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2017年1月29日付
「米国をもう一度偉大にする」というスローガンを掲げるドナルド・トランプ氏(70)が20日、米国大統領に就任した。過激な発言を連発する「トランプ節」とツイッターでの「指先批判」はやむことがない。早くも、貿易などの分野で、米国の利益を最優先する政策を開始した。
「この日から米国第一(主義)だけだ」
トランプ氏は就任演説で宣言した通り、環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱などの政策を着々と進めている。自己中心的とも批判されるほか、世界最大の経済大国である米国の影響力は大きく、世界を混乱させる可能性もある。
それでも、トランプ氏がかじを切るのは、外国との取り決めや自由貿易のせいで、工場が米国からメキシコなどに移転したり、米国民の仕事が奪われたりしたと考えるからだ。また、トランプ氏の勝利の原動力である、自動車など製造業が衰退した「ラストベルト」(さびついた地帯)の白人労働者の不満を解消する狙いもある。一対一の貿易交渉に持ち込むことで、米国に有利な条件を引き出して、国民からの支持を拡大したいとの思惑もありそうだ。
米調査会社によると、就任後の支持率は45%にとどまり、不支持率も45%と過去最高の水準だ。米国内は真っ二つに分かれている。
就任式当日を中心に全米各地でトランプ氏を「人種差別者だ」などと抗議するデモがあり、一部のデモ隊が、車に火をつけたり、カフェなどのガラスを割ったりして200人以上が逮捕された。また民主党議員ら約60人が就任式出席を拒むなど、国民の代表である連邦議会でも亀裂が深まっている。
政治家経験者だけでなく、ハンバーガーチェーン経営者や元軍人など多彩なメンバーを抱えるトランプ政権。その多彩さとは裏腹に、気に入らない企業やメディアを認めずに、名指しで非難する。ただ、度を超せば強権政治にもなりかねず、民主主義の基本要素である表現の自由などが制限される恐れもある。
格好の標的となったのが自動車メーカーやマスメディアだった。トランプ氏は、メキシコに工場建設計画があった米フォード・モーターにツイッターで「高い国境税をかける」などと脅し、計画の見直しを実現。また、批判的な報道をしてきた米CNNには、記者会見で「虚偽ニュースだ」として、質問の機会すら与えなかった。何を言い出すかわからないトランプ氏の行動は予測できず、世界中がトランプ氏のツイートや発言を気にしている。
日本も無関係ではない。メキシコに工場を建てる計画があるトヨタは、トランプ氏から「とんでもない」と名指しで圧力をかけられた。トランプ氏は、日本の自動車輸出にも不満を漏らすほか、在日米軍の駐留費用のさらなる負担を求めるなど、日米関係を揺るがしかねない。日本政府も「しばらくは様子をみてつきあっていくしかない」と考えているという。
【トランプ政権が打ち出した主な政策】
就任演説
「米国第一」を強調し、「貿易、税金、移民、外交の全決定は米国民の利益に」と宣言
大統領令
医療保険制度改革(オバマケア)の見直しを指示
米国をTPP交渉から永久に離脱させる
将来の貿易協定は一対一で交渉する
米国の労働者の利益になる、公平な貿易協定をつくる
主要政策
TPPから離脱。北米自由貿易協定(NAFTA)も再交渉
気候行動計画のような有害な政策撤廃
年4%の経済成長と10年間で2500万人の雇用創出をめざす
過激派組織「イスラム国」(IS)打倒を最優先し、積極的に軍事行動も
最新鋭のミサイル防衛システムを開発
国境に不法移民の流入を防ぐ壁を築く。暴力犯罪歴のある不法移民を国外退去
解説者
杉崎慎弥
朝日新聞
国際報道部
記事の一部は朝日新聞社の提供です。