朝日中高生新聞
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1面の記事から

2030SDGsで考える 特別編

2019年11月24日付

10代のアイデアを形に
企業やNPOで高校生が活躍

 国連が掲げるSDGsエスディージーズ(持続可能な開発目標)の達成に向けて、大人では解決できなかった課題に、10代の柔軟な発想を取り入れる動きがあります。この秋、SDGsに力を入れる団体からパートナーに選ばれた高校生2人を紹介します。共通する思いは「考えているだけではだめ」ということ。2人は朝中高編集部が12月に開くSDGsワークショップにも参加します。(猪野元健)

ユーグレナ最高未来責任者(CFO) ざわきょうさん

研究者のやりがい支える環境を
未来の当事者の視点

 東京都の高校2年生、ざわきょうさんは、10月に株式会社ユーグレナの「最高未来責任者」(CFO=Chief Future Officer)に就任しました。10代の視点から会社ができることを考え、CFOとしてイベントでプレゼンテーションなどをします。
 ユーグレナは、微生物のミドリムシを研究し、栄養豊富な食品にしたり、バイオ燃料に活用したりしている企業です。SDGsにも力を入れ、健康食品を通じてバングラデシュの貧困問題に取り組み、2020年にはバイオ燃料を使って飛行機を飛ばす計画を立てています。
 一方、地球の未来を考える会社として、将来、気候変動などに直面する「当事者」の存在が必要と判断し、18歳以下限定のCFOを新設。8月に「SDGsのゴール達成のために取り組みたいこと」などをテーマにした課題文を募集しました。
 約500人の応募者から選ばれたのが、小澤さんです。中学生のときにSDGsを知りましたが、達成のためには「口先だけでは何も進まない」と、できることに限界を感じていました。ユーグレナのCFOになれば、SDGsへの思いを形にできると考え、応募しました。
 小澤さんが提案したのは目標8の「働きがいも経済成長も」。高校で始めた研究活動で、発見した菌株が腸の細菌を整える可能性があるとわかりました。高校は文部科学省のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)などに指定されていることから、国の機関から研究支援を受けることができました。
 「興味ある研究を進められたのは、手厚いサポートがあったから」と小澤さん。ところが、日本では資金面などで研究者の人材育成が遅れています。そこで「開発重視型の政策」を通じて、研究者がやりがいを感じられる環境をつくりたいと考えています。
 「SDGsの17の目標は、どれも関係があります。ユーグレナでは自分の経験を生かして、まずは働き方を変えることから挑戦していきたい。それが貧困の問題解決などにもつながっていくはず」

好奇心旺盛 古い考え方やめたい

 高校ではバスケットボール部に所属し、体育祭の実行委員会も経験。高校生向けの研究発表会への参加など、さまざまな活動に熱心に取り組んでいます。新聞をよく読み、社会問題にも関心があります。2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所の事故について、被害、原子力、エネルギー問題の三つの視点から調査。福島第一原発を見学したり、原発問題への思いを新聞に投稿したりしました。
 CFOの選考では、こうした広い分野にわたる旺盛な知的好奇心や、課外活動などでの社会性の高さが評価されました。ユーグレナ副社長のながあきひこさんは「会社は未来のためにあるべきですが、大人は短期的な経済成長を優先しがちです。大人より未来のことを本気で考えているCFOに、会社を本質に引き戻してもらい、子どもたちに恥ずかしくない会社にしていきたい」と話します。
 小澤さんは企業の価値を高めるために、古くからの「こうあるべき」という考え方はやめたいといいます。

FSCジャパンジュニアアンバサダー なかざわさん

森林守る身近なきっかけ広める
マークの活用を提案

 NPO法人「日本森林管理協議会」(FSCジャパン)のジュニアアンバサダーに選ばれたのは、東京都の高校1年生、なかざわさんです。FSC認証の普及に10代の力を借りる初の取り組みです。
 FSCは、責任ある森林管理を普及する団体です。SDGsでは「15.陸の豊かさも守ろう」などの目標達成で注目を集めます。
 FSC認証は、違法に伐採されることなく、環境面でも社会面でもきちんと管理された豊かな森から作られた製品であることを示すマークです。木のイラストにFSCの文字をあしらったデザインで、家具やノート、ティッシュペーパー、マクドナルドやスターバックスコーヒーなどの店舗の紙製品にも付けられています。一方で、日本での認知度は18%と、世界13カ国(平均50%)で最も低く、普及は大きな課題でした。
 中澤さんは、9月に東京大学で行われたFSC普及のアイデアを中高生が発表する「FSCアワード」で金賞を受賞したことがきっかけで、10月にジュニアアンバサダーに任命されました。
 FSCアワードでは、FSC認証ラベルがある製品を購入し、SNSでシェアすることで、専用のアプリ内で木を育てるようにポイントをためられる仕組みを提案。シェアが広まれば、誰かの行動につながると説明しました。
 最近は中高生向けのSDGsのイベントが増えていることをふまえ、プレゼンテーションの最後にこう訴えました。「若者だけが頑張っても意味はない。大人は若者に未来を託すような勝手なことをせず、大人も何かできることを考えてほしい」
 FSCジャパンの担当者によると、このメッセージは会場にいた大人の胸に響いたといいます。

なんとなく…から積極的に行動へ

 中澤さんは「頭で考えるだけで、行動しないタイプだった」と振り返ります。SDGsには関心があるだけで、カフェでFSC認証のラベルを見ても「なんか環境にいいことなんだろうなと思って終わっていた」と話します。
 高校生になったとき、担任の先生に環境問題に興味があると伝えたら、「まず何かやってみることが大事」と言われました。軽い気持ちでSDGsにかかわるイベントに足を運ぶと、「知ったことを広めたいと思うようになった」。その一つが、夏休みに参加したFSC認証の勉強会でした。
 アマゾンやインドネシアなど世界各地で発生している森林火災は、違法な伐採や開発優先の政策などが原因になっています。「FSC認証が広まれば、こうしたニュースを見なくて良いようになるのでは」。地球温暖化の防止にもつながると考え、FSCアワードに参加しました。知ることが行動につながり、活動範囲が少しずつ広がっています。
 「SDGsに関心がある人は多い。多くの人が一歩を踏み出せば、より大きな一歩につながり、ゴールの達成に近づきます。大人ももっと危機感をもってくれるはず。行動を始めるきっかけをつくる存在になりたいと思います」

インドネシアの森林火災の写真
開発などが原因で起こるインドネシアの森林火災。FSC認証ラベルが入った商品を選ぶことで、森林の適切な管理に貢献できるといいます
(C)朝日新聞社

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