朝日中高生新聞
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1面の記事から

2030 SDGsで考える

2020年1月26日付

第10回「ジェンダー」
あなたの中にもある?! 性差別の目

 日本は153カ国中121位。何の順位だと思いますか?
 2019年の男女平等の度合いを示す「ジェンダーギャップ指数」の順位です。指数は前年の66.2%から65.2%へと後退し、順位は過去最低となりました。
 国連の掲げる「SDGsエスディージーズ(持続可能な開発目標)」には、2030年までに達成すべき目標の一つとして「ジェンダー平等を実現しよう」があります。「女の子だからこうしなさい」「男は男らしくあるべきだ」。そんなしがらみをなくすために私たちには何ができるでしょうか。男女格差をめぐる日本の現状と、性別の枠にとらわれない社会をめざす高校生や政治家の取り組みを紹介します。(前田基行、小勝千尋)

ジェンダー平等を実現しようアイコン

人や国の不平等をなくそうアイコン

パートナーシップで目標を達成しようアイコン

性別で決まる役割はない

 国際団体「世界経済フォーラム」が昨年12月、男女間の格差をはかる「ジェンダーギャップ指数」を発表しました。2019年の報告書によると、日本は男女平等ランキングで153カ国中121位。過去最低となりました。17年は144カ国中114位、18年は149カ国中110位と毎年低い順位が続いています。日本の現状について専門家に聞きました。

女性の政治家を増やすことが重要
男女問わず声を上げてこそ、変わる

 格差を調べるのは経済、教育、健康、政治の4分野です。日本は政治分野が前回18年の125位から144位に後退し、今回の順位に大きく影響しました。
 日本の女性の閣僚は、昨年9月の内閣改造まで1人。調査対象となる衆議院議員も女性は1割ほどです。一方、11年連続1位のアイスランドなど上位の国は、閣僚数、議員数ともに少なくとも4割弱が女性です。
 「女性の政治家を増やしていくことが重要です」と武蔵むさし大学社会学部教授(社会学)のせんさん。性差別だけでなく、セクハラや性暴力なども社会的な問題となっています。こういった課題を解決するには、地道な行動が必要です。女性の政治家が増えれば、福祉や性暴力に対して、具体的な政策が出てくるかもしれません。より厳格な法律を新しく作ることも大切だといいます。
 議員を選ぶのは私たち国民です。「日本では政治に関心を持つことがタブーのようにされていますが、自分たちの一票で国が変わる、政治で物事が変えられる、という実感を持たなければいけません」
 経済分野については、女性管理職の割合に関する指数が上昇し、前回の117位から115位になりました。国や自治体は「女性の活躍」を求めていますが、その背景の一つには、女性が活躍することで経済を発展させたいという考えがあります。
 一方で、賃金格差が依然としてあるなどの問題もあります。「正社員として働いていても、男性の方が賃金が高いことが多い。日本は女性が大学まで行っても、経済的な利益に結びつきづらい国」と千田さんは指摘します。ヨーロッパの国々では、同じ仕事をしている人には同じ賃金を払うことが原則です。

女性が働く環境に課題いっぱい

 1970年代以降、世界中で共稼ぎの家庭が増え、各国で女性の社会進出を支える制度の整備が進みました。日本でも共稼ぎ家庭は増え続けていますが、保育園が少ないなどの問題は解決されていません。
 2017年、米国のハリウッドから盛り上がったセクハラを告発する「#Me Too」運動をきっかけに、女性が声をあげるケースが増えてきたと千田さんはみています。日本では、職場で女性へのヒールやパンプスの強制をなくそうという「#Ku Too」運動も話題になりました。「ヒールが悪いのではなく、性別を理由に労働環境における差別が起きていることが問題。その意識もきちんと広まっていくことが必要です」
 女性が声をあげると「自分の実力不足を性別のせいにしている」などと批判されることも多くあります。しかし、男女平等を訴える「フェミニズム」自体は批判してはいけないとの考えが広まるなど、少しずつ世の中も変わり始めているといいます。
 中高生に向けて、千田さんは「自分の性別で自尊心を低くしないで」と訴えます。「男も女もなく、なんでもできると思ってほしいのです」

千田有紀さんの写真
千田有紀さん

 男女平等ランキングをまとめた画像

昭和女子大学附属昭和高校(東京都世田谷区)
かるた遊びで気づこう

 社会的な性差(ジェンダー)について、遊びを通じて学んでもらおうと、昭和女子大学附属昭和高校(東京都世田谷区)の生徒たちが子ども向けの「ジェンダーかるた」を作りました。「ジェンダー平等のカギは幼少期からの教育」との思いがあります。

