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2015年5月3日付
4年前に東京電力福島第一原子力発電所で事故が起き、原発の安全性を厳しくチェックする新しいルールができた。重大な原発事故は二度と起きないのか――。国民の不安や疑問が消えない中、二つの原発の再稼働をめぐり、裁判所の判断が分かれた。
「勝ったぞ」。住民たちが拍手し、歓声を上げた。4月14日、福井地方裁判所(地裁)が住民らの訴えを認め、関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)の再稼働を禁じることを決定した。
原発の再稼働にあたり、電力会社は「新規制基準」というルールに従い、原子力規制委員会の審査に通らないといけない。審査の中で、電力会社は将来起こりうる地震の最大級の揺れ(基準地震動)を示し、十分な安全対策を取っていると証明する必要がある。高浜原発3、4号機は今年2月、主な審査を通り、関西電力は11月の再稼働をめざしていた。
しかし、福井地裁は新基準が定める安全対策を「緩やか」と批判し、新基準を満たしても「安全性は確保されない」と否定。国内の原発で過去10年間に計5回、想定を超える地震の揺れが起きたと指摘し、基準地震動を超える地震が来ないというのは根拠がないと結論づけた。
高浜原発と同様に新基準をクリアし、原子力規制委員会の主な審査を通った九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)は逆の判断が出た。
鹿児島地裁は4月22日、川内原発1、2号機の再稼働禁止を求めた九州の住民らの訴えを退けた。新基準について、専門家による最新の調査や研究を踏まえていると評価し、安全対策も問題ないと判断した。
原発をめぐる裁判では、最高裁が1992年に、手続きに誤りがなければ専門家の意見を尊重するとの立場を示した。これに従う裁判官が多く、住民が勝った裁判は過去3回しかない。その意味で、福井地裁の決定は異例なケースだ。
今回は仮処分という簡易な手続きが取られた。正式な裁判は判決が出るまで比較的長くかかり、この間に訴えた人が危険な目に遭うかもしれない。仮処分は短期間に終わり、決定が出るとただちにある行為を一定期間禁じることができる。
関西電力は決定に不満を持ち、裁判所に見直しを求めた。原子力規制委員会は今後も審査する方針だが、高浜原発の場合、福井地裁の決定が見直されない限り、再稼働できない。
国内では高浜、川内を含む15原発で再稼働に向けた審査が進んでいる。原発に不安を持つ住民らは他の原発も再稼働を止めるため仮処分決定を裁判所に訴える考えだ。今後、電力会社が求める再稼働がスムーズに進むかどうかは不透明だ。
【原発の新規制基準】 福島で起きた原発事故の反省から原子力規制委員会が新たにつくったルール。重大事故に備えた安全対策を電力会社に義務づけ、地震や津波の想定の仕方も厳しくした。
関西電力高浜原発3、4号機の再稼働禁止の決定を受け、喜びにわく住民たち=4月14日、福井地裁前
(C)朝日新聞社
解説者
室矢英樹
朝日新聞社会部
記事の一部は朝日新聞社の提供です。