朝日中高生新聞
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1面の記事から

「やっかいもの」特定外来生物

2018年12月9日付

放したのは人間

 人間の活動によって、別の地域から入ってきた生物を外来種といいます。生態系や人、農作物に悪影響を及ぼす「やっかいもの」の代表、アライグマやマングース、キョンなど148種は「特定外来生物」に指定されています。アライグマはこの秋、東京の繁華街に出没したことも話題になりました。高校生も対策を練りますが、減らすのは簡単ではありません。責任は人間にあります。(猪野元健)

飼いきれず、野生化 アライグマ

生息状況や被害、高校生が調査

 深夜、アライグマが排水溝のわずかなすき間から地上に――。11月23日、埼玉県川越市で開かれた高校生によるシンポジウム「アライグマから外来生物問題を考える」で、埼玉県立さか西にし高校(坂戸市)の生物部7人が公開した動画の一場面です。
 北米原産のアライグマはテレビアニメの影響でブームになり、1970年代から飼う人が増えました。しかし、凶暴で飼いにくく外に放す例が相次ぎ、現在は44都道府県で野生化しました。被害を減らすには、生息の実態を調べ、捕獲する必要があります。
 埼玉県には高校生の研究グループ「チームアライグマ」があり、9校が協力して、アライグマなど外来種の生息状況の調査や研究報告をしています。坂戸西高校の生物部は2015年、アライグマの目撃情報があった近くの廃校に箱わなをしかけ、翌日に1匹捕獲。自動撮影カメラを設置し、16年から17年にかけて多い時で月50回以上、姿を確認し、行動を観察しました。しかし、17年8月から9月に再度わなをしかけると、現れなくなりました。アライグマは学習能力が高く、危険を感じて移動したことなどが考えられるといいます。

天敵なく、繁殖

 建造物のつめあとの確認調査に加え、市内の山間部にもカメラを設置。アライグマにサンショウウオなどの希少種が食べられる生態系の被害も調べています。部長(2年)は「身近にアライグマがたくさんいて驚いた。かわいいけれど、元からいた生物を食べ、建物への被害も出ている。感染症も危ない。生息状況を明らかにしたい」と話します。
 天敵のいない外来種が定着すると減らすのは困難で、アライグマも「繁殖に捕獲が追いつかない」と専門家は言います。

 一方で、外来種の「完全排除」に近づくのは、鹿児島・あま大島のマングースです。環境省は2000年度に駆除を始めました。当時は1万匹いたと言われますが、17年度には50匹以下に減ったようです。同省は22年度にゼロを目指します。

アライグマ
体重:4~十数キロ
体長:41~60センチ
白色の顔に黒色系のマスクを着けたような姿が特徴です。年に平均3、4匹出産します

フイリマングース
体長:25~37センチ
奄美大島(鹿児島)では絶滅危惧種のアマミノクロウサギの捕食などが問題に

キョンの写真
キョン
中国南東部、台湾原産のシカの仲間で肩の高さは50~60センチ。房総半島(千葉)では観光施設から逃げ出して野生化し、生息数は約5万匹とされます=2017年12月、千葉県いすみ市

「完全排除」近い奄美のマングース

駆除に膨大な時間・人・お金

 あま大島のマングースはハブ対策などのため1979年に数十匹が放たれ、全島に分布。ハブへの効果は限られる一方、在来種への被害が大きく、2005年に対策チーム「マングースバスターズ」を結成し、わなや探査犬などを活用して駆除してきました(17年度は42人が活動)。
 環境省奄美自然保護官事務所のはやさんは「膨大な時間と人、年間2億円ほどのお金をかけて、計画的にマングースを減らし、在来種の数も回復してきました。島であっても特定外来生物を減らすのは簡単ではありません」と話します。

カミツキガメ

食材に生かし、減らす

 捕獲した特定外来生物は、外来生物法により殺処分が基本ですが、活用して減らすために食べる動きもあります。
 千葉県のいんぬま周辺では、ペット用に飼育されていたとみられる北米から中米原産のカミツキガメが繁殖し、推定1万6千匹が生息しています。大きいものだと甲羅は長さ50センチに成長し、魚類や両生類などさまざまな在来種を食べる被害が問題になっています。
 印旛沼の外来植物の対策に関わってきた「エンジニヤリング」は地元の料理家と協力して、捕獲したカミツキガメの食材化に挑戦。ニンニクやショウガと一緒に煮込んだスープはコクがあり、肉は鶏肉か牛すじに近い食感といいます。10月のイベントで2度提供したところ、アンケートで9割近くが「おいしい」と答え、好評でした。
 同社の担当者は「外来種の問題を幅広く知ってもらうことにもつながる。これからも利活用の方法を検討していきたい」と話します。

