朝日中高生新聞
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天皇陛下が「生前退位」の意向

2016年7月31日付

 天皇陛下が、天皇の位を生前にゆずる「せいぜん退たい」の意向を示していることがわかった。まわりの人には数年前から話していたという。皇室の決まりを定めた法律「こうしつてんぱん」に退位の規定はなく、実現のためには法律を変えるなどの手続きが必要になる。

今は「位に就いたら亡くなるまで」の終身天皇制

実現には法律改正などの手続き必要

 天皇の重要な務めの一つは、代々引き継がれてきた天皇の位を無事、次の代に渡していくことだ。
 皇室典範には位の引き継ぎ方などの規定がある。明治時代の1889(明治22)年に元の皇室典範が作られた。同時期に作られた大日本帝国憲法(明治憲法)では天皇主権とされ、天皇は国の権力を一手に握る「統治権のそうらん者」とされていた。
 1947(昭和22)年に施行された日本国憲法では国民主権となり、天皇は「日本国のしょうちょうであり日本国民統合の象徴」と大きく変わった。だが、同じ年に改められた現在の皇室典範は、多くの規定で元の典範を引き継いだ。
 その一つが終身天皇制だ。天皇はそくしたら、亡くなるまでその位にあることとされ、存命中に位を引き継ぐ規定がない。旧典範を作る時、初代首相のとうひろぶみは「天皇が終身大位にあるのはもちろんであり、随意(思い通り)にその位をのがれることはもってのほか」と論じた。
 古代や中世には、天皇が退位した後に、だいじょう天皇、じょうこうとして権勢をふるった時代もあった。こうした歴史をふまえて、典範を改める際も、退位の規定を盛りこまなかった。退位を認めない理由として、①上皇などの存在により混乱が起きる恐れがある②天皇の自由な意思にもとづかない退位の強制があり得る、などと説明している。

82歳でも減らせぬ公務、意向は責任感ゆえ?

「今後の皇室は」国民的議論の契機に

 天皇陛下は82歳の現在も、行事や儀式に出席したり、地方を訪れたり、完全な休日はほとんどない。「象徴天皇としての務めを果たしたい」との責任感が強く、公務がなかなか減らせないという。
 退位の気持ちを示したのは、務めを十分に果たせなくなったら退位もやむを得ない――との考えからではないかとみられる。
 天皇陛下が退位すると、長男の56歳の皇太子さまが即位して次の天皇となる。天皇が代われば、げんごうも変わる。明治以来、一世一元制がとられており、平成の次の元号が定められる。
 皇太子さまの次に、だれが天皇の位を引き継ぐのかも課題だ。皇太子ご夫妻に男子がいないため、天皇陛下の次男にあたる50歳のあきしののみやさまが「次の次」の天皇となるが、皇室典範には天皇の弟を皇太子やこうたいていと定める制度はない。
 憲法第1条で、天皇の地位は「主権の存する日本国民の総意に基く」と定められている。今回、天皇陛下が退位の意向を示したのをきっかけに、今後の皇室がどうあるべきかについて国民的議論が進められることになるだろう。

天皇陛下の写真
誕生日にあたり、記者会見に臨む天皇陛下=2015年12月、代表撮影

皇室の構成の図
(C)朝日新聞社

北野隆一さんの写真
解説者
きたりゅういち
朝日新聞編集委員

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