
- 日曜日発行/20~24ページ
- 月ぎめ967円(税込み)
2019年10月27日付
世界の人口は今、およそ76億人。そのうち、約8億2160万人が飢餓に苦しんでいるとみられています。国連が定めた「SDGs(持続可能な開発目標)」には、2030年までに飢餓人口をゼロにすることが掲げられています。
実は世界では、世界中の人が飢えずにすむだけの量の食べ物が生産されていますが、それを行き渡らせることができていません。国連食糧農業機関(FAO)が11年に発表した推計によると、世界の食料生産量のおよそ3分の1にあたる約13億トンが毎年捨てられています。
飢餓を解決するには、単純に生産量を増やせばいいわけではないのです。食料生産には気候変動や紛争の問題などが複雑に関わっていて、安定的に、そして持続可能な形で食べ物を生産していくことは、大きな課題です。
また、日本はカロリーを基準に考えると、食べ物の6割以上を輸入に頼っています。その一方で、年間約643万トンもの食品ロスを出しています。
「食べられない」と「食べ物を捨てる」が同時に起こっているこの状況を、みなさんはどう考えますか。日本にいる私たちには、何ができるでしょうか。食品ロスを減らすために、そして飢餓に苦しむ人を救うために行動する人たちを取材しました。(八木みどり)
日本で暮らしていると、「飢え」を想像することは難しいかもしれません。しかし世界では今なお、多くの人が飢えに苦しんでいます。どうして世界では、飢餓がなくならないのでしょうか。専門家に聞きました。
国連食糧農業機関(FAO)の推計によると、2018年の世界の飢餓人口は、8億2160万人。実に9人に1人が飢えている計算です。2000年代から減少傾向にありましたが、16年からは3年連続で増加しています。
飢餓のない世界を目指して、途上国での食料支援などに取り組むNPO法人「ハンガー・フリー・ワールド」の儘田由香さんはその理由としてまず、気候変動の影響を挙げます。
途上国では農業で生計を立てている人の割合が多くなっています。しかもその多くは、家族単位で営む小規模なもので、雨水などの自然気象に頼っています。温暖化の影響とみられる異常気象が頻発し、食料を生産する環境が厳しくなるなかで、そのあおりを大きく受けているのがこうした農家なのです。
近年、世界各地で多発する紛争も、食料問題と深く関わっています。
農地が紛争の場になったり、農業に携わっていた人が戦闘員として駆り出されたりして、それまで通りに農業を行うことができなくなってしまいます。「紛争が起きると、食べ物が足りなくなり、食べ物をめぐってまた紛争が起きる……という悪循環が生まれてしまうのです」
飢餓をなくすには、食料の生産量を増やせばいいと考えるかもしれませんが、そう単純な問題ではありません。
毎年世界では、約26億トンの穀物が生産されています。もしこれを世界中の人で平等に分ければ、1人当たり年間約340キロ以上。一方、日本人が実際に食べている穀物は、年間およそ154キロです。穀物以外に野菜なども生産されていることを考えると、十分な量の食べ物が生産されています。しかし、その3分の1が無駄になっているのが現状です。
儘田さんによると、食料を生産できても、保管する設備が十分でないために、無駄になってしまう場合も多いといいます。
新たに農地を広げるためには森林を切り開いたり、化学肥料を使ったりして環境に負荷をかけることにもなります。
立命館大学理工学部の長谷川知子准教授は計算で、2030年までに飢餓を撲滅するためには、10年と比べて食料生産を18億トン増やす必要があると予測しました。
一律に食料分配を増やすには、生産量を予測よりも20%増やす必要があります。一方、貧困層に集中的に食糧支援をしたり、先進国で食品ロスの削減を進めたりするなどの対策を取れば、生産量は予測よりも9%減らすことができるとの結果が出ました。
長谷川准教授は「今後、食料生産を大きく増やさなくても、無駄を減らせば70億人を十分に養うことができます。飢餓は、量の問題ではなく分配の問題であることが、今回の分析であらためて数値で示されました」としています。
中高生も日常的に使う機会が多い、コンビニ。いつ行っても、たくさんの商品の中からほしいものを選べる便利さがあります。しかし、その便利さは食品ロスにもつながっているのが現状です。コンビニ各社は、対策に乗り出しています。
大手コンビニの一部店舗では今年から、消費期限が近づいたおにぎりや弁当を買うと、ポイント還元する取り組みがスタート。クリスマスケーキなどの季節商品を完全予約制で販売しようとの動きもあります。
一歩進んだ取り組みを始めたのが、中国地方や関西、首都圏で「ポプラ」「生活彩家」の名前で約500店を展開する会社「ポプラ」です。
食品は買った人が食べるまでの時間を考え、期限よりも早めに店頭から下げられます。一度店頭から下げた商品を値引きして売るのは、コンビニ業界では「タブー」とされてきました。ポプラはそうして一度店頭から下げた商品を、「No Food Loss」というスマートフォンのアプリを使って、半額で販売する取り組みを2月から一部の店舗で始めました。
アプリを使うには、店でアプリ上の商品画面を店員に見せ、レジにあるQRコードをスキャンします。店では、アプリで扱う商品を店の奥で専用の箱に入れて保管。アプリを利用する人がいたら、その都度商品を取り出し、販売します。
ポプラ関東地区本部の上野雅弘本部長によると、現在は、アプリを通じて出品したものが売れる割合は約3割。売り上げはそれほど多くはないそうですが、「これまでその店を利用していなかった人がわざわざ訪れてくれる場合も多いようです」と話します。
今後はアプリが使える店舗を増やしていく計画です。上野本部長は「食品ロスは社会的な問題であり、企業側の認識を変えていく必要もあるのでは」と話しています。
消費期限が迫っているなどの理由で店頭から下げた商品は、専用の箱で保管。アプリを利用する人が来たら、その都度商品を出しています=東京都港区の生活彩家 貿易センタービル店
起業して、食品ロスを減らす取り組みを始めた大学生もいます。
熊本大学の学生や院生たちが立ち上げようとしているのが、「ETASTE」というサービスです。弁当屋やパン屋、菓子店などが食品ロスになりそうなものを出品し、利用者が割引価格で購入できるアプリの開発に取り組んでいます。
創業者の一人、大学院修士2年の山下昂太さんは「ゆくゆくはサービスを日本全体に広めていくことが目標だが、食品ロスは出ないことが一番」。代表で4年の川畑孝史さんは「どうしたら世界がよくなるのかを考え、自分たちにできることから取り組んでほしい」と話しています。
記事の一部は朝日新聞社の提供です。