朝日中高生新聞
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熊本地震2年 復興の形 手探りで前へ

2018年4月15日付

 最大で震度7を記録した熊本地震から、14日で2年。犠牲者は264人、全壊した家屋も8700戸にのぼります。今も多くの人が仮設住宅で暮らす中、復興を目指して取り組む人たちに思いを聞きました。(近藤理恵)

人呼び交流、スタディーツアー

熊本県益城町 東無田地区 人口減の集落再建目指す

 のどかな田園風景が広がる熊本県まし町のひがし地区。2年前の熊本地震で2度の震度7に襲われ、約120戸あった家の7割近くが全半壊するなど、大きな被害を受けました。集落を歩くと、ブロックが崩れていたり、道にひびが入っていたりと、今も地震のつめあとが残っています。
 集落内で商店を営むさきしんいちさん(56)によると、町の中心部から外れたこの集落では、地震発生の直後、なかなか支援が届きませんでした。
 「『役場に見捨てられた』と言う人もいた。物資も情報もなく、自分たちでどうにかしなければならないと思い、動き始めました」と振り返ります。
 消防団などによるたき出しや物資の配布をしたり、ツイッターなどのSNSを活用してテントを集め、避難場所を作ったりしました。デマも流れる中、情報をきちんと整理し、伝えることも心がけたそうです。
 行政に頼らず、震災直後に支援の仕組みを作ることができたのは「集落全体が顔見知りの関係だったから」と田崎さんは言います。「誰が何を得意か知っていたし、外からボランティアに来てもらったときにも間に入ることができた。古くからある仕組みが生きたと思います」
 田崎さんらは震災の3カ月後には「東無田復興委員会」を発足。スタディーツアーを企画して防災の大切さを伝えたり、新しく夏祭りを開催したりして、集落の再建に取り組んでいます。「地震の前から人口が減っていた地域です。震災をきっかけに、外の人と交流したいと考えています」と田崎さん。

公営住宅どこに

 長期的な視点での復興も課題となっています。自宅を失った被災者が仮設住宅から移り住む「災害公営住宅」の設置場所もその一つです。
 「町は、集落の隣の農地に公営住宅を造りたい考えですが、それでは、避難者が孤独になりがちです。ここでは、空き家などを利用し、分散させることで、住民同士が見守る形を目指したい。今は町の判断を待っています」

 【熊本地震】2016年4月14日に最も大きい地震(本震)の前に起こる前震が発生。16日にマグニチュード7.3の本震が起きた。熊本県益城町と同県西原(にしはら)村で震度7を観測。震災が原因で亡くなった「関連死」を含め、264人が犠牲となった(3月30日現在)。県によると、県全体で約3万8千人が仮設住宅や、みなし仮設で暮らしています(3月末現在)。

九州の地図

修復中の熊本城の写真
熊本県のシンボルとも言われる熊本城。大きな被害を受け、現在も多くの部分に立ち入ることができません。天守閣は2021年春に内部の一般公開を目指し、工事を続けています=3月12日、熊本市

拝殿を指し示す田崎眞一さんの写真
拝殿が全壊した神社で、震災当時を振り返る田崎さん。今もこま犬が地面に置かれたままです
=3月12日、熊本県益城町

農業続けながら語り部も

「当たり前の幸せ」若い世代に

 熊本県ましかみじん地区の農家、ながただゆきさん(34)も、地震の経験を伝えています。
 永田さんの農地は、ほぼ断層の上にあり、水路が壊れました。それまではお米を作っていましたが、地震の後は作ることができません。自宅も全壊し、仮設住宅で暮らしていますが、「困っていることは特にないですね」と笑顔を見せます。
 「支援物資がたくさん届いたり、地域の人と助け合ったりと、人の優しさをたくさん感じました。地震のおかげだとも思います」。語り部としても活動し、若い世代に地震を通して気付いた「当たり前の幸せ」を伝えています。
 今はキャベツと白菜を育てている永田さん。今後は新しい農業の取り組みも考えています。「生まれ育ったこの場所で農業をして、町の活性化にもつなげたい」
 地震後に結婚した妻とは別々に暮らしています。仮設住宅から出る予定ですが、建設業者が不足している影響で、家を建てられないからです。「僕たちと同じように、今もたくさんの人が仮設住宅で暮らしています。そういった面で、復興は進んでいないと感じます」

仮設に3万8千人

 現在、仮設住宅やみなし仮設に住んでいる人は3万8千人います。熊本県の調査では、仮設住宅で暮らす約1万7500世帯のうち、全体の6割が原則2年の仮設入居期間の延長を希望しています。一番の理由は、業者が足りなかったり、工事が長期化していたりすることです。県の担当者は「今後は、より世帯に合わせた支援が必要になる」と話しています。

自身の畑の前に立つ永田忠幸さんの写真
自身の畑の前に立つ永田さん。将来の夢は「大家族」と言います
=どちらも3月13日、熊本県益城町

益城テクノ団地の写真
県内最大の応急仮設住宅「益城テクノ団地」。1110人が暮らしています(2月末現在)

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