朝日中高生新聞
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広がる「#MeToo」

2018年2月18日付

セクハラや性被害を訴える動き

 セクシュアルハラスメント(セクハラ)や性被害を訴える「#MeToo(私も)」の動きが、ツイッターなどを通し、世界で広がっています。セクハラや性被害をなくすために、どんなことができるのでしょうか。(近藤理恵)

ハリウッド俳優の証言から

 「#MeToo」は、自身の性被害やセクハラの体験をツイッターなどのSNSにつづり、声を上げる際に使われるハッシュタグ(投稿のテーマを示すキーワード)です。昨年秋に米国で、映画プロデューサーに対するセクハラ被害の告発をきっかけに始まりました。

「魂の殺人」とも

 性被害などに詳しい弁護士、おおけいさんは「被害を受けたことのある女性はたくさんいます。でも、声を上げづらかった。そこに、一歩踏み出して声を上げた人たちがいた。孤立させないように社会が支援しないといけません」。
 告発しづらい理由として、太田さんは被害者が自分を責めてしまうことをあげます。「被害者はなんら責められる立場にはないはずなのに、例えば『あなたにも非があったのでは』と言われてしまうことがある。性被害は『魂の殺人』とも言われ、何年たってもその傷がいえないことも珍しくありません。しかし、その認識が社会の中で低く、性犯罪が軽くみられているように思えます」

立場を利用した卑劣な犯罪

 性犯罪は、顔見知りの犯行である場合が多くあります。「上司と部下」など断りづらい関係で起こることも多く、「自分が我慢すればいい」と、相談できない人もたくさんいるそうです。性犯罪は立場を利用した卑劣な犯罪だと知ってほしい、と太田さんは訴えます。
 「日本では『嫌よ嫌よも好きのうち』ととらえる男性が多くいます。性的コミュニケーションをきちんととる方法を知る教育が必要」と指摘します。
 「男性の性被害もありますが、少ないので、男性はどうしてもひとごとのようにとらえがちです。男性には『自分が被害者になったらどう?』と想像してみてほしい。無関心にならず、被害者のため、加害者に対して一緒に怒ってください」

誰かに伝えて

 もし、被害にあったり、「おかしいな」と思うことがあったりしたら、信頼できる大人に相談したり、子どもの人権相談などの機関に電話したりする方法があります。「たとえどんなに尊敬している人の言動でも、もし違和感があったら、誰か耳を傾けてくれる人を見つけて、伝えてください」

「#MeToo」の動き

 米国で昨年10月、俳優のアシュレイ・ジャッドさんらが実名で、ハリウッドの大物プロデューサーによる過去のセクハラ被害を証言。これを契機に、同様の経験をした女性がツイッターなどで「#MeToo」と声を上げ始めました。
 12月には、米タイム誌が選ぶ「今年の人」に、セクハラを告発し、「沈黙を破った人たち」が決まりました。今年1月、ハリウッドの俳優らがセクハラ被害者の訴訟などを支援する基金を設立。映画とテレビドラマの優秀作品を選ぶ米ゴールデングローブ賞の授賞式では、セクハラ問題に対する連帯を示すため、多くの女性が黒のドレスで出席しました。
 日本では、ジャーナリストのとうおりさんが性被害を訴えていたことや、ブロガーで作家の「はあちゅう」さんが過去のセクハラ被害を証言したことなどから、動きが広がりました。

太田啓子さんの写真
太田啓子さん

セクハラ被害者を支援するため、米国の俳優らが1月、新聞に出した全面広告の写真
セクハラ被害者を支援するため、米国の俳優らが1月、新聞に出した全面広告。「女性たちへ」と呼びかけています
(C)朝日新聞社

