朝日中高生新聞
  • 日曜日発行/20~24ページ
  • 月ぎめ967(税込み)

1面の記事から

「ゲーム依存」あなたは大丈夫?

2018年2月25日付

WHOが「病気」と認定へ

 ゲームのやり過ぎで日常生活に悪影響が出る症状が「病気」と診断されることになりそうです。世界保健機関(WHO)が「ゲーム依存」を病気の世界的な統一基準に追加する方針です。スマートフォンなどの普及で、いつでもどこでも楽しめるゲームにはファンがたくさんいます。一方、日本のネット依存の専門機関での診察は、ゲームにのめりこんだ人の予約待ちの状態で、患者の半数は中高生というデータもあります。(猪野元健)

症状が12カ月続くと

 世界190カ国以上が加盟するWHOは、ネット依存を新たなしっぺいとして「国際疾病分類」に今年6月に盛り込む考えです。すべての病気とけがを分類したもので、世界中の医師の診断に使われています。ゲーム依存を国際的な医学の基準で「病気」とすることで、予防や治療法の研究につなげます。
 具体的な症状は「ゲームの時間やプレー環境をコントロールできない」「日々の生活でゲームを最優先する」「対人関係などで問題が起きてもゲームを続ける」「個人や家族、社会、学習などに重大な問題が生じる」などです。こうした症状が12カ月続くと「病気」とされる見通しです。
 ただし、12カ月よりもっと早い段階でゲームに依存するという専門家の声もあります。

オンライン熱中、引きこもった高3 ご飯も面倒、やせ衰える

 東京都在住の通信制高校3年の男子生徒はゲームがきっかけで引きこもり、高1で私立の中高一貫校を退学。家でゲームしかしないため、食欲がなく、ご飯を食べるのも面倒に。体重は10キロ減って40キロになり、元野球少年だったのが、人混みの中に行くとふらふらになるほど体力が落ちました。

1日12時間

 中2でスマホのゲームを始め、中3でオンラインゲームにはまり、特にMMORPGと呼ばれる仮想世界で複数のユーザーと参加するゲームに熱中しました。
 「一つひとつクリアしていくのが楽しかった。オンラインなので次々と新しいものが出てきて、どれだけやっても飽きなかった」
 夜、勉強していた時間にゲームをするようになり、学校の勉強が遅れ始めました。所属していた野球部の顧問からそのことを厳しく指導され、好きだった部活に参加しづらくなり、塞ぎ込みました。反抗期も重なり、ゲームをやめさせようと注意する親と衝突。逆上してさらにゲームをするようになり、昼夜は逆転、1日12時間ゲームをしました。

専門外来へ

 「病院に行くぞ」。昨年3月、親から具体的な行き先を告げられずに車に乗せられました。着いたところは国立病院機構・はま医療センター(神奈川県よこ市)のネット依存専門の外来でした。「は? と思った」が、受け入れました。「ゲームをずっとやることも憂うつになる。でもやめられない。元々は進学校に通っていて大学にも行きたかったので、生活をリセットするチャンスだと思った」

長時間同じ姿勢で病死も

 ゲーム依存はインターネットやスマホの普及で、世界中で問題になっています。日本より早くから社会問題化している韓国では2002年、オンラインゲームを86時間続けた男性が、長時間同じ姿勢で下半身がうっ血する「エコノミークラス症候群」で死亡しました。国内ではゲーム依存にしぼった全国的なデータはありませんが、厚生労働省の調査でネット依存の疑いがあるのは中高生の約52万人(13年)、成人の約421万人(14年)にのぼるとされます。

ネットゲームへの依存チェック表
デザイン・佐竹政紀

治療で少しずつゲームと距離

専門外来 患者の半数は中高生

 久里浜医療センターは2011年、ネット依存の専門外来を日本で初めて開きました。治療では薬を使わず、ネットやスマホから離れた環境で一定の時間を過ごすことや体を動かすこと、ディスカッションなどでコミュニケーションの技術を磨くことを通じ、元の生活を取り戻していきます。
 男子生徒はゲームと少しずつ距離を置き、大学受験に挑戦して合格。ネットができない環境で約10日間、同世代の患者と合宿するプログラムでは「リアルの仲間といる方が楽しいと気付いた」。合宿に参加した別の男性(21)は、直後にゲームのアカウントの消去に「成功」したといいます。
 同センターの17年の患者数は再診を含めて1848人で、半数は中高生です。男女の比率は7対1。ほとんどが「オンラインのネットゲームから抜け出せなくなった」といいます。現在、4月下旬まで初診の予約がいっぱいの状況です。
 ネット依存を専門とする院長のぐちすすむさんは「頑張って勉強して中学や高校に入学したのに、ゲーム依存になり、夢をあきらめた子どもを何人も見てきた」と話します。
 未成年の患者が多いのは脳にも関係があります。発達段階にある子どもの脳は本能が強く、「危ない」という考えよりも好奇心が勝る傾向があります。ゲームの刺激を受けやすく、時間をコントロールすることが難しくなります。依存すると、ぜんとうぜんが司る「理性の脳」の働きが低下し、さらにゲームに没頭する悪循環が起きます。
 ゲームに依存しやすい人は「現実の世界が充実していない」「ゲームを良いものと考える」「家庭の問題を抱えている」「発達障がいがある」などの特徴もあるそうです。

ルール作って遊ぶことが大事

 ゲームは時代とともに進化し、最近では対戦型格闘技ゲームなどをスポーツのような競技種目としてとらえる「eスポーツ」も注目を集めています。大会で優秀な成績を重ねる「プロ」も登場し、国際オリンピック委員会(IOC)はeスポーツを競技に採用することも検討しています。WHOがゲーム依存を病気とすることに、ゲーム業界から反発の声もあります。
 樋口さんは「ゲームは悪いことではない」と断言します。ただし、ゲームに依存する可能性があると知った上で、きちんとルールをつくることが大切だと訴えます。
 「遊びすぎ」か「依存」か見極めるのは難しいといいます。樋口さんによると、いらだちや焦り、睡眠障がい、トイレや入浴をなおざりにするなど健康面の問題、成績の低下やゲームのし過ぎへの注意に暴言を吐くなどの家庭や社会での問題がはっきりと出ていると赤信号です。
 「やってはいけない時間やプレー時間の上限を作ることが大切。ゲームばかりするようになったら、日々失っているものを考え、医療機関の受診もためらわないで。自分を大切にしてください」

樋口進さんの写真
樋口進さん

新作ゲームや先端技術をPRする「東京ゲームショウ」会場の写真
新作ゲームや先端技術をPRする「東京ゲームショウ」会場=2017年9月21日、千葉市
(C)朝日新聞社

関連記事

最新の記事

    記事の一部は朝日新聞社の提供です。

    • 朝学ギフト

    トップへ戻る