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2015年9月20日付
いったん決まった2020年東京オリンピック(五輪)・パラリンピックのエンブレムが使われないことになった。再度公募して新しいデザインを選び直す。この騒動は「他人のデザインを勝手に使ったのではないか」という疑いから始まった。何が問題だったのか。
エンブレムは五輪の「顔」になる紋章。大会組織委員会は、104点の応募作の中から、佐野研二郎さんの作品を選び、7月24日に発表した。
このエンブレムを見たベルギーのデザイナー、オリビエ・ドビさんが「自分が作った劇場ロゴをまねされた」と裁判を起こした。これに対して、佐野さんは「デザインを盗んではいない」と言っている。
発表されたエンブレムは、佐野さんが作った原案を、話し合いで修正していったものだった。組織委員会は、その原案を公表し、「劇場ロゴと似ていない」と説明した。
しかし、その時、説明で示した使用例のイメージ画像の中に、別の人が撮った写真を断りなく使っていたことがわかった。また、エンブレムと直接関係ないが、佐野さんが監修した景品のトートバッグの図柄に、他人の作品を写した物があり、発送中止になる問題も起きた。
こうしたことから社会の批判が高まり、佐野さんはエンブレムを取り下げることになった。
絵、音楽、文章、映像、写真など、誰かが考え、工夫して表現したものには「著作権」がある。作り手の努力を認め、作品を守る約束ごとだ。プロの画家や作家だけでなく、誰が作ったものにも「著作権」はある。だから、他人の作品を使う時は、必要に応じて許可を得たり、お金を払ったりしなくてはならない。
五輪エンブレムをめぐってドビさんは「著作権を侵された疑いがある」と主張する。佐野さんは強く否定している。
ロゴとエンブレムを見比べると、確かに似たところがある。でも、円や三角などで構成するシンプルなデザインは、まねをしなくても、結果として似てしまうこともある。今回のケースが著作権侵害にあたるかどうかは、これから裁判所が判断する。著作権に詳しい日本の弁護士は「侵害している可能性は低いのではないか」と話している。
一方、トートバッグやイメージ画像は、ネットに掲載されている他人の絵や写真を、断りなく使ったことがはっきりしている。これは絶対にしてはいけないことだ。このルール違反によって、エンブレムの信頼が失われてしまった。
ネット上には多くの画像がある。簡単にコピーできるものも少なくない。でも、無断で使うと、著作権侵害で罰せられる場合もある。誰かが考え、表現したものには知恵と労力が込められている。そのことへの敬意と「著作権」があることを忘れてはいけない。
記者会見でエンブレムのデザインの過程を説明する佐野研二郎さん=8月5日、東京都港区
どちらも(C)朝日新聞社
エンブレムの白紙撤回について記者会見する武藤敏郎・大会組織委員会事務総長=1日、東京都港区
解説者
山口宏子
朝日新聞論説委員
記事の一部は朝日新聞社の提供です。