朝日中高生新聞
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1面の記事から

「核なき世界」へ弾みを

2017年10月15日付

国際NGO「ICAN」にノーベル平和賞

核兵器禁止条約の成立に市民の力

 2017年のノーベル平和賞は、核兵器廃絶をめざす国際NGO「IアイCANキャン」に決まりました。今年7月の核兵器禁止条約の成立に力を尽くしたことなどが受賞の理由です。「核なき世界」の実現に向けたICANの活動や、世界を取り巻く核兵器の現状を伝えます。(近藤理恵、前田奈津子、八木みどり)

被爆者の苦しみもとに

 ICANには、日本や米国、英国など世界101カ国の468団体が参加しています。核兵器の廃絶をめざして、07年にオーストリアで発足。これまで、政府代表や市民に働きかけて、国際会議にNGOが参加するよう促したり、日本の被爆者の声を広く世界に伝えたりして、核兵器が非人道的であることを国際社会に広めてきました。
 ノルウェーのノーベル委員会は6日の発表時、授賞理由について「核兵器がもたらす破滅的な結果を人々に気づかせ、条約で禁止しようと草分け的な努力をしてきた」と説明しました。
 ICANに参加する日本のNGO「ピースボート」は、世界各国をめぐる船に広島・長崎の被爆者を乗せ、各地で証言を伝える活動を続けています。ピースボート共同代表のかわさきあきらさんは、10年からICANの国際運営委員を務めています。受賞の決定を受けて、訪問先のアイスランドから緊急帰国した川崎さんに、朝中高特派員のおおしますみさん(東京・たまがわせいがくいん高等部2年)が取材しました。
 ICANは被爆者と手をたずさえ、賛同する世界のグループを巻き込んで、初めて核兵器を法的に禁止する核兵器禁止条約の必要性を訴えてきました。その活動が実り、今年7月、国連に加盟する193カ国のうち122カ国の賛成多数で条約が採択されました。川崎さんは「核兵器禁止条約の成立は、これまでの活動で最も喜ばしいことだった」と振り返ります。
 大嶋さんは、この条約の意義をたずねました。
 「条約は、いかなる場合でも、核兵器をつくることも、使うことも、持つことも『違法』と定めています。その理由として、被爆者の苦しみがもとにあります。今、核兵器を持っている国が、どうやって核兵器をなくしていけるか、道筋も示しています。被爆者のことや核実験で汚染された環境の回復も書かれていて、私たちの人権を真剣に考えていると思います」

「高校生平和大使」のメンバーの写真
「原爆落下中心地碑」を囲み、平和を願う「高校生平和大使」のメンバーら=8月9日、長崎市
(C)朝日新聞社

「本当に必要?」話題にして考えて

ICAN国際運営委員・ピースボート共同代表 川崎哲さん

 川崎さんは、核兵器について「無差別に人を殺す。そして、使われればその影響はずっと続く。核兵器を持ったり使ったりする正当な理由などない」と話します。
 一方で、今も世界には核兵器が約1万5千発もあります。核兵器がなくならない現状に対しては「核兵器を持っている国が考えを変えないため」と指摘します。
 「核兵器が世の中のためになるという考えにしばられている。日本は米国の『核の傘』に入っていて、核兵器禁止条約には参加していない。例えば『米国の核で守られているから、核兵器禁止条約には賛成できない』という報道があれば『そうなんだ』と思ってしまう。しかし、本当に核に守られているのか、核が必要なのか、真剣に考えていないように思います」
 ノーベル平和賞の決定直後、日本政府はコメントを出さず、2日経ってから外務省が「喜ばしいこと」との談話を発表しました。「核兵器禁止条約については触れられていなかった。日本政府は核兵器の議論を避けているように思える」と川崎さんは話します。
 受賞決定を機に、川崎さんは「核兵器の問題を話し合う機会が増えてほしい」と願っています。中高生に向けて「まずは広島、長崎のことを学んでください。そのうえで、どうすれば核兵器がなくせるのか一人ひとりが考え、周りの人と話してほしいですね」。
 被爆者の高齢化が進み、直接証言を聞ける機会もだんだん少なくなってきています。「きみたちは、被爆者の証言を聞ける『最後の世代』でもある。限られた時間の中で、積極的に被爆者との出会いを見つけてください」

