朝日中高生新聞
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  • 月ぎめ967(税込み)

1面の記事から

高校生活、 やっと…

2020年6月7日付

 新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言が解除され、1日から首都圏など各地で学校が再開しました。政府の休校要請から約3カ月。感染対策で、休校前と比べると学校生活は大きく変わりますが、「日常」に向けた大きな節目となりそうです。(猪野元健)

「密」避けて学校始まる

 東京都立くにたち高校(国立市)では1日、1年生(319人)の入学オリエンテーションが体育館で行われました。感染対策のため全員がマスクを着用。2メートルずつ離れて椅子に座りました。新しい上靴をはき、やや緊張した表情で、校長先生のあいさつや、1年生を担当する先生の発表などを聞きました。
 体育館には「入学式」の横断幕があり、壇上の先生からは「やっと伝えることができます。入学おめでとう」と祝福の言葉が続きました。入学式は4月7日に開かれる予定でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて前日の夕方に急きょ中止が決定。新入生の歓迎会も開かれないままでした。高校は入学を祝う気持ちが少しでも伝わるようにと、横断幕を掲げたままにしたそうです。
 1年生全員が顔を合わせたのは、この日が初めてです。LINEグループをつくったり、自己紹介をしたりして交流を深めました。生徒の一人は「あこがれていた高校生活。新しい生活がスタートしたと、やっと実感できた。行事や部活動に参加できるようになる日が楽しみ」と話しました。
 都立の高校では「密」を防ぐため、14日までは週1~3日の登校、在校時間は半日程度、1学年のみの登校になります。国立高校では、1学級を二つに分けて授業をし、歌の練習や体の接触がある活動は控えます。オンラインを使った授業の取り組みも強化しながら、時間とともに登校の日数や在校時間を増やしていきます。
 副校長のきたざわよしひろ先生は「学校を続けるために、校内で感染者を出さないことが何より大事。授業時間をどのように確保していくかなど課題は多い」と話します。

6月に多くが再開 一方で再び休校も

 政府が全国すべての中学校や高校などについて、春休みまでの臨時休校を要請したのは2月27日でした。99%の学校が休校を決め、4月の緊急事態宣言により新学年になっても多くの学校が休校を続けました。
 6月に入ると、首都圏や京阪神、北海道などでも多くの学校が再開。一方、5月25日に再開した福岡県北九州市の小学校ではクラスター(感染者集団)が発生したとみられ、再び臨時休校になりました。
オリエンテーションに臨む東京都国立高校の1年生の写真

生徒間の距離を空けて座り、オリエンテーションに臨む東京都立国立高校の1年生。入学式は中止になりましたが、横断幕はこの日も掲げられていました=1日、東京都国立市

新しい学校生活 過ごし方のヒント

衛生管理

 緊急事態宣言の解除で、各地の学校が1日までに再開。文部科学省は学校再開にあたり、「学校の新しい生活様式」と名づけた衛生管理のマニュアルを出しました。学校生活は、どのように変わるのでしょうか。(近藤理恵)

手洗いの徹底、マスク着用
地域の状況に合った距離

 マニュアルは、文科省が感染症対策の専門家らと話し合ってまとめました。今後、感染症とともに社会で生きていかなければならないことを前提に、学校でも「三つの密」(密閉、密集、密接)を避けた「新しい生活様式」を取り入れる必要がある、としています。
 学校がある地域ごとの感染状況を1~3のレベルに分け、行動の基準を示しています。どのレベルにあたるかは、教育委員会などが自治体の衛生部局と相談して決めます。
 人との距離については、レベル1では1メートル、レベル2と3ではできるだけ2メートル取るよう求めています。
 学校でも手洗いを徹底し、基本的にマスクを着用します。ただし、体育の授業では必要ありません。給食を食べる時など、マスクを外すときは、ゴムやひもをつまみ、指にウイルスなどが付かないように気をつけます。なるべく表面をさわらず、内側を中にして折りたたみます。外側と内側がわからなくならないように気をつけて、清潔に保ちます。持ち物は「清潔なハンカチやティッシュ」「マスク」「マスクを置く際の清潔なビニールや布など」です。
 発熱など風邪の症状があれば、自宅で休みます。学校に入る前に体温を測り、体調を聞かれることもあるかもしれません。
 部活動は、地域のレベルによって取り組み方が異なります。レベル3の場合、なるべく個人での活動をすすめます。密集する運動や、近距離で組み合ったり接触したりすることが多い部活は行わないようにします。

運動中のマスク

 体育の授業や部活動も再開されます。これから暑さが増す中、運動系の部活の練習や自分でトレーニングをする場合、マスクは必要なのでしょうか。救命救急医は、マスクが熱中症や突然死のリスクと結びつく可能性を指摘します。こまめに水分を補給し、徐々に暑さに体を慣らしながら、元の運動量に戻していくことをすすめます。(小貫友里)

