朝日中高生新聞
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熊本地震から3年

2019年4月14日付

私たちが未来を救う番

 270人以上が犠牲になった熊本地震から14日で3年。最大震度7の激震に2度おそわれ、被害が大きかった熊本県まし町では、「未来のためにできることを」と、若者がイベントの企画などに加わっています。熊本県のシンボル、熊本城でも復旧工事が進められています。(前田奈津子)

 益城町は県の中部にあり、熊本市に隣接しています。2016年4月14日のぜんしんと16日の本震で震度7を記録。町の住宅の9割以上が被害を受けました。3月下旬、町を訪ねると、地震で壊れたとみられる施設の工事があちこちで行われていました。
 町が元気を取り戻すには、大人だけでなく、若い世代の意見を聞くことも大事、と地震からおよそ半年後、「益城町未来トーーク」という活動が始まりました。若者が中心になって町の将来について話し合ったり、町民らを元気づけるイベントを企画したりします。今は高校生から社会人まで10人ほどが参加しています。
 この春、高校を卒業した男性(18)は益城町で育ちました。学校の行き帰りに地域の人が声をかけてくれるなど、町の温かい雰囲気が好きだと言います。しかし、地震後は町に活気がなくなったことを心配していました。
 「益城町のために役に立ちたい」と高2から活動に参加。歌や楽器演奏のステージで盛り上げるイベント「MASHIフェス」を開いた時は、小さい子どもたちが楽しめる「スーパーボールすくい」コーナーを設置しました。「子どもの笑顔が見られたのがよかった」と話します。
 熊本地震が起きたのは、男性が高校に入学した数日後。自宅は壊れ、父親が仕事で使う事務所などに身を寄せました。車の中で過ごす「車中泊」も経験。炊き出しやがれきのてっきょの手伝いなど、「自分にできること」を続けてきたそうです。
 男性に誘われて今年、活動に参加した18歳の女性。男性と同学年です。音楽が好きで、今月29日のイベントではギターの弾き語りをする予定。「少しでも元気を届けたい」と意気込みます。
 地震の影響で、高1の時の体育祭は中止。勉強も落ち着いてできませんでした。高2になって体育祭が開かれた時は「うれしかった」と振り返ります。
 学校に通ったり、家で好きなことをしたりする毎日。「当たり前だと思っていたことが、地震によって当たり前ではないとわかった。だから、今を大事にしていきたい」

あちこちで進む建設工事の写真
現在 あちこちで進む建設工事=3月28日、熊本県益城町

地震直後の益城町の写真
被災直後 地震直後の益城町の様子=2016年4月19日今井尚撮影

復旧工事が続く熊本城の天守閣の写真
現在 復旧工事が続く熊本城の天守閣=3月26日、熊本市

地震で大きな被害を受けた熊本城の写真
被災直後 地震で大きな被害を受けた熊本城。瓦が落ち、石垣が崩れています=2016年4月19日、熊本市
(C)朝日新聞社

仮設暮らし支える声かけ

600人が生活「テクノ仮設団地」(益城町)

楽しい企画でストレス軽減

 熊本地震の発生から3年がたちますが、今も仮設住宅で暮らす人がいます。その中の一つ、熊本県まし町の「テクノ仮設団地」を訪ねました。町によると、幼い子どもから高齢者まで計600人以上が生活しています。
 敷地内にはプレハブの平屋住宅が並び、住民が使える集会所が設けられています。食品や日用品を売るスーパーマーケットや弁当屋もありました。
 仮設住宅には、さまざまな地域の人が集まっています。特にひとり暮らしの高齢者の中には「知り合いがいない」といった理由から、家に引きこもりがちになる人も見られます。
 仮設住宅では「キャンナス熊本」という団体が住民の見守り活動を続けています。町の社会福祉協議会から委託された「地域支え合いセンター」としての活動です。敷地内の事務所に午前8時30分から午後5時までスタッフが常駐。住宅を回って住民に声をかけたり、お茶を飲みながらおしゃべりできる機会を設けたりしています。
 キャンナス熊本の生活支援相談員、さかもとたかさんは、住民を見かけると「こんにちは」と笑顔であいさつしていました。会話することで、困っていることや体の具合などを確かめているそうです。仮設住宅に住む70代の女性は「気にかけてくれるから安心」と話します。
 子どもたちが楽しめるイベントも企画。クリスマス会を開いたり、イチゴ狩りに出かけたりしてきました。地震後、住む場所が変わり、ストレスを感じている子どもは少なくないからです。
 坂本さんは「住民のみなさんの心に寄り添い、できることをしていきたい」と話します。
 熊本市に住んでいる坂本さんも、自宅の一部が壊れ、地震の怖さを感じたと言います。「今でも揺れを感じると、緊張します。地震はいつ起きるかわかりません。日頃から家族と避難場所を確認しておくなど、防災について話し合っておくことが大切だと思っています」

心のよりどころ 熊本城、修復に20年

元に戻しつつ耐震化

過程見守ってより大切に

 3年前の地震で被災した熊本城(熊本市)。天守閣の瓦が落ち、国の重要文化財のやぐらや塀が倒れ、特別史跡の石垣が崩れるなど大きな被害を受けました。現在は復旧工事で立ち入りが禁止され、一般の人は近くで城を見ることができません。
 熊本城は1607年にとうきよまさが築きました。城下町として発展した熊本で、城は人々の心のよりどころとなっています。
 熊本城総合事務所(熊本市経済観光局)によると、復旧工事は約20年後、2038年度に終わる見込みです。石垣を積み直したり、建物の耐震化を進めたりとさまざまな作業があって、元通りにするには時間がかかります。
 現在は天守閣の工事が進められています。今年10月までに大天守の外観の修復を終える予定で、一部が公開されます(曜日などに制限あり)。
 20年春には新たに整備する見学通路が完成し、通路から城が見られるようになります。
 熊本城総合事務所の副所長、はまきよさんは「今の熊本城を若い人にも見てほしい。工事の過程を知ることで、城を大切にしていこうという気持ちにつながっていけばうれしい」と話します。

 【熊本地震】熊本地方で2016年4月14日にマグニチュード6.5のぜんしん、16日には1995年の阪神・淡路大震災と同じM7.3の本震が起きた。熊本県益城町では震度7を2度、西にしはら村でも本震で震度7を観測。大分県などでも強い揺れを観測した。熊本・大分両県によると、住宅被害は20万棟以上、亡くなった人は計273人(関連死を含む)。熊本県によると、県内外で計1万6519人が仮設住宅や、みなし仮設住宅(借り上げ型仮設住宅)で暮らしている(3月31日現在)。

熊本県の地図

仮設住宅を見回りする写真
仮設住宅を見回ります=どちらも3月28日、熊本県益城町

仮設住宅で暮らすお年寄りに声をかける様子の写真
仮設住宅で暮らすお年寄りに声をかける「キャンナス熊本」の坂本貴子さん(左端)

立ち入り禁止になっている熊本城の敷地内の写真
立ち入り禁止になっている熊本城の敷地内=3月26日、熊本市

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