朝日中高生新聞
  • 日曜日発行/20~24ページ
  • 月ぎめ967(税込み)

1面の記事から

増える外国人労働者

2019年2月10日付

 身近な場所で、外国人が働く姿を見かけたことはありませんか。日本で働く外国人の数は増え続け、現在、およそ146万人です。4月からは新たな在留資格が導入され、外国人労働者の受け入れが拡大します。外国人労働者の現状と課題を考えます。(近藤理恵、編集委員・根本理香、猪野元健)

コンビニに欠かせぬ存在

留学生ら大手3社で5万人超え

 日本で働く外国人の数は昨年10月末時点で146万463人と、1年前と比べて約18万人増え、6年連続で過去最多となりました。在留資格別にみると、永住権を持つ人や日本人と結婚した人などの「永住者ら」が最も多く約49万5千人。次いでアルバイトをする留学生などの「資格外活動」が約34万3千人です。
 留学生は週28時間以内のアルバイトができます。働き先として特に多いのがコンビニ。セブン―イレブンなど大手3社だけで5万人を超え、人手不足に悩む業界では欠かせない存在です。
 ウズベキスタンからの留学生で、22歳のナターシャさん(仮名)もその一人。東京都内のコンビニで週24時間ほど働いています。「オーナーは日本の『親』のように親切です。時給は1100円で、助かっています。オーナーやバイト仲間に信頼されてリーダーになり、自信になっています。日本語を勉強して、就職に役立てたい」と話します。
 コンビニ大手のローソンには、外国人のクルー(店員)が昨年11月末現在で約1万2千人います。全体(約19万5千人)の約6%を占め、ここ数年は増加傾向です。特に東京都心では3割を超えています。国籍では中国やベトナム、ネパールが多いといいます。

レジに母国語、来日前に研修

 仕事はレジ業務だけでも、会計、宅配便の受け付け、公共料金の支払い、お弁当の温め直しなど。ほかにも商品の補充や清掃など多くの業務をこなさなくてはなりません。
 ローソンでは外国人を大切な働き手として円滑に受け入れるため、さまざまな工夫をしています。例えば、順次導入が始まっている新型のレジ。誤作動したときのメッセージやヘルプ機能などの表示を、中国語、ベトナム語、ネパール語から選べます。あいさつの基本用語や身だしなみ、接客方法など基本的なルールやマニュアルを載せたハンドブックも多言語で対応しています。
 さらに2016年にベトナム、翌年には韓国に研修拠点を設けました。日本への留学が決まった学生に対して、来日前にコンビニの仕事や日本の習慣などを教えます。
 ローソン広報室は「留学生がアルバイトにコンビニを選ぶ理由として、日本語を覚えられる、季節の商品を通じて日本文化を学べる、などが挙がるそうです」と話します。

ローソンが開いた留学生向けの研修の写真
コンビニ大手のローソンが開いた留学生向けの研修=18年5月、東京都新宿区
どれも(C)朝日新聞社

「外国人技能実習制度」のもと、工場で働く実習生の写真
日本で学んだ技能を母国に伝えてもらう「外国人技能実習制度」のもと、工場で働く実習生=2018年12月、石川県小松市

