを守るためのサービスを充実させたりしています。
林さんは「世界中が同じ危機に直面するということは、なかなかありません」と話します。災害や紛争はそれぞれの地域で起こるためです。「すべての人が被害を受け、自分のこととして考えています。他の国にも目を向ける人が増えている印象です」
ただ、現地に行ったり、ボランティアをしたりするのは難しい状況です。「まずは、現地の今の声を聞いてください。多くの人が声を届けようと発信しています」と、林さんは中高生に向けて訴えます。
「新型コロナウイルスは、世界全体で闘わないと収束に向かいません。自分や周りの人の健康を守ることが、世界の人々の生活を守ることにつながります」
記事の一部は朝日新聞社の提供です。