朝日中高生新聞
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世界経済を揺るがす原油安

2016年3月6日付

 石油などの元になる原油の価格が、大きく下がっている。国際的に取引されるときの指標でみると、1年半前にくらべて、ほぼ4分の1だ。原油を輸入する日本にとってメリットは大きいが、海外では産油国を苦しめ、世界の経済を揺るがす事態になっている。

消費国の需要伸びず、取引価格は1年半前の4分の1

「シェール」米国の台頭などで生産は増

 2月中旬、「米国産WTI原油」と呼ばれる原油の取引価格が、1バレル=26.05ドルをつけた。2003年5月上旬以来の安い水準だ。
 バレルは英語で「たる」の意味で、約159リットル。14年7月までは1バレル=100ドルほどだったが、この1年半あまり、値下がりしている。石油を消費する国の需要が伸び悩んでいるのに、生産量は増えて石油が余っているためだ。
 これまでと大きな違いは、世界一の経済国である米国が産油国として台頭してきたことだ。米国では技術開発が進み、地下の岩盤に閉じ込められている原油の一種である「シェールオイル」を取り出せるようになった。2010年前後から原油の生産が急増し、14年には中東最大の産油国のサウジアラビアを抜いて、世界一の産油国になった。
 サウジなど一部の産油国も、米国に対抗するねらいから原油の生産を増やした。また、一大消費国である中国の景気が落ち込むなどして、石油の需要があまり伸びなくなったことも、原油が値下がりする要因になっている。

うまくまとまらない産油国の増産凍結の話し合い

経済制裁解かれたイランの対応が焦点

 原油価格が大きく下がれば、本来なら、産油国が話し合いで生産を減らすなどの対応を取るのが一般的だ。その中心的な役割を果たしてきたのが、中東やアフリカなどの産油国でつくる石油輸出国機構(OPEC)だ。過去には加盟国の政府が話し合って、原油の生産量の調整をしてきた。
 ところが、今回は加盟国の対立もあって、うまくまとまらない。イランは核開発疑惑で欧米諸国から経済制裁を受けてきたが、1月に解除された。経済を立て直すには原油を輸出して収入を増やす必要があり、イランは生産を減らすのに反対だ。サウジやロシアなどの産油各国は、生産量をこれ以上増やさないように話し合っているが、イランの対応が焦点になっている。
 原油安は、中東などから原油を大量に輸入する日本にとっては、ガソリンの価格が下がるなどのメリットは大きい。しかし、原油を売って政府の収入の大半を得ている産油国には痛手だ。
 ロシアやサウジは、国民への税金を増やしたり、政府が使う予算を削ったりと節約策を始めた。南米ベネズエラでは、政府が過去に借りたお金を約束通りに返せなくなる恐れも出ている。政府が約束を守れなければ、大きな混乱を招く。
 原油安が長引けば、産油国がさらに苦しみ、産油国と取引する日本など先進国の経済にも大きな影響が及びかねない。

シェールオイルのくみ上げ風景の写真
シェールオイルのくみ上げ風景=2014年7月、米北部ノースダコタ州
(C)朝日新聞社

原油安の要因を説明した図

2014年からの原油価格の動きの折れ線グラフ

寺西和男記者の写真
解説者
てら西にしかず
朝日新聞ヨーロッパ総局記者

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