介護の現場で働く技能実習生の写真
人手が足りない介護の現場で働く技能実習生もいます=18年11月、群馬県伊勢崎市

日本国内における外国人労働者人数の6年間の推移のグラフ

「人」として迎え入れているか

外国人労働者 課題も多い現状

技能実習制度の「悪用」が横行
日本人が嫌がる仕事を/失踪者が年に7000人

 途上国への技能や知識の移転を目的とした「外国人技能実習制度」で働く外国人も、約30万8千人います。建設業や食品製造業、介護など80の職種が対象です。企業が単独で受け入れるほか、非営利の団体が実習先の紹介や実習状況の監査をする場合もあります。実習期間は最長で5年。受け入れ数の多い国はベトナム、中国、フィリピンです。
 制度は1993年に始まり、実習生の数は年々増えています。しかし、長時間労働や賃金の未払い、パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントなどが問題になっています。2014年に国連の自由権規約委員会で改善が勧告されるなど、国際社会から批判の声も上がっています。
 外国人技能実習生問題弁護士連絡会の弁護士、とうけいさんは「実習生は、専門的な知識や技能を必要としない『単純労働』の労働力とみなされている」と指摘します。零細企業や工場、農家などでは「低賃金で文句も言わず働き続けてくれる」と、日本人の嫌がる仕事を任せるケースが横行しているといいます。
 「実習生には転職の自由がありません。また、実習生は仲介業者に手数料を支払って来日しますが、百万円を超えることもあり、多額の『借金』を抱えます。そのため、過酷な状況でも我慢してしまう」と加藤さん。しっそうも後を絶ちません。法務省の調査では、17年の実習生の失踪者は約7千人にのぼります。
 日本語が全くできずに来る実習生も多くいます。基本的なやりとりができないため、建設現場や工場などで大けがをする危険性も高まります。言葉の不自由さから孤立し、精神的に追い詰められる人もいます。
 「外国人労働者に関して、スイスの作家が『我々は労働力を呼んだが、やってきたのは人間だった』という言葉を残しています。国は『人』を受け入れる責任をまっとうしてほしい」と加藤さんは話します。

入管法改正 事実上の「移民政策」とも

 少子高齢化が進み、人手不足に悩む日本。外国人労働者の受け入れは、拡大していくとみられます。政府は昨年、出入国管理法を改正しました。4月から一定の技能や日本語能力を条件に、新しい在留資格「特定技能1号・2号」を与えます。
 改正は、日本の外国人労働者の受け入れ政策の「転換」でもあります。これまで、働くのが目的の在留資格は大学教授や弁護士など「高度な専門人材」に限られていました。しかし、法改正で、事実上の「単純労働者」の受け入れができるようになりました。
 外国人労働者の問題に詳しい法政大学社会学部教授のかみばやしさんは、出入国管理法の改正は事実上の「移民政策」なのに具体的な政策が考えられていない、と批判します。
 「例えば、失業したらどうするのか、滞在が認められる5年が過ぎたらどうなるかなどが不明です。在留期間が過ぎても働き続ける不法就労が増えるかもしれません」

「違い」認め合うことが大切

 現在、実習生の日本語教育は各自治体やNPO頼みになっている側面もあります。「日本語教育の費用は本人、受け入れ企業、日本、送り出し国のどこが負担するのか。優秀な人材を受け入れたいなら、国が負担しなければならないでしょう」
 中高生のみなさんが大人になったとき、外国人と一緒に働く機会も増えるはずです。上林さんは「違い」を認め合うことが大切だと強調します。
 「みんな一緒でなければならない、という考えは通用しなくなります。自分自身で何が正しいか判断する力を身につけていってください」

日本で働く外国人留学生の話

(どちらも仮名)

苦情、その場で言って
 イニョマンさん(20、インドネシア)

 ステーキ屋でアルバイトをしています。お客さんは外国人が多く、接客では外国語を話せる外国人アルバイトが活躍しています。
 働いていて気になることは、日本人のお客さんが苦情を言うときです。本社に連絡されたり、ネットのレビューに書かれたりすることもあります。遠回しではなく、直接言ってほしい。その場で悪いことを直せるので、お客さんにとっても良いと思います。

日本の文化を知る機会
 ダンさん(20、ベトナム)

 つけめん屋で1年間、アルバイトをしています。みんなやさしく教えてくれます。注文をうかがうとき、名札を見て、「じゃあいいや」と言うお客さんがいます。外国人にはわからない、と思われるのは嫌です。
 最初は接客に時間がかかりましたが、今は仲間と同じくらいできます。まかないで初めてつけめんを食べ、とてもおいしいと思いました。日本の文化を知ることができました。

外国人技能実習生を取り巻く問題を知るため、野党が開いた会合で、厳しい現状を話し、涙をぬぐう技能実習生らの写真
外国人技能実習生を取り巻く問題を知るため、野党が開いた会合で、厳しい現状を話し、涙をぬぐう技能実習生(右端)ら=2018年11月、国会内

開成出入国管理法を可決した参議院議会の写真
外国人労働者の受け入れを拡大する改正出入国管理法が参議院で可決され、成立しました=18年12月8日

関連記事

最新の記事

    記事の一部は朝日新聞社の提供です。

    • 朝学ギフト

    トップへ戻る