朝日中高生新聞
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1面の記事から

2030 SDGsで考える

2020年4月5日付

今、進め! 未来のために 先輩のきっかけは高校時代に

 国連の掲げる「SDGsエスディージーズ(持続可能な開発目標)」を知っていますか? 2030年までの達成を目指す全世界の共通目標です。この課題に対し、動き始めた先輩たちがいます。「行動」のきっかけは、10代の身近な経験にありました。(猪野元健)

 新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、学校が臨時休校になり、外出も控えるよう求められています。厳しい状況が続きますが、新年度が始まるこの時期、将来について考えてみませんか。
 SDGsは2015年、国連に加盟する193の全ての国が賛成し、採択されました。「貧困をなくそう」「ジェンダー平等を実現しよう」など17の目標を定めています。30年までに達成しようと、「誰一人取り残さない」をキーワードに、世界中の人々が課題の解決に取り組んでいます。
 朝日中高生新聞は昨年4月、SDGsをテーマにした連載を開始。読者アンケートやワークショップの反響から、中高生がSDGsに高い関心を寄せていることが伝わってきました。課題の解決に向けて、身近なところから取り組んでいる人も多いかもしれません。一方で、SDGsをきっかけに新しい挑戦を始めるにはハードルが高い、という声もありました。
 高校生のうちに大きな一歩を踏み出し、今春新しい道に進んだ2人を紹介します。行動のきっかけや時間のかけ方はそれぞれ違いますが、自分のやりたいことを、楽しみながら挑戦している姿が見えてくるでしょう。

アパレル会社「Blanc.Cブランドットシー」を設立 たてひろさん(18)

舘野知紘さんの写真

きっかけ
高校が私服で服選びに悩んだ
→ 性別を問わないアパレルブランドを立ち上げた

5ジェンダー平等を実現しようのアイコン

ジェンダーフリーの服を世の中に

第一弾として作った白色のシャツの写真

作りたいから走り始めてみた

 「男らしさ」「女らしさ」の壁をファッションの分野からなくしたい――。たてひろさん(18)は、高校3年の時にアパレルブランドを立ち上げ、性別にかかわらず着られる「ジェンダーフリーデザイン」の洋服の販売を始めました。
 第1弾として作った白色のシャツは、しちそでで、前後で丈の長さが違い、背中のプリーツ(ひだ)が特徴。デザインについては男性でも女性でもないと自認する性的少数者の意見も聞きました。2月から3月にかけて東京で商品の展示会を開催し、初の受注がありました。

 栃木県出身。中学校を卒業後、進学した県立宇都宮女子高校は制服がなく、毎日着る服を考えるときに、不自由さを感じました。「メンズの服を着たいのに、お店に入りにくく、女性を意識したサイズもありませんでした」
 男女とも着られて、サイズが違う服だけを扱うメーカーを作りたい。こんなアイデアが2019年3月、栃木県の学生を対象にしたビジネスプランコンテストで1052件の中から最優秀賞を受賞しました。同年9月にアパレル会社「Blanc.Cブランドットシー」を設立しました。
 もともと起業して、人の役に立ちたいという思いがありました。美術部に所属し、絵を描くことやファッションも好きでした。「ただ、デザインも経営も素人しろうとで、自分の強みは何かわかりません。それが、走り始めたら、洋服作りや会社の設立を応援してくれる人がいました」
 同コンテストの審査員を務め、舘野さんの活動を支援する株式会社リバネスのまるゆきひろさんは、事業の構想を評価するとともに「『やりたい』という思いと『わからないから教えてほしい』という姿勢に、応援したいと思った」と言います。

