朝日中高生新聞
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消費増税1カ月 買い物に異変?

2019年11月3日付

持ち帰りは好調 店内飲食は敬遠

 消費税が5年半ぶりに上がり、10%となってから1カ月。飲食料品は「軽減税率」が取り入れられて8%ですが、店内での飲食は10%と税率が異なります。現金を使わないキャッシュレス決済に対するポイント還元制度も同時に始まり、社会や消費者に影響を与えています。(前田奈津子、森泉萌香)

「イートイン脱税」 対応さまざま

 10月下旬、昼食時に東京都内のコンビニエンスストアを訪れると、レジの前に列ができていました。弁当を買った女性は「先月までは店内を使っていましたが、消費税が上がってからは持ち帰ることが多くなりました」と話します。
 店内で飲食できるイートインコーナーには、買った弁当を食べている人の姿も見られます。イートインの場合は会計時に申し出るよう求めるポスターも貼られていますが、申告せずに利用している人もいました。
 コンビニや百貨店などの多くは、利用客とのトラブルを避けるため、申告せずに店内で飲食していても声をかけない方針です。しかし、ネット上などで、こうした「イートイン脱税」への批判もあがっています。
 各社も対応を考えています。福岡市にある百貨店「だいまる福岡てんじん店」は10月、8%で売った総菜の飲食を控えてもらうように案内を掲示し、食品売り場近くの休憩用ベンチを減らしました。大手コーヒーチェーン「ドトールコーヒー」は店内ではマグカップやグラス、持ち帰りには紙コップと容器を変えていますが、店内でも紙コップを希望する人には「EAT IN」と書かれたシールを紙コップに貼って区別しています。
 増税による経済全体への影響も心配されます。牛丼チェーンを展開する「吉野家ホールディングス」は10月8日の会見で「持ち帰りは好調だが、店内飲食は前年割れ。税率の違いは消費行動に出ている」と危機感を募らせました。マルエツなどを運営するユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングスも同9日、「非食料品の客の利用は大きく減っている。客単価(客1人が1回の買い物で支払う額)も減った」と明かしました。いずれも今は回復傾向にありますが、消費者の動きを分析したり、新商品やキャンペーンを企画したりして備える考えです。
 消費の落ち込みを抑えるため、キャッシュレス決済に対し、国の負担でポイントを還元する制度もスタート。来年6月末までの期間限定です。経済産業省に登録した店でキャッシュレス決済をすると、中小規模の店では買い物額の5%、フランチャイズチェーンに属する店などでは2%分が戻ってきます。

税率の違いやポイント還元率の違いを表した一覧表
イラスト・あきもとまさと

店頭で客に対応する店員の写真
パンなどを販売する「HOKUO 下北沢店」。ドリンクのメニューは店内飲食用、持ち帰り用に分けています=どちらも10月30日、東京都世田谷区

ストローで色分けしたドリンクの写真
ストローで色分け。白が店内飲食、青が持ち帰り

通路の両側にあった休憩用ベンチを片側だけに減らした店内の写真
8%で売った商品の飲食を控えてもらうため、休憩用のベンチを減らした大丸福岡天神店=10月7日、福岡市
(C)朝日新聞社

軽減税率、ポイント還元で混乱も…

キャッシュレス利用広がる

 キャッシュレス決済の方法は、クレジットカード、交通系ICカードやプリペイドカードなどの電子マネー、スマートフォンのアプリを使ったQRコードなどがあります。例えば交通系ICカードの場合、事前にウェブサイトに登録する必要があり、キャッシュレス決済をするとポイントがたまります。また、コンビニなどでは支払いのときに2%分が減額されるなど、ポイント還元の仕方もさまざまです。
 経産省によると、還元が受けられる店の数は10月21日時点で約61万店。全国約200万店とされる対象の30%程度にとどまります。
 大阪商工会議所が同18日に発表した「消費増税の影響等に関する緊急調査」によると、軽減税率への対応が一部でも完了できなかったと答えた企業は14.5%。そのうち約3割が「システム改修、レジの入れ替え」を挙げました。
 実際に、レジの設定ミスで消費税が0%や18%で計算されたり、キャッシュレス決済でポイント還元が受けられなくなったりするケースも各地で相次ぎました。
 一方、キャッシュレス決済の利用は広がりをみせています。コンビニの多くは、増税の前後でキャッシュレス決済が劇的に伸び、ローソンでは9月に約20%だった利用比率が10月、26%に上昇しました。
 セブンイレブン・ジャパンの広報担当者は「増税にもかかわらず、多くのお客様に利用していただいている。キャッシュレスが進むことで、会計がスムーズになり、ミスが減らせる点もメリットとして感じる」と話します。

キャッシュレス決済に対応している中華料理店のレジの写真
キャッシュレス決済に対応している中華料理店のレジ=10月1日、浜松市
(C)朝日新聞社

よく考えてから買う傾向に

 消費者の動向などに詳しい立教大学経営学部のありけん教授の話

 消費税率が10%になり、税の金額が計算しやすくなりました。これまでに比べて、商品を買う前に税額を意識する人が増えたのではないでしょうか。その日に使える金額の上限と、税額を考えて、高額の商品については買うかどうか慎重になる傾向が強まることも考えられます。
 キャッシュレス決済によるポイント還元制度については、幅広い世代が使っている交通系ICカードが、始めるきっかけになるかもしれません。
 ただ、利用するときは注意が必要です。ポイント還元は「買いたい」という気持ちにさせるための方法の一つです。自分にとって買うことが得になるのか考えましょう。
 中高生のみなさんには、消費税のニュースを通じて、税金について考えてみてほしいと思います。

有馬賢治教授の顔写真
有馬賢治教授

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