朝日中高生新聞
  • 日曜日発行/20~24ページ
  • 月ぎめ967(税込み)

1面の記事から

2030SDGsで考える

2019年7月14日付

第4回「教育」
もっともっと学びたい!

情報通信技術が
教室を変える!?
Information and Communication Technology

 さまざまな場所がデジタル化された教室。壁や机の上に電子ペンで書き込むと、文字や図形が映し出され、情報を共有できる――。こんな教室が今後、増えていくかもしれません。
 日本では、情報通信技術(ICT)を活用した教育が進められています。パソコンやタブレット端末が学校に導入され、映像や音声、インターネットなどの利用で授業の内容が理解しやすくなりました。さらに、離れた場所にいる先生の授業を受けたり、違う学校の生徒と一緒に学んだりする遠隔教育も広がっています。
 しかし、世界に目を向けると、貧困や紛争などの影響で、学校に通えない子どもたちがいます。教育を受ける機会がないと、進路の幅が狭まります。
 国連が定めたSDGsエスディージーズ(持続可能な開発目標)の一つに、「4.質の高い教育をみんなに」という目標があります。2030年までに「すべての人にほうせつ的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」ことを目指します。だれもが質の高い教育を受けられる環境にするには、どんなことが必要なのでしょうか。
(前田奈津子)

教育はいま
遠く離れた人も一緒に、等しく

 「4.質の高い教育をみんなに」のアイコン

 「1.貧困をなくそう」のアイコン

 「10.人や国の不平等をなくそう」のアイコン

 教育事業などを手がけるうちようこう(本社・東京都中央区)は情報通信技術(ICT)を活用し、未来型の教室「フューチャークラスルーム」を提案しています。離れた場所にいる生徒たちが一緒に学ぶなどの遠隔授業にも役立てられています。どこの地域にいても授業が受けられるしくみは今後、さらに広がっていくことが期待されます。

未来型教育事業を手掛ける「内田洋行」
個々の状況こえて、広くつながる

 内田洋行の社内には「フューチャークラスルーム」を体感できるショールームがあります。遠隔授業を想定して、東京と大阪にそれぞれある「フューチャークラスルーム」を情報通信ネットワークで結んでもらいました。

同時に複数の映像で

 東京の大きなスクリーンに、大阪にいる先生役のスタッフが映し出されました。「よろしくお願いします」という声も聞こえます。異なる映像を同時に映し出すことができるマルチスクリーンを採用しているため、スタッフの横に授業内容も映し出して、同時に見ることができます。
 スクリーンには、生徒役のスタッフの端末の文章や画像を映し出したり、生き物の体長などのサイズを入力して、実際の大きさで表示したりすることもできます。
 内田洋行教育総合研究所のいのうえしんすけさんは、各地の遠隔教育の現場を視察してきました。遠隔教育には、どのような良さがあるのでしょうか。
 一つは、離れた場所でも同時に授業を展開できることです。例えば、小規模校では、大勢の生徒と交流する機会が少なくなりがちです。遠隔授業を受けることで、小規模校の生徒は、さまざまな意見に触れたり、他校の生徒と話し合ったりできます。実際に導入している学校からは、相手校の生徒に自分の考えを「どうやったらわかってもらえるか」といった意識が芽生える、という報告も受けたそうです。
 先生も、離れた場所から生徒の指導ができます。移動時間がないので、外部の講師との交流もしやすくなるといいます。
 不登校の生徒や、病気で学校に通うことができない子どもたちにとっても、授業に参加しやすくなるという利点があります。

環境整備はこれから

 遠隔教育を進めることは、SDGsエスディージーズの「だれもが質の高い教育を受けられる」との目標に近づくための方法の一つと井上さんは考えます。
 一方、遠隔教育を取り入れるには設備を整えるなど準備が必要です。ICTを操作する先生の研修など、課題もあります。
 内田洋行によると「フューチャークラスルーム」のような環境を取り入れている学校は、約400校といいます。

文科省が進める遠隔教育
つなぐ学習 導入に向け支援

 文部科学省は教育委員会を対象に今年2~3月、小中学校などの遠隔教育の実態を調査しました。1815自治体から回答があり、域内の全学校で実施している自治体と、一部の学校で実施している自治体を合わせると、399の自治体が遠隔教育を取り入れています(3月現在)。
 想定されるのは、小規模校と連携校による合同授業、ALT(外国語指導助手)や外部の講師とつなぐ学習、病院にいる児童生徒を支援する教育など。熊本県たかもり町では、技術の授業で専門家とつないだ遠隔学習を実施しました。
 文科省は、遠隔教育を希望する学校が実施できるよう、連携先の紹介などの支援や、助言が受けられる環境の整備などを進めていく考えです。