感染リスク低い環境では不要
体に熱がこもり危険/こまめに水分補給

 大阪府堺市立総合医療センターの救命救急医、いぬかいこういちさんは「地域の感染状況が落ち着いていて、人と2メートル以上間隔がとれる屋外であれば、運動をするときにマスクをつけないほうがいい」と話します。
 まず、熱中症のリスクがあります。熱中症は、体にこもった熱が心臓などの臓器に負担をかけることや、体が脱水症状になることで起きます。マスクをつけると口から熱が逃げず、体にこもりやすくなります。また、口の中の湿度が保たれるため口が渇きにくく、水分摂取が進みません。
 さらに、突然死のリスクを上げる恐れもあると犬飼さんは指摘します。
 中国では4月中旬以降、感染が落ち着いた地域から、中学校や高校が再開しました。すると、マスクをつけて運動していた生徒が体育の授業中に死亡したり、けがをしたりする例が相次ぎました。
 運動中の突然死はもともと、心肺機能が発達途中で、健診では見つかっていない心臓の病気の可能性がある小学4年生から高校生にかけた年代で起きやすい、とされています。マスクをつけることで呼吸しにくくなり、心肺機能には負担がかかります。「マスクそのものが突然死を引き起こすのではなく、マスクが体への負荷を強めたことで、頻度が上がったのでは」と犬飼さんはみています。
 感染を予防しながら安全に運動するには、いきなり100%の力で運動しない▽こまめに水分を補給する▽体を徐々に暑さに慣らすこと、が大切です。
 休校中は室内にいる時間が長かったため、体力が落ちていたり、夏に向けて徐々に暑さに強くなる体の仕組み(しょねつじゅん)が十分でなかったりする人が多いと考えられます。
 気象庁は、今年の夏は平年よりも暑くなるという予測を発表しています。少しでも気分が悪い、目まいやふらつきなど、いつもと調子が違うと感じたら、すぐに涼しい場所で休憩し、水分をとってください。練習はなるべく涼しい時間帯に行いましょう。
 「室内でも、水分補給はこまめにしてほしい。授業中でも、ためらわず水分補給できる雰囲気が学級全体にできるといいですね。リスクを想定しながら、徐々に元の生活に戻していきましょう」と犬飼さんはアドバイスします。

熱中症予防のため、水分を補給しながら練習する選手の写真
熱中症予防のため、水分を補給しながら練習する選手=2019年6月、和歌山県紀美野町
(C)朝日新聞社

暑さに強い体づくりを
 犬飼さんは「暑熱順化トレーニング」の方法をウェブサイト(https://note.com/hespen/n/n6bbcda344ba3)で公開しています。

気持ちの整理

 感染を広げないため、新しいルールが設けられたり分散登校したりと、これまでの学校生活とは大きく変わっています。中には、新しい環境にとまどい、学校に行きたくないと思う人もいるかもしれません。学校心理学が専門の早稲田大学教育学部のほんけい教授に聞きました。(近藤理恵)

焦らずにゆっくり日常へ
不満・不安、抱えこまずに

 長い休校期間が明けましたが、本田さんは「日常はすぐに戻らない。3カ月間の休みを徐々に取り戻す気持ちでいてほしい」と言います。
 学校では、新しいルールが設けられることが多くあります。厳しい制限に不満を抱くかもしれません。本田さんは「不満は『怒り』へと変化する」と説明します。

学校づくりに参加

 「そうならないために、先生と一緒に『新しい学校を作っていく』という気持ちを持ってください。先生も初めてのことで手探りのはず。何かいい考えがあれば提案するなど、能動的に参加することが大切です」
 新しい学年が始まり、不安な人も多いでしょう。特に中学1年生や高校1年生は、まだ友達もできていなくて、心配になるかもしれません。早くなじもうと思う気持ちは当然ですが、「みんな状況は一緒です。無理に友達を作ろうとせず、焦らず、ゆっくり時間をかけて友達を見つけよう」と本田さん。
 新しい生活に適応しようとがんばると、疲れを感じたり、体に不調をきたしたりするかもしれません。それは決して珍しいことではない、と本田さんはいいます。

人に話してみよう

 「不満や不安なことがあれば、友達に話して気持ちを受け止めてもらうことをすすめます。学校に行くのが嫌だと思ったら、『何が嫌なのか』を具体的に考え、信頼できる大人に話しましょう。学校を休まずに、ある授業だけ保健室で休むことも、できるかもしれない。『少しでも自分が楽になる方法』を考えてみてください」

新しい学年が始まったばかりの学生のイラスト
イラスト・野田映美

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