朝日中高生新聞
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国際法廷で責任問われるスーチーさん

2020年6月14日付

 ミャンマー政府が、国内で少数派のイスラム教徒ロヒンギャに「ジェノサイド(集団殺害)」をしたとして国際法廷に訴えられた。ミャンマー側は反論しているが、実質的に国を率いるノーベル平和賞受賞者、アウンサンスーチー氏が責任を問われる事態になっている。

ミャンマーでイスラム教徒のロヒンギャ迫害

警察への襲撃を機に国軍が集団殺害か

 ロヒンギャの多くはミャンマー西部のラカイン州に住む。イスラム教国のバングラデシュと隣り合うこの地域には古くからイスラム教徒がいたとされるが、英国の植民地になった19世紀以降さらに流入して定住。「ロヒンギャ」と自称する文書が確認されるのは、1948年のミャンマー独立より後のことだ。
 仏教徒が約9割を占めるミャンマーで、ロヒンギャは差別や迫害を受け続けてきた。ロヒンギャは自分たちを「土着民族だ」と主張するが、軍事政権下の82年に定められた「国籍法」で国の定める民族から除外され、多くに国籍が与えられなかった。「バングラデシュからの移民」と見なされてきたためだ。
 2012年には、ラカイン州内で仏教徒との衝突が起き、約10万人のロヒンギャが避難民になった。このころから活動を活発化させたロヒンギャ武装勢力が17年8月、ラカイン州で警察施設を襲撃。ミャンマー国軍が掃討作戦を始め、約70万人のロヒンギャがバングラデシュへ逃げた。
 欧米諸国などは、掃討作戦中にミャンマー国軍が、多くのロヒンギャを殺すなどの迫害行為をしたと主張。ミャンマー側は「襲撃への対応だ」と反論したが、国連人権理事会は18年、ジェノサイドの疑いに言及し、ミャンマーを非難する決議を採択した。
 難民のほとんどは「ミャンマーに戻ったら危険だ」と考え、いまもバングラデシュ南東部のキャンプで暮らしている。

イスラム教国がICJに訴え

スーチーさんはジェノサイドを否定

 19年11月、イスラム教徒が多く住む国でつくる「イスラム協力機構」を代表する形で、西アフリカのガンビアがミャンマーを国際司法裁判所(ICJ)に訴えた。掃討作戦で多くのロヒンギャを殺し、「ジェノサイド条約」に違反したとの主張だ。この国際条約は特定の人種、民族、宗教などの集団を殺害したり、傷つけたりすることを禁じている。
 ガンビアはまた、ミャンマーのアウンサンスーチー国家顧問も「ジェノサイドを止めなかった」と指摘した。スーチー氏は、軍政下で何度も自宅軟禁されながら民主化を訴え続け、1991年にノーベル平和賞を受賞。民政移管後の2015年の総選挙で自ら率いる政党が勝利し、今は政府を率いる立場だ。
 今回の裁判では、かつての「民主化運動の象徴」が人権侵害への関わりを問われることになり、その点でも世界的な注目を浴びている。昨年12月、自らICJの法廷に立ったスーチー氏は「行き過ぎた武力行使」があった可能性は認めたものの、ジェノサイドは完全に否定した。
 ICJは今年1月、ジェノサイドにつながる行為を防ぐ対策をとり、その状況を4カ月以内に報告するようミャンマーに緊急的に命じた。ミャンマーは5月22日に報告書を出した。軍人を研修することなどが盛り込まれた内容とみられるが、公表はされていない。
 裁判の結果が出るまでには、2年以上かかるとみられている。

解説者
そめりゅう
朝日新聞ヤンゴン支局長

アウンサンスーチーさんの写真
アウンサンスーチーさん

ミャンマー周辺の地図

国際司法裁判所前でアウンサンスーチーさんの写真を掲げて応援する人たちの写真
国際司法裁判所(ICJ)前で、アウンサンスーチーさんの写真を掲げて応援する人たち=2019年12月12日、オランダ・ハーグ
どれも(C)朝日新聞社

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