信頼築き紛争や対立の解決を

広島市立大学広島平和研究所・副所長 水本和実教授

 ICANについて、広島市立大学広島平和研究所の副所長、みずもとかず教授は「核兵器禁止条約の採択に向けて、水面下で支えてきた」と評します。
 「世界各国にメンバーがいて、各国の核政策について非常に詳しく知っています。政府や外交官とも接触し、専門家なみの知識を生かして助言などもしてきました。核のない世界をめざす市民団体が評価されたことは喜ばしい」。各国の政策を理解したうえでの現実的な助言が、効果を発揮したといいます。
 一方で、核軍縮への道のりはまだ半ばです。北朝鮮の核・ミサイル開発の活発化は、国際社会をゆるがしています。日本は唯一の被爆国でありながら、条約には参加していません。
 水本さんは「条約ができたことで、加盟していない国が、その理由について一貫性のある根拠を示さなければならなくなった。核の抑止力が本当に機能しているのか、つきつめるよりどころになる」と言います。
 「核のない世界を実現するためには、核兵器の数を減らしつつ、信頼関係を構築し、紛争や対立をなくさなければなりません。加盟しない国の抱える問題を解消し、加盟する国を増やしていくことが求められます」

できること積み重ねる

部活動で核兵器廃絶に取り組む
盈進中学高校(広島)高校2年 高橋悠太さん

 広島県ふくやま市のえいしん中学高校のたかはしゆうさん(高2)は、平和や人権について考えるヒューマンライツ部に所属しています。核兵器をなくすための署名を呼びかけたり、被爆者の体験を聞き取ったりしています。
 ノーベル平和賞に決まったICANの川崎さんとも交流があります。
 「ICANは、核兵器をなくそうという市民の思いをつなげ、世界規模で活動しているのがすばらしい。自分も被爆者の証言を記録して発信するなど、できることを続けていきたいと思います」
 夏休み、ヒューマンライツ部は広島市の原爆ドーム周辺で署名活動をします。高橋さんたちの呼びかけに、励ましの言葉をかける人がいる一方、「核兵器をなくすのは無理」と言う人もいます。それでも「小さな行為でも積み重ねれば、核兵器をなくそうという声が広がる」と信じています。

平和の大切さ伝え続ける

高校生平和大使として国連を訪問
大妻中野高校(東京)2年 重松舞子さん

 東京のおおつまなか高校2年のしげまつまいさんは、核兵器廃絶と世界の平和を訴える「高校生平和大使」の活動をしています。今年8月、重松さんら22人の高校生平和大使がスイス・ジュネーブの国連欧州本部を訪れ、核兵器廃絶を求める約21万4千筆の署名を届けました。
 国連軍縮会議本会議もぼうちょう。日本政府代表部が外交官らを招いたレセプションでは、高校生平和大使の活動を話しました。「私たちの話を聞いて『活動を続けてください』と言ってくれた人もいました。核兵器をなくしたいという願いは届いたと思います」
 学校の「平和学習同好会」でも、戦争や原爆のことを調べている重松さん。「これからも平和の大切さを伝え続けたい」と話しています。

 【核不拡散条約(NPT)】米国、ロシア、英国、フランス、中国の5カ国を「核保有国」とし、それ以外に増えることを防ぐ条約。1970年に発効し、191カ国・地域が参加(2015年2月現在)。
 【包括的核実験禁止条約(CTBT)】あらゆる空間での核実験を禁止する条約。米国、中国などはじゅんしておらず、インド、パキスタン、北朝鮮は署名もしていないため、条約は発効していない。

世界の核兵器の数の図
デザイン・佐竹政紀

軍縮会議を傍聴する高校生平和大使の写真
軍縮会議を傍聴する高校生平和大使ら(上)=8月22日、スイス・ジュネーブの国連欧州本部
(C)朝日新聞社

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