朝日中高生新聞
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地雷のない世界を目指して

2019年2月24日付

「対人地雷全面禁止条約」発効20年

 「対人地雷」は人を殺傷することを目的に作られた兵器です。対人地雷を作ったり使ったりすることを禁じる対人地雷全面禁止条約(オタワ条約)が発効してから、3月1日で20年を迎えます。世界各地では今なお地雷による犠牲者が出ています。地雷のない世界を目指す日本の活動を紹介します。(近藤理恵)

60カ国・地域に今も 除去活動を日本人も応援

 対人地雷は、これまでに世界80カ国以上で、1億個以上が埋められたと考えられています。安いものでは数百円で作ることができ、大量に生産されます。人の暮らす場所や農地など広い範囲に埋められることが多く、子どもを含む一般市民を無差別に傷つけます。また、何十年たっても爆発力は衰えず、戦争が終わっても影響を与え続けます。

年7千人超が死傷

 NGO「地雷禁止国際キャンペーン」によると、2018年現在で60カ国・地域に対人地雷が残っています。17年の対人地雷による年間死者・負傷者数は約7200人。本体から多数の子爆弾が飛び散るクラスター爆弾や、その他の不発弾による被害者も含みます。
 地雷をなくそうと、日本人も世界各地で取り組んでいます。NPO「日本地雷処理を支援する会(JジェーMASマス)」は、元自衛隊員が中心となって活動。現役時代に培った不発弾処理の知識を生かし、海外で20人の専門家が地雷を取り除いたり、現地の人たちに処理などの技術を教えたりしています。
 これまでカンボジア、ラオス、アフガニスタン、アフリカのアンゴラで計約2万個の地雷を取り除きました。近年、年間の処理数は減る傾向にあります。
 活動が進み、平らな土地に埋められた地雷は少なくなってきました。ブルドーザーのような地雷処理機械を使った除去は、基本的に平らな土地に限られ、複雑な地形では使えません。JMASのうまこしまさずみさんは「今後は傾斜のある場所や人の入りづらい奥地での活動が中心となり、より時間がかかり、難しくなる」と話します。
 また、確実に除去されたかどうかは、最後に人が金属探知機を使って確かめます。探知機はすべての金属に反応するため、慎重に掘って調べなければなりません。

復興支援になる

 カンボジア政府は25年までに国内の地雷を完全に除去する目標を掲げていますが、「見通しは厳しい」と馬越さん。
 地雷があると、その土地の開発は遅れます。開拓できないため農作物が育てられず、貧困から抜け出すことができません。そのため、地雷の除去は「復興支援」につながる大切なことです。
 「JMASが地雷を除去したことで道路ができ、学校に行けるようになったと話してくれた人もいました。安全な村づくりにこれからも貢献したい」

対人地雷全面禁止条約(オタワ条約)

 対人地雷の開発、製造、入手、貯蔵、保有、移転、使用を全面的に禁止する条約。締約国には地雷の廃棄や除去を義務づけています。被害者の支援や地雷除去の国際協力・援助も定めています。1997年にカナダのオタワで調印され、99年3月1日に発効。現在、日本を含む164カ国.・地域が加盟しています。米国、ロシア、中国は参加していません。


地雷を探す作業員。20年以上、内戦が続いたカンボジアでは、今なお約600万個の地雷が埋まっているといわれます=2018年1月、カンボジア・バタンバン州
(C)朝日新聞社

犠牲者への支援に もっと力を

「対人地雷全面禁止条約」発効20年

義足を届け、社会参加を促す
日本のNGO 「作れば終わり、ではない」

 地雷を取り除くだけでなく、犠牲者を支援することも重要です。地雷廃絶日本キャンペーン(JCBL)は、対人地雷やクラスター爆弾の廃絶を目指して活動する国際NGOです。
 JCBLはミャンマー東部のカヤー州で、地雷の被害で足を失った人に義足を届けています。ミャンマーでは、かつて政府軍と民族グループとの争いの中で地雷が使われました。JCBLの発表によると、1999年から2015年にミャンマーで地雷の被害にあった人は3600人以上に上ります。カヤー州にも多くの地雷被害者がいますが、中心部から離れた地域のため、支援が十分に行き届いていません。
 JCBLの代表理事を務めるみずとしひろさんは「地雷で足を失ったことで仕事ができず、自宅にこもりっぱなしになってしまう人が多くいます。義足を届けることは、社会への参加を促すことにつながります」
 カヤー州には以前、義足をつくる工房もありましたが、資金難で閉鎖されてしまいました。義足は、使っていると消耗します。体に合わなくなるとメンテナンスが必要ですが、工房がなければ、それもできません。
 清水さんによると、合わなくなった義足を調整するため、すき間にぼろ布などを詰める人がいます。傷から感染症を起こし、足の状態を悪化させる場合もあるといいます。「義足は一度作れば終わりではなく、継続的な支援が必要なのです」
 昨年はクラウドファンディングで約110万円の資金を集め、50人以上に義足を届けました。しかし、清水さんは「対人地雷による犠牲者の支援は不十分」と話します。
 日本政府も地雷に関する国際援助をしています。ただ、資金は地雷の除去に使われることが多いため、「今後は義足などの犠牲者支援に、より一層、力を入れてほしい」と願っています。

一つの武器が…

 30年前、清水さんはタイにあるカンボジア難民のキャンプを訪れたとき、地雷を踏んでひんの状態に陥っていた男性を目撃しました。「あのようなおそろしい兵器を人間が作っているという事実がある」と振り返ります。
 「一つの武器が使われることで、どんな影響を及ぼすのか。日本にいるみなさんにも、想像力を働かせて考えてほしいと思います」

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