NEWS WATCHER

強権姿勢目立つトルコのエルドアン大統領

2016年8月7日付

　軍の一部によるクーデター未遂事件を乗り切ったトルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領（62）。国内では公務員ら6万人以上が拘束されたり職を追われたりしている。強権姿勢が目立つ大統領はトルコをどこへ導こうとしているのか。

サッカーに夢中だった下町の少年

「国に貢献を」父の望みで政治の道へ

　最大都市イスタンブールに、貧困層が多く暮らす下町がある。エルドアン氏の生まれ故郷だ。地方から出稼ぎに来て、そのまま住み着いた人が多い。両親も黒海沿岸から越して来た。
　「タイップ」。住民は親しみを込めてエルドアン氏をそう呼ぶ。同じ小学校に通った男性は「タイップはまじめなイスラム教徒でサッカーに夢中だった」。義母が小学校の級友という男性は「タイップ兄さんは記憶力抜群で、年上の子より早くコーランを暗唱したと義母から聞いた」。
　イスタンブールでフェリーの船長をしていた父アフメットさん（故人）は、厳格で熱心なイスラム教徒だった。エルドアン氏にはイスラム教の指導者か政治家になってほしいと望み、サッカーに夢中になると、学業の邪魔と禁じた。
　エルドアン氏は隠れて続けた。だが、プロのスカウトから声がかかったことでばれた。鬼気迫る表情のアフメットさんは怒鳴った。「お前をサッカー選手にするために育てたんじゃない！　宗教でも政治でもいい。国に貢献する男になりなさい」
　エルドアン氏はサッカーをやめた。そして、国家救済党に入党し、政治活動に専念するようになった。20歳ごろだった。

クーデター未遂事件後、批判勢力一掃の動き？

「実権型大統領制」への移行を訴える

　政治家としての歩みは挫折と再起の連続だった。国家救済党は1980年に非合法化。後継の福祉党に入党して頭角を現す。94年にイスタンブール特別市長選に当選し、大都市の問題解決に取り組んだ。
　人気がうなぎ登りだった97年、イスラム教を賛美する詩を政治集会で朗読したことが扇動罪にあたるとして提訴され、98年、最高裁で有罪が確定。市長を解任され、収監された。
　福祉党は98年、解党を命令される。後継の美徳党も2001年、活動を禁止された。この年、現与党の公正発展党（ＡＫＰ）を結党。自由主義経済政策をとる中道右派を名乗った。ＡＫＰは02年の総選挙で大勝し、単独政権を続ける。エルドアン氏は軍・司法・警察・主要メディアの中枢に親ＡＫＰの人物を送り込み、独裁傾向を強めていく。デモは力で抑え込み、政権に批判的な記者や学者は次々摘発されるようになった。
　クーデター未遂事件を受け、3カ月間の非常事態を宣言。批判的な勢力を一掃する動きのように見える。
　エルドアン氏は現在の議院内閣制から、大統領が強い権限を持つ「実権型大統領制」移行へ憲法を改正すべきだと訴えている。独裁的で強権的な国になるのか。トルコはいま、岐路に立っている。

エルドアン大統領の歩み

1954年2月26日　イスタンブール生まれ
　73年　イスタンブールのイマーム・ハテ
　　　　ィプ（宗教指導者養成学校）卒業
　81年　マルマラ大学経済商学部卒業
　85年　福祉党イスタンブール総支部代
　　　　表、同党中央執行決定委員
　91年　総選挙に立候補、落選
　94年　イスタンブール特別市長に立候
　　　　補、当選
　97年　演説内容が刑法の扇動罪にあたる
　　　　として検察が起訴
　98年4月　ディヤルバクル国家治安裁判
　　　　　　所にて禁錮10カ月の実刑判決
　　　9月　民事刑事最高裁で有罪確定
　　　11月　市長解任
　99年3月　刑務所に収監
　　　7月　特赦適用で釈放
2001年8月　公正発展党（ＡＫＰ）を結成。
　　　　　　初代党首に就任
　02年11月　総選挙でＡＫＰが大勝、単独
　　　　　　与党でＡＫＰ政権発足
　03年3月　国会議員に初当選、首相就任。
　　　　　　第1次エルドアン内閣発足
　07年8月　第2次エルドアン内閣発足
　11年7月　第3次エルドアン内閣発足
　14年8月　初の直接選挙となった大統領
　　　　　　選で当選、大統領に就任