朝日中高生新聞
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2030 SDGsで考える

2019年12月15日付

第9回「まちづくり」
ここに住み続けるために

 2030年までに解決すべき課題として、国連が定めた「SDGsエスディージーズ(持続可能な開発目標)」には「11.住み続けられるまちづくりを」が掲げられています。あなたが住んでいる街は「持続可能」でしょうか。
 日本をはじめとする先進国の都市の多くは、人口減少や高齢化に悩んでいます。働き手となる世代が減り、経済が縮小すると、道路や公共交通機関など、街のインフラを維持するのが難しくなります。空き家が増えるなど、すでに問題が出始めています。
 都市の人口が著しく増える「都市化」も世界各地で進んでいます。都市には仕事が集まり、医療や教育などを受ける機会に恵まれるため、多くの人を引きつけます。一方で都市人口が急増している途上国では特に、住宅不足や環境汚染、格差の拡大などの問題が深刻です。
 早くから対策にかじを切り注目される日本での取り組みを紹介します。

SDGs目標11住み続けられるまちづくりをロゴ画像

SDGs目標3すべての人に健康と福祉をロゴ画像

SDGs目標17パートナーシップで目標を達成しようロゴ画像

富山市の取り組みを見てみよう
人にも環境にもやさしい

 険しい山々が連なるたてやま連峰と、日本有数の漁場である富山湾に挟まれた富山市。SDGsエスディージーズの目標達成のため優れた取り組みを進めているとして、政府が2018年から選定する「SDGs未来都市」の一つです。一貫して続けてきた「コンパクトシティー」戦略を中心に、持続可能な街づくりを進めています。(松村大行)

拠点つなぐ公共交通
「串」で移動スイスイ

 富山市は都道府県庁所在地の中では静岡市に次いで2番目に面積が広い街です。他の自治体と同じく、人口減少や高齢化の問題も抱えています。現在約42万の人口が、30年には約38万にまで落ち込むと予測されています。65歳以上の人口が、25年には全体の約3割を占めると見込まれます。
 同時に、他の都市ではあまり見かけない光景も。街を歩くと、車と並ぶようにして次世代型路面電車(LRT)が行き交う姿が目に入ります。駅前のビルには、SDGsの17の目標を示すロゴが掲げられています。
 SDGs未来都市として、他の自治体のモデルになりうると評価されているのが、暮らしに必要な施設や機能を一定のエリアに集中させるコンパクトシティー戦略です。同じ試みを行っている米国のポートランドやオーストラリアのメルボルンなどに並び、世界の注目を集めてきました。
 広い面積の中で、一定の人口があって地域の拠点となりうるエリアを「お団子」に見立て、そこを「串」となる公共交通でつなぐ――。そんな「お団子と串」の街づくりを進めてきました。
 その顔となってきたのがLRTです。廃線になる予定だったJRの路線を引き継ぎ、06年に開業しました。役所、図書館、イベントホールなど、主要な施設をつなぎます。駅のホームと車両の出入り口との段差をなくすなど、バリアフリー化も進展。これまで南北で路線が分かれていましたが、来年3月にはそれもつながり、利便性が高まります。

富山の街中を走る次世代型路面電車(LRT)の写真
富山の街中を走る次世代型路面電車(LRT)

駅前に掲げられたSDGsのロゴを撮った写真
駅前に掲げられたSDGsのロゴ

水辺の景観を生かした街並みの写真
水辺の景観を生かした街並み

24時間自由に使えるシェアサイクルの写真
24時間自由に使えるシェアサイクル=どれも11月、富山市

お得に健康になれる
歩きたくなる仕掛け

 コンパクトシティーとして、さらに街の魅力を高める施策も行っています。一つは住む人が歩いて暮らせる街づくり。「日曜日に市の中心市街地を歩く人の数を、15年度の約4万4千人から、20年度は約4万6千人にする」のが目標です。
 市でSDGsの取り組みを推進する環境政策課のとうふくみつはるさんによると、富山の街は「うすく平べったい」地形で高低差が少なく、歩きやすい条件が整っています。ただし冬の寒さが厳しいこともあり、「数十メートル先のコンビニでも車を使いたくなる県民性」。少しでも車の依存度を下げようと動いています。
 例えば今年11月、歩くとたまるポイント数に応じて、抽選で商品がもらえるスマートフォンのアプリ「とほ活」を運用開始。65歳以上の人を対象に、公共交通機関の運賃が1回100円になる定期券も発行しています。
 外出の機会が増えると平均歩数が増えて健康になる。すると結果的に医療費が削減できる――。こんな算段です。実際にどのくらい効果があるかを確かめるため、データをとって分析しています。
 公共交通の整備に力を入れることは、自家用車が排出する二酸化炭素(CO2)の削減など、環境に優しい街づくりにもつながります。3千メートル級の山々と豊富な水資源を生かした小水力発電も、SDGsに積極的に取り組む都市として売りの一つです。
 25年には公共交通の沿線に住む人の割合を市の人口の42%にまで高めたいと考えています。ただ、郊外に住む人を切り捨てることはできません。利用者が少ない中、どこまでの範囲で交通の便を確保するか。バスなどの運転を担う人も高齢化し、人手不足も起きる中で難しい課題です。
 街づくりを考えるうえで、SDGsは自分たちの街と世界の街とが根底のところではつながっていることを示す「共通言語」だという東福さん。「SDGsがゴールに据える30年には、住む人それぞれが未来に対して希望が持てる都市にしたい。それが結果的に住みたいと思う人を増やすことにつながり、街に活力を生み出し、持続可能な都市にすることにつながる」と話します。

3千メートル級の山々を望む街並みの写真
3千メートル級の山々を望む街並み=どちらも11月、富山市

高低差が少なく平らで、幅も広い歩道が続く様子を撮った写真
高低差が少なく平らで、幅も広い歩道が続きます

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