社会の意識 変えてほしい

セクハラ被害をツイッターで

 現役の大学生で、起業家のしいさん(慶応義塾大学2年)も「#MeToo」の声を上げた一人です。
 昨年12月、ツイッターで、かつて受けたセクハラ被害や、仕事相手から受けた身の危険を明かしました。
 「セクハラなどは日常的に起きています。性的に不愉快な発言をされたり、ちかんなどの性被害を受けたりしている女性はたくさんいます。社会の意識を変えてほしいと思い、声を上げました」
 ツイッターに書き込むと、たくさんの女性から「自分も同じようなことをされたことがある」「言ってくれてよかった」など、応援する言葉が寄せられたそうです。
 一方で「きょげんだ」「自己防衛が足りない」などとちゅうしょうするコメントもツイッターに届きました。「私の発言に対して、批判する声はほぼ男性からでした。多くの女性がセクハラや性的被害を受け、こわい思いをしているのに、男性は女性がどんな思いをしているのか想像がつかないのかもしれないと思いました」

かっこよくないよ

 セクハラ発言などに対して、椎木さんはぜんとした態度を取るよう心がけています。「お酒を飲む集まりなどで、胸のサイズを女性に聞くなどのセクハラ発言がよくあります。そうした時は『(その発言)全然かっこよくないよ』などと言います。笑ってやり過ごしてしまうと『話してもいい話題なんだ』と勘違いさせてしまうからです」
 性被害のない社会にするために努力していきたいと言う椎木さん。「中高生のみなさんも、次の世代の人たちのために、私たちの思いを同じように引き継いでください」

#MeToo関連のつぶやき

(一部抜粋)
■高校生の頃はかん被害に遭わなかった日をあんするほどの頻度で被害を受けていた/満員電車の路線が多く同時に2人から、1日に何度も被害を受けたこともあり精神が壊れそうだったけれど、弱音を吐けば自分に負けてしまう気がして必死に耐えた3年間
■家に送るからと強引に車に乗せられて被害にあいました。私が悪いのかと、また気分が重くなります。もう20年近くの案件ですが、今でも似た人を警戒してしまいますし精神的にもボロボロです。
■通学・通勤電車内の痴漢は数え切れません。夜道で尾行されるに至った電車内痴漢も。

椎木里佳さんの写真
椎木里佳さん

人として自分も相手も大切に

性被害なくすため「性的同意」の考え広める

 一般社団法人「ちゃぶ台返し女子アクション」は、セクハラや性被害をなくすために、お互いの意思を尊重する「性的同意(セクシュアル・コンセント)」という考えを広める活動をしています。「性的同意」について、共同代表のおおさわさちさん(26)に聞きました。

 「性的同意」とは、性的な行為の際、積極的な意思を示すことを意味します。相手が断れない状況にもかかわらず、「何も言わないからいいだろう」ととらえ、同意がないまま性的な行為がなされてしまうことがあります。しかし同意のない性的言動は性暴力です。そのことを多くの人に知ってほしいと活動しています。
 セクハラに対して「減るものじゃない」「そんなことでいちいち騒ぐな」などの声がなくならないのも、「性的同意」を軽視しているからだと思います。
 性暴力やセクハラをなくすために、特に女性側の身の守り方が多く議論されます。それも大切なことですが、「強引な性行為はしない」ということをもっと教えることが必要ではないでしょうか。
 中高生のみなさんにも、相手を傷つけないために「一人の人間として、自分も相手も大切にする」という考えを持ってほしいと思います。例えば、もしパートナーとの間で、同意がないままキスされたとしたら、それは、あなたの自己決定権が侵害されています。
 性的な発言などをされたとき、少しでも「嫌だな」と感じたら、その気持ちを大切にしてください。あなたの体は、あなたのもので、どう関わるかも、あなた自身が決めることなのです。

 性被害を相談する窓口があります。

●チャイルドライン(0120・99・7777)…月~土曜の午後4~9時。18歳までの子ども本人がかけて相談。認定NPO法人チャイルドライン支援センターが運営。
●サチッコ(SAP子どもサポートセンター)(☎06・6632・0699)…水~日曜の午後2~8時。19歳までの子どもを性暴力から守るための相談電話。ウィメンズセンター大阪が運営。

大澤祥子さんの写真
大澤祥子さん

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