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2020年3月29日付
庶民に身近な魚介類の代表格であるスルメイカの漁が、歴史的な不漁に陥っている。原因の一つは海水温の変化だが、中国や北朝鮮の漁獲拡大も拍車をかけている。各国で漁獲を制限するための協力は進まず、「スルメイカが食卓から消えるかも」と心配する関係者もいる。
20年前のスルメイカの漁獲量は30万トンを超えていたが、2015年以降、急速に減ってきた。昨年の4~12月は2.1万トン。これは、1951年以降で最も少なかった18年の同期を、さらに3割も下回る量になっている。
不漁の原因は何か。専門家の間で有力だと言われているのが、スルメイカが卵を産む東シナ海や日本海の海域の海水温の変化だ。卵からかえるには、だいたい18~23度が適していると言われる。国の研究機関である水産研究・教育機構(水研機構)によると、15年以降、この水温よりも高すぎたり、低すぎたりしている環境が続いたという。
しかし、水研機構によると、ここ1年間の産卵域の海水温は、ほぼ最適だった。それでも漁獲量の減少が続いていることから、海水温だけが原因ではないと見られている。
日本海では近年、中国や北朝鮮の漁船が活発に漁をしている。中国の漁獲量は明らかになっていないが、研究者の間では年20万トンぐらいだとされる。日本の19年度の10倍近い量で、不漁の大きな原因とされている。
浅い海で大きな群れをつくるスルメイカは安い費用でたくさんとれる。昔から価格も安く、庶民の食卓には欠かせない海産物とされてきた。だが、不漁により、価格は10年前のほぼ倍になってしまった。北海道の函館のような産地では、漁船の廃船や加工業者の廃業も相次いでいる。
水産庁によると、スルメイカを中心とするイカの1人当たりの年間消費量は、08年は魚介類でトップの995グラムだった。それが18年には387グラムに減り、サケ、マグロ、ブリ、エビに続く5位にまで順位を落とした。石川県漁協小木支所の白坂武雄参事は「スルメイカが食卓から消える日が来るのではないか」と心配している。
資源を戻すため、水産庁は漁でとってもよい「漁獲枠」を4月から始まる新年度は過去最低の5.7万トンにする。一定量以上はとらないことで、イカの生息数が増えるのを期待している。
しかし、日本だけ漁獲枠を絞っても、外国がたくさんとってしまえば、生息数が増えるかはわからない。実際、水産庁は漁獲枠を19年度まで4年連続で減らしてきたが、漁獲量は減り続けてきた。漁師の間では、「漁獲枠が緩すぎる」との批判もあがっている。
各国が協力して漁獲を減らせないのか。スルメイカの主な漁場は日本海。周辺国とは、排他的経済水域(EEZ)をめぐって、意見がまとまっておらず、なかなか話し合いが進まない。
解説者
大日向寛文
朝日新聞東京本社経済部記者
函館にはイカ専門の鮮魚店もある=2019年9月、北海道函館市のはこだて自由市場
(C)朝日新聞社
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