朝日中高生新聞
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オバマ氏の広島訪問で動き出すか、核軍縮

2016年5月29日付

 主要7カ国(G7)首脳会議(サミット)のため来日したオバマ米大統領の広島訪問が注目を集めた。戦争で核兵器を使った唯一の国、米国の現職大統領による被爆地訪問は初めて。歴史的訪問が、足踏みを続ける核軍縮を再び動かすきっかけになるのだろうか。

ロシアとの関係悪化と米国内世論が壁に

「訪問自体が謝罪を意味する」の声も

 オバマ大統領は就任間もない2009年、チェコのプラハで「核兵器のない世界」を訴えて、その年のノーベル平和賞を受賞した。しかし、もう一つの核大国、ロシアとの関係悪化によって、核兵器を減らす取り組みの進展はほとんどない。
 米国内でも野党・共和党が、オバマ政権が進めようとしてきた包括的核実験禁止条約(CTBT)の議会じゅんに反対し、身動きがとれていない。
 大統領の広島訪問について、米国の識者からも「原爆投下論争は、政治的リスクが大きい」(バートン・バーンステイン米スタンフォード大名誉教授)、「訪問すること自体が謝罪を意味している、と読み取れる」(ノーマ・フィールド米シカゴ大名誉教授)といった声が聞かれた。
 こうした歴史的背景には、戦後米国で語られてきた「核の神話」がある。
 第2次世界大戦直後、米国民の85%がトルーマン大統領による原爆投下を支持した(ギャラップ社世論調査)。しかし、戦勝の熱狂が冷めると、原爆投下の正当性を問い、非人道性を批判する言説が、米メディアや宗教者らから現れ始めた。

米国民に広く浸透「100万人神話」

原爆投下への認識、若者には変化も

 これを抑えるため、原爆開発の「マンハッタン計画」責任者だったスティムソン元陸軍長官名で1947年、米ハーパーズ誌に1本の論文が掲載された。論文では「原爆を使用せずに日本本士上陸作戦を実施すれぱ、米軍だけでも100万人以上の死傷者を出すかもしれなかった」とした。この「100万人神話」が今日まで米国民に広く浸透している。
 戦後50年には、米国立スミソニアン航空宇宙博物館が原爆投下機エノラ・ゲイと広島・長崎両市提供の被爆資料を並べる展示を企画したが、第2次大戦を戦った退役軍人らの反対でとんした。
 今回、米国の政治家や駐日米大使らが広島・長崎訪問を重ねて、オバマ大統領の広島訪問にこぎつけた。昨年の世論調査(ビュー・リサーチセンター)によると、原爆投下を正当化できるという米国人は56%に、若者層(18~29歳)では47%にとどまった。米国人の認識が、世代とともに変化している様子がうかがえる。
 核兵器は無差別に人間を殺し、放射線の影響は世代を超えて続く。「核なき世界」を実現する日まで、「神話」との闘いは続くだろう。

オバマ米大統領の写真
オバマ米大統領
どちらも(C)朝日新聞社

原爆ドーム(手前)と広島平和記念資料館(奥)の写真
原爆ドーム(手前)と広島平和記念資料館(奥)=広島市中区

田井中雅人さんの写真
解説者
なかまさ
朝日新聞核と人類取材センター記者

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