朝日中高生新聞
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金星探査機「あかつき」再挑戦へ

2015年2月22日付

接近する12月 大気を3次元的に観測

 金星探査機「あかつき」が12月に金星のしゅうかいどうの投入に再挑戦することになりました。2010年に打ち上げられ、金星の近くまで行きましたが、エンジンの故障で周回軌道に入れず、再び金星に近づく機会を待っていました。金星で何を調べるのでしょうか。

逆噴射失敗 エンジン破損

 Q 探査機で金星の何を調べるの?
 A あかつきの目的は、金星の大気観測だ。大気が高度によってどう変わっているかなどの3次元的な観測をする。
 金星は、地球と大きさがほぼ同じ、自転の周期は約243日で、大気のほとんどは二酸化炭素でできている。地球のすぐ内側の軌道で公転しており、太陽から届く熱も大きくは変わらないが、金星の大気の上層では、「スーパーローテーション」と呼ばれる秒速100メートルの強風が吹くなど、地球とは気候が大きく異なっている。
 観測で、強風の原因、表面をすきなくおおう雲ができる仕組み、雷は起こるのか、活火山があるのかなどのなぞに迫ろうとしている。
 Q 前回は、なぜ軌道に投入できなかったの?
 A 2010年5月に打ち上げられ、金星に接近した12月に、エンジンをぎゃくふんしゃして金星を回るえん軌道に入る予定だった。ところが、逆噴射中に機体が強い衝撃を受けて、想定外の回転をしてしまい、軌道投入できなかった。
 配管の弁が詰まって燃料が十分に噴射せず、異常な高温となったエンジンが破損したことが原因だった。
 Q 壊れたのに、再挑戦できるの?
 A 破損の状況が致命的ではなかった。軌道の投入時には、ブレーキをかけて探査機の速度を落とす必要があるが、今回はブレーキに壊れた主エンジンは使わず、代わりに探査機の姿勢を調整する四つのエンジンを使う。主エンジンよりも力が弱いため、ブレーキが十分にかからず、10年に予定していた軌道よりも金星を大きく回る軌道に探査機を投入することになる。
 今回の挑戦がラストチャンスになる。軌道投入に必要な燃料は、今回使ったら、さらにもう一度挑戦できるだけ残らないからだ。

5年遅れ、多額の税金…

 Q 予定とは違う軌道で、十分な観測はできるの?
 A 無事に軌道投入できれば、金星の表面を雲が1周する1週間にわたり、連続的な観測はできそうだ。
 ただ、最初に予定していた通りには観測できない。観測の精度が落ち、観測する回数も減る。また、軌道投入が予定よりも5年遅れ、宇宙の厳しい環境に長くさらされた観測機器がれっしていると、画像の質の低下や観測できない項目が増える恐れがある。とはいえ、大回りの周回軌道は、1週間連続で金星全体を撮影できる利点もある。
 Q でも、一度の失敗にめげずに頑張ったね。
 A 軌道投入に失敗した10年は、初代「はやぶさ」が故障やトラブルを繰り返しながらも小惑星イトカワのりょうを地球に持ち帰った年。はやぶさに重ね合わせ、再び金星に近づいた時の再挑戦に期待する声があった。
 あかつきは、金星に再び近づくまでの観測で、太陽から吹き出している「太陽風」の観測もした。この結果、太陽の半径の5倍ほどの距離から急激に加速していることがわかったと、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が昨年末に発表している。
 Q 宇宙開発は、失敗がつきものなんだね。
 A 惑星探査では、03年には火星探査機「のぞみ」も火星の周回軌道への投入を失敗している。あかつきは、約250億円の税金を使った計画。金星探査にこれだけの予算を使う必要があるのか、と日本の惑星探査の意義を問う声もある。
 一方で、最先端の開発をすることで国の技術力の向上につながる面があり、開発力を維持するには技術者が仕事を続けられる予算も必要だ。失敗も次の開発への経験となる。人々の生活向上に直接役立たなくても、真理の解明のために進めるべき研究もある。ただ、それに多額の税金を使うのなら国民が納得できる説明が必要だ。

あかつきの軌道の図
(C)朝日新聞社

黒沢大陸さんの写真
今週の解説者
朝日新聞編集委員
くろさわたいりく
 1963年生まれ。91年から朝日新聞記者。科学医療部デスク兼編集委員。社会部や科学部で、防災や科学技術行政、環境、鉄道などを担当。著書に『「地震予知」の幻想』(新潮社)。

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