カミツキガメの写真
千葉県の印旛沼周辺で繁殖するカミツキガメ
(C)朝日新聞社

特定外来生物

環境の変化も増える要因
国立環境研究所の専門家に聞く

 外来種の問題について、国立環境研究所生態リスク評価・対策研究室室長の五ご箇か公こう一いちさんに聞きました。
(猪野元健)

農作物や希少在来種にも被害

 Q 外来種とは。
 A 人の活動がなかったら、入ってこなかった生物です。貨物にまぎれて入ったり、飼っていたペットを逃がしたりするほか、ウシガエルのように食用目的で導入されて広がった外来種もいます。生物が自分の力で入ってきた場合は、外来種とは言いません。昨年、長崎・対馬つしまで38年ぶりに確認された野生のカワウソがその一例です。韓国から海を渡って流れ着いた可能性が高いとされています。
 Q 外来種はすべて悪者なのでしょうか。
 A 外来種は2千種を超えると言われています。すべてが悪さをしているわけではありませんが、人の迷惑になる外来種が増えています。特定外来生物は148種ですが、仲間入りしそうな種はたくさんいます。
 Q アライグマは、10月に東京の繁華街に出てニュースになりました。都会にも暮らしているのですか。
 A 都会では空き家などに隠れて暮らします。見つかっているのは氷山の一角ですよ。アライグマを飼育できずに捨てる人が相次ぎ、飼育施設からも逃げました。大型動物の天敵がおらず、雑食性でえさにも困らないため、全国で数が増えています。
 Q こわい動物ですか。
 A アライグマは危険です。前脚を器用に使い、木登りもできて運動能力が高い。凶暴で、かまれたりひっかかれたりすると、けがをします。菌が人に移り、病気になる可能性があります。農作物の被害や数少ない生物が食べられています。対策としては、生ごみなどをきちんと管理し、えさを食べさせないことが重要です。問題を完全に解決するなら、すべて捕獲して処分しなければなりません。

最後まで飼って

 Q 「処分」に抵抗を感じる人もいるのでは。
 A かわいそうと思うなら、捕獲された個体を一生飼育し、面倒を見る必要があります。それができなければ、社会に迷惑がかかります。外来種を広めた人間が責任を取り、悲劇を繰り返さないようにしないといけません。
 Q 外来種の一番の問題は何でしょうか。
 A 外来種を持ち込んで逃がしてしまうのが悪いのですが、人間が外来種のすみやすい環境を提供している面も知ってほしいと思います。原生林のような昔ながらの自然では、外来種が急激に増えることは難しい。長い時間をかけて環境に合った進化をした生物がいて、他の生物が入り込みにくいからです。アスファルトや埋め立て地、森を切った場所、空き家など、環境が変化した場所は外来種が入り込みやすくなります。汚れた水でも平気な外来種のカメなどは、環境が悪いほど有利なのです。
 Q 中高生に伝えたいことは。
 A ペットは最後まで飼ってください。逃がすことは育児放棄と思ってほしい。私は生き物が好きですが、仕事で世話が難しいので、家では飼っていません。

【特定外来生物】
 外来生物法に基づき、外来種のうち、日本の自然や人の健康、農林水産業に被害を及ぼす148種が指定されている。飼育、栽培、保管、運搬は原則禁止。アライグマは約10年前に比べて生息地域は3倍に増加。秋田、高知、沖縄以外の44都道府県で生息が確認され、東京都では2016年度の捕獲数は599匹と10年で10倍に。昨年は猛毒の「ヒアリ」の確認も大きなニュースになった。

五箇公一さんの写真
五箇公一さん

ウシガエルの写真
ウシガエル。アメリカやカナダ原産。体長18センチ程度と大型で捕食性が強く、口に入る大きさであれば昆虫から魚までほとんどの動物がえさとなります
(C)朝日新聞社

アライグマの捕獲数のグラフ画像

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