フューチャークラスルームの写真
「フューチャークラスルーム」。スクリーンには離れた場所にいるスタッフが映っています
=6月21日、東京都中央区

 2.6億人の子どもに届かず
日本ユニセフ協会に聞く

 世界には、学校に通うなどの教育の機会を十分に得ることができない子どもたちがいます。ユニセフ(国連児童基金)はこうした子どもたちのために活動しています。日本ユニセフ協会のなかひろまさ広報室長に、世界の現状を聞きました。

 世界で学校に通えない子はどのくらいいますか。

貧困、差別、戦争が問題
生きる力養う機会奪う

 世界では、小学校、中学校、高校など学齢期の計約2億6400万人が学校に通えなかったり、途中で学校を辞めてしまったりしているとされます。理由の一つは、貧困です。家計を支えるため働かなくてはならなかったり、学費が払えなかったりするからです。先生としての訓練を十分に受けていない人が教壇に立っているという問題もあります。
 「家事をする女の子に教育は必要ない」といった考えが残っている地域では、女の子は学校に通わせてもらえません。戦争や紛争で校舎が壊され、学校を再開できないところもあります。

 教育が受けられないと、どんな問題が起きますか。
 読み書きなどの基本的な知識が身につかないうえ、社会性が育ちません。学校では、先生や他の子どもたちと交流することで、相手の立場を考えたり、問題を解決したりすることを学びます。教育が受けられないと、生きていくための力をつけるトレーニングをする機会が奪われます。
 子どもたちは、将来の社会を支える存在です。教育を通して、1人ひとりの可能性を引き出し、他の国・地域の人と協力して社会に貢献できる人材を育てなければなりません。国・地域によって受けられる教育の差もなくす必要があります。

 教育の機会が十分にないと思われる地域は?
 教育の機会が十分に与えられていないところが多いのはアジアやアフリカが中心ですが、一見、豊かな国の中でも、貧富の差が広がっています。貧困で厳しい生活を送る家庭には、学校に通わせる余裕がありません。難民や移民の増加も、こうした状況に拍車をかけています。

 ユニセフはどんな取り組みをしていますか。
 子どもたちには文具や教材などを届けています。先生には研修を実施します。若者が知識や技術を身につける職業訓練の支援もしています。
 紛争地や難民キャンプでは、傷ついた子どもの心のケアに力を入れています。
 中高生のみなさんも、世界の状況に目を向けてください。SDGsは、みんなが「主人公」の取り組みです。1人ひとりが「何ができるか」を考え、アクションを起こしてほしいと思います。

「中高生もSDGs」のタイトルカット

京都学園高校図書サークル 「防災」カードゲーム開発
災害発生時のミッションに挑戦

 京都学園高校(京都市)の図書サークル(6人)から届いた投稿を紹介します。


 私たちはSDGsの11番目の目標「住み続けられるまちづくりを」に基づいて、災害に備えるカードゲーム「スクラム」を開発しました。6月に神戸市外国語大学で開催された「G20ユースサミット」で、スクラムを使ったワークショップを開きました。
 初めてSDGsをテーマに活動したのは3月です。学校の「食堂改革」を掲げ、プラスチックのごみを減らそうとポスターなどで呼びかけましたが、うまくいきませんでした。そこで、まずは自分たちが主体的にできるものを考えようと、関西で特に関心が高い「防災」に着目し、幅広い年齢の人が楽しめるカードゲームを作りました。
 スクラムは4、5人のグループで行います。ミッション、タイム、ヘルプ、人の4種類のカードがあります。それぞれ災害発生時に起こる状況や、ミッションを解決する時間、ペットボトルやタオルなど身近にあるもの、住民や警察官などその場にいる可能性のある人を記載しています。
 ワークショップでは、ミッションを時間内に解決する策をヘルプと人のカードを使って考えました。ある大学生からは、ミッションは3パターンしかないので「他のカードも含めて種類を増やしてほしい」と提案がありました。
 これからも、災害への意識を高めるゲーム作成に取り組んでいきます。

関連記事

最新の記事

    記事の一部は朝日新聞社の提供です。

    • 朝学ギフト

    トップへ戻る