SDGsと人と つながっていく

 高校1年の時、学校でジャーナリストによる講演会があり、国連の掲げる「SDGsエスディージーズ(持続可能な開発目標)」を初めて知りました。「こんな考えがあるのだと感動して、SDGsのポスターを自分の部屋にはったくらいです。でも、歯磨きをしながらながめている時、問題が広すぎて、何ができるかわからなくなりました」
 SDGsが頭から離れつつある時、自分の考えたビジネスプランがジェンダーの平等の実現に貢献できると気付きました。「やりたいことと目標をつなげて考えたら、行動しやすいですね」
 ファッションとジェンダーを学ぶため、英国の大学に留学する予定です。将来は性別を問わない制服を作るのが目標です。

LGBTやデザインの本の写真
LGBTやデザインの本を読み、勉強しています

横浜国立大学都市科学部1年 いりはるさん(18)

入江遥斗さんの写真

きっかけ
高校の生物の授業でSDGsを知る
→ 学生団体を設立し、普及の動画も作製

17パートナーシップで目標を達成しようのアイコン

動画でSDGsを広めたい

動画画面の写真
「Take action, Again.」
http://takeactionagain.mystrikingly.com/

若者には社会変革の力がある

 いりはるさん(横浜国立大学1年)は、高校生の時に社会の課題解決を目指す学生団体を設立。動画を作って、エスディージーを広める活動にも力を入れました。こだわったのは、より多くの人が参加しやすく、オシャレに取り組むことです。
 高校1年の生物の授業で、生徒同士でSDGsについて話し合う機会があり、衝撃を受けました。「社会問題に関心がありましたが、いつも難解な印象を受けてきました。それがアイコンになってわかりやすくなり、世界の問題を身近な生活に置き換えることもできました」
 その授業の後、SDGsに興味を持った友達と集まり、国連の文章を読み込み、学生ができることを話し合うようになりました。環境問題を考えるイベントに参加するなど活動の幅が少しずつ広がる中で、「同世代が協力すれば、社会を変革できる大きな力になるのでは」と考えました。

正しく広く発信 想像以上の反応

 2018年5月、学校という垣根を越えた学生だけの団体「50cm.」を立ち上げました。社会の課題解決のために、まずは半径50センチからできることを――。こんな思いで参加者をSNSで募ったところ、都内を中心に高校生100人以上が集まったといいます。
 想像以上の参加者数で、それぞれの学校の行事や部活などとのスケジュールの調整がうまくいきません。それでも、関心のある目標別のグループに分かれて、企業を訪ねたり講演会を聞いたりするなど、自発的に行動しました。「大きなイベントはできませんでしたが、高校生の可能性は感じた」といいます。
 誰もが行動しやすくするために、「高校生の社会貢献をださいと考える人のイメージを変えたかった」とも話します。SDGsを正しく、広く知ってもらうための動画をスマートフォンで製作。文字の動き、親しみやすい音楽、課題がすぐにわかるように工夫しました。作った2本の動画は、学校の教育現場で使われるなど、高い評価を受けています。
 活動を始めた時には不安がありました。社会問題に強い関心があるのは、きっと少数派。同じ思いを持つ仲間を見つけるのは難しい、と感じていたからです。「同じように『もやもや』を感じていた仲間が見つかったことは、自信になりましたね。自分が知らなかっただけで、行動している人はたくさんいました」
 4月に横浜国立大学の都市科学部都市社会共生学科に進学。SDGsの活動を通じて関心をもった「街づくり」を学びます。

「What’s SDGs?」はSDGsが2分でわかる動画画面の写真
「What’s SDGs?」はSDGsが2分でわかる動画。高校やNPO法人などで活用されましたhttps://www.youtube.com/watch?v=QyDqENGI6g0

SDGsとは

 エスディージーは「Sustainable Development Goals」の略です。日本語で「持続可能な開発目標」といいます。17の目標と、それらを解決する具体的な169のターゲットを定め、2030年までの達成を目指します。例えば、目標「1. 貧困をなくそう」のターゲットには「2030年までに、現在1日1.25ドル(約135円)未満で生活する人々の貧困をあらゆる場所で終わらせる」などがあります。教育にSDGsを取り入れる中学校や高校が増えています。

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