朝日中高生新聞
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出口が見えないシリアの内戦

2017年5月14日付

 内戦が7年目に入った中東のシリアで、アサド大統領率いる政権側の空軍基地がアメリカ(米国)軍のミサイル攻撃を受けた。政権側が化学兵器を使った疑いをもたれたためだが、アサド大統領は否定している。争っている勢力と、それを支援する外国の思惑は入り乱れ、解決への道は遠い。

シリア軍が化学兵器使用の疑い、アサド大統領は否定

米がシリア軍基地を攻撃、ロシア反発

 シリア北西部イドリブ県の町ハーン・シェイフンで4月4日朝、航空機から爆弾が落とされた後、住民が呼吸困難やけいれんの症状になり、100人にも及ぶ死者が出た。その後の調査で猛毒物質の「サリン」が検出され、化学兵器が使われた疑いが濃くなっている。
 米国のトランプ大統領は「アサド政権軍が化学兵器を使った」として、地中海の軍艦からミサイル59発を発射し、航空機が飛び立ったとされるシリア空軍基地を破壊した。米軍によるアサド政権軍への攻撃は初めてで、大きな方針転換だった。イギリスや日本はこの攻撃を支持した。
 一方、アサド大統領は化学兵器の使用を否定し、「疑惑は百%でっち上げ」と反論。支援するロシアも、アサド政権軍が化学兵器を使った証拠がないとして、「米国の攻撃は国際法違反の侵略だ」と反発している。

アサド政権と反政府勢力の争いにISやクルド人勢力も加わる

各勢力を異なる外国が支援する複雑さ

 シリア内戦は、チュニジアやエジプトの民主化運動「アラブの春」の影響を受けた市民らによる反政府運動がきっかけだった。アサド政権はこの動きを力で抑え込もうとしたが、一部の市民が武装して戦闘が始まった。
 アサド政権と反政府勢力の争いが激しくなる中、入り込んできたのが過激派組織「イスラム国」(IS)やほかのイスラム過激思想を持つ集団だ。さらには北東部の少数民族クルド人勢力も加わり、それぞれが対立する構図になっている。
 さらに、それぞれの勢力が異なる外国から支援を受けている事情が、状況を複雑にしている。アサド政権はロシアとイラン、反政府勢力は米国、トルコ、サウジアラビアなどの湾岸諸国、クルド勢力は米国という具合だ。ただ、ISを打倒するという点はみんなの共通目標になっている。
 反政府勢力側の情報では、内戦が始まって以来の死者は約32万人で、10万人近くは民間人が占める。国連によると、シリアから外国に逃れた難民は502万人にのぼる。
 昨年末、アサド政権軍は国内第2の都市アレッポを反政府勢力から奪い返し、優勢を保っている。その後、ロシアとトルコが仲介する形で停戦に合意した。両国が主導する協議のほか、国連が主導する協議も続いているが、政権側と反政府側の意見の食い違いは大きく、先は見通せない。
 今回の化学兵器の使用疑惑と、米国による攻撃がどう影響するか注目される。

シリア周辺の地図

激しく破壊されたアレッポ城周辺の旧市街の建物の写真
激しく破壊されたアレッポ城周辺の旧市街の建物。爆撃と砲撃によるとみられる=2017年1月10日
(C)朝日新聞社

シリア内戦をめぐる各国、勢力の関係の図
写真は(C)朝日新聞社

其山史晃イスタンブール支局長の写真
■解説者
そのやまふみあき
朝日新聞イスタンブール支局長

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