幼少期から偏見を持たせない

 性差には「男だからズボン、女だからスカート」などと家庭や社会で教え込まれるものもあります。かるたを手がけたのは、こうした社会的な性差が、男女の不平等を生んだり、生き方をしばりすぎたりしていないかを学ぶ1、2年生10人。全校から文案を募るなどして昨年夏、約1年がかりで完成させました。
 「楽しいな 僕は折り紙 私はサッカー」「今日はパパのお弁当 家事は協力してやろう」。固定観念をくつがえすような文言と、やわらかいタッチのイラストで、子どもがイメージしやすいよう工夫しています。
 きっかけは、ジェンダー平等の先進国で知られるフィンランドを訪れたこと。政府機関や企業などを回り、Aさん(2年)は「ジェンダー平等が社会に根づいているのは、小さい頃からの教育が根底にあると思いました」。保育園などでは子どもたちを性別ではなく、一人の人間として尊重する様子をの当たりにしました。
 一方、日本では「幼少期、知らぬ間に性別による固定観念や役割分担が植え付けられている」と感じたといいます。こうして育った子どもが大人になり、自分の子にまた植え付ける、という悪循環を断ち切るため、遊びながら学べるかるたに着目しました。
 作る過程で、自分たち自身も固定観念にとらわれていると気付くこともあったといいます。絵札を担当したBさん(2年)は、女子トイレの標識を描くとき、ピンク色に手が伸びてハッとしました。「男の子は青、女の子はピンクというジェンダーバイアス(性的偏見)が無意識のうちにかかっていました」
 Cさん(2年)も「肌の色をみんな日本人に近い色にしていましたが、多様性を持たせた方が個人の尊重につながると考え、さまざまな人種の人を描くようにしました」。
 昨年夏、区内の児童館で小学生約15人と完成したかるたで遊ぶと「うちのお父さんは家事をお母さんに任せきり」「おばあちゃんから、女の子らしくしなさいと言われた」などの声が上がりました。
 Dさん(2年)は「ジェンダーについて2年間研究している私自身、気がつかないところで男女を区別して物事を考えていることがあります。固定観念を変えるのは本当に難しい」。Eさん(2年)は「ジェンダーばかりにとらわれるのでなく、自分がこう生きたいということを尊重するのが一番大事。生き方を考えるきっかけになった」と話します。

「妊娠なんかして覚悟が足りない」

 男女格差の中でも、特に日本は政治の世界での遅れが指摘されています。内閣府によると、全国の都道府県や市町村などの地方議会で、女性議員が占める割合は2018年末時点で1割程度。女性議員がゼロの市区町村議会も2割近くあります。なぜ、女性議員が増えないのでしょうか。

「政治は男性がする」という考え方が壁に
全国で出産議員に批判的な姿勢あり

 「『政治は男性がするもの』という固定的な考え方が日本には根強く残り、出産や子育てと議員活動の両立も難しいことが大きな壁になっています」。そう話すのは、東京都しま区議会議員のながひろさんです。
 永野さんは議員在任中の2008年と10年に出産しました。豊島区議会で現職の議員が出産するのは初めてでした。議会には産休の制度はなく、当時は区役所に授乳室もありませんでした。「議員が妊娠なんかして覚悟が足りない」。周囲からはそんな言葉も投げかけられました。
 地方議員の欠席については、各議会の規則で定められています。永野さんは規則の改正を提案しようと思いましたが、ほかの議員らから「必要ない」と言われ、かないませんでした。
 そこで全国の実態を調査すると、任期中に出産した地方議員は戦後70年余りで120~130人程度にすぎないことが分かりました。

家事、育児、介護…
誰もが両立できる仕組みを

 永野さんは同じような悩みを抱える全国の地方議員らに呼びかけ、17年に「出産議員ネットワーク」、翌18年に「子育て議員連盟」を発足しました。さまざまな党派の男女の議員らが参加しています。
 出産議員ネットワークは18~19年に、任期中に出産経験のある全国の議員ら103人にアンケートを実施しました(65人が回答)。「出産後、議員を続けられないと思ったり、次の選挙への不出馬を考えたりしたことがある」という項目に対し、「考えた」「やや考えた」と答えた人が4割近くにのぼりました。
 また、43人が妊娠や出産、育児の際に「批判的な言動を受けた」など不利益と思える扱いを受けたと答えました。
 「そもそも家事や育児の負担が女性に偏るなど、社会の構造や慣習に根差した見えにくい壁が女性の前には立ちはだかっています。家庭を犠牲にすることを女性に強いるのではなく、両立できる仕組みが必要です」と永野さん。女性議員が政治に参加しやすいよう環境を整えてほしいと、永野さんたちは全国市議会議長会などに要望を続けています。
 18年、国や地方の選挙で男女の候補者の数をできる限り均等にすることを政党などに促す「政治分野における男女共同参画推進法」(候補者男女均等法)が成立しました。女性議員を増やそうという機運は日本でも高まっています。多くの議会で出産に伴う欠席は認められるようになりましたが、男女を問わずに育児や介護をしながら活動しやすい環境づくりが課題となっています。
 永野さんは「議会は社会の縮図です。女性だけでなく、育児や介護と両立したい男性や、障がいのある人など、多様な人が参加しやすいような環境をつくっていくことが、民主主義のツールである議会のあり方として望ましい」と話しています。

女性閣僚多いヨーロッパ

 スペインは女性の閣僚が増えて、前年の24位から8位に躍進。順位を一つ上げたフィンランドでは昨年12月に34歳の女性首相が誕生し、閣僚19人のうち女性が12人を占めています。
 一方、日本ではこれまで女性の首相はいません。女性の閣僚は今回のデータを取った昨年1月の時点で1人だけでした。

政治分野のランキング

( )内は前回の順位

1(1) アイスランド
2(3) ノルウェー
3(2) ニカラグア
4(4) ルワンダ
5(6) フィンランド

8(24) スペイン

144(125)日本

世界経済フォーラム調べ

東京都千代田区の参議院議員会館で全国から集まった女性議員らと意見を交わしている様子の写真
全国から集まった女性議員らと意見を交わす永野裕子さん(奥左)=2019年12月26日、東京都千代田区の参議院議員会館

東浦町議会の様子を写した写真
女性議員の割合が愛知県内でも高い東浦町議会。昨年4月の統一地方選を経て、現在は議員16人中、女性は5人です=18年6月
(C)朝日新聞社

永野裕子さんの写真
永野裕子さん

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