朝日中高生新聞
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香港国家安全維持法が施行

2020年8月2日付

 香港で政府に反対する人たちを取り締まるための香港国家安全維持法(国安法)が6月末、施行された。香港で自由な発言ができなくなり、中国本土とは違う社会の仕組みを認めた「一国二制度」が中身のない形だけのものになってしまうのではないか。そんな不安が広がっている。

中国が香港の法律をつくる

「反政府」の言動を処罰、自治に干渉

 国安法は、中国の一部を独立させようとしたり、政府を倒そうとしたりする言動を処罰する、ということを決めた法律。最も罪が重いと終身刑、つまり一生を刑務所で過ごすことになる。
 この法律の問題点は、大きく分けて二つある。一つは、自分たちのことは自分たちで決めるという「自治」の範囲が小さくなってしまう恐れがあることだ。香港は中国の一部だが、法律をつくったり、裁判を開いたり、自分たちのことを自分たちで決める権利が認められている。しかし、国安法は中国がつくって、香港に持ち込んだ。国の安全に関わるという名目で中国政府が香港の人を捕まえて、裁判にかけることもできるようになった。
 もう一つは、法律によって香港の人々の自由が制限される可能性があることだ。例えば政府がこの法律を都合よく利用して、自分たちを批判した人を「政権を倒そうとした」という理由で逮捕するかもしれない。香港は中国より言論の自由に寛容で、テレビや新聞が政府を批判したり、市民がデモ活動をするのは普通のことだったが、今後は難しくなるのではないかと心配されている。捕まると中国の裁判所で裁かれる可能性もあって、香港の人たちは怖がっている。
 中国はなぜ今、この法律をつくったのか。
 同じような法律は本来、香港政府が自分でつくることになっていたが、多くの人が反対して、実現していなかった。昨年から香港で反政府デモが続き、「中国から独立したい」という意見も出た。香港政府には任せておけない、と中国は考えたとみられる。

すでに逮捕者、外国企業の香港離れも

「約束破った」米欧ら批判、関係悪化

 国安法施行の影響は広がり始めている。
 香港にはたくさんの外国企業が集まっている。法律が信用できることや言論の自由があることも理由だった。国安法の施行で、そういう香港の魅力がなくなってしまうと考えている外国企業もあり、出て行くことを検討している。
 すでに法律違反として捕まった人もいる。「香港独立」という旗を持っていたことを理由に逮捕された人がいた。香港政府は昨年のデモ活動で使われていた標語を掲げたり、歌を歌ったりすることも制限すると言っている。香港政府のやり方に反対する人たちが選挙に出られなくなるかもしれないという不安も出ている。
 香港以外の人たちも批判の声をあげている。香港のことは香港に任せるという約束を中国が破った、と米欧や日本は言っている。中でも米国は「香港はもう中国と同じだ」と言って、香港だけに認めていた特別待遇をやめると宣言した。中国は「香港は中国の一部。外国が口を突っ込まないで」と反論している。国安法を通じて、中国と外国の関係が悪化している。

【一国二制度】
 香港は中国にありながら中国本土とは違う社会や経済の仕組みが認められている。一つの国に二つの制度があるので「一国二制度」と呼ばれる。
 1840年に始まったアヘン戦争で中国(当時は清)は英国に敗れ、香港は英国の植民地になった。1997年に中国に返還されることになったが、中国と英国は様々なシステムが異なる。中国は香港の社会や経済が混乱するのを避けるため、返還後も50年間は仕組みを変えないと約束し、多くの分野で「自治」も認めた。

■解説者
たかまさゆき
朝日新聞 中国総局記者

中国の地図画像

警察から事情聴取される男性の写真
香港の米国総領事館前で、米国国旗が印刷されたビラを持っていたため、警察から事情聴取される男性(中央)=7月4日
(C)朝日新聞社

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