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2019年11月10日付
今年のノーベル平和賞が、アフリカ東部にあるエチオピアのアビー・アハメド・アリ首相(43)に贈られることになった。20年も対立が続いていた隣国エリトリアとの国境をめぐる紛争を解決したことなどが評価された。
エチオピアはケニアや南スーダンなどに囲まれた内陸国で、人口は1億人を超える。国の面積は日本の約3倍で、80以上の民族がいる多民族国家だ。
1980年代には干ばつで食糧が不足し、多くの幼い子どもが飢えで亡くなっていた。ただ、最近は首都アディスアベバで高層ビルが建ったり、次世代型の路面電車が走ったりするなど、経済成長が続いている。コーヒー豆の産地としても有名で、首都にはコーヒーショップがいろんな場所にある。
エチオピアの政治は長く、少数派民族のティグレの人々が支配し、政府に反発する最大民族のオロモやアムハラの人々を殺害・拘束してきた。ただ、15年ごろから政府への抗議運動が激化。そこで父親がオロモ、母親がアムハラ出身のアビー氏が混乱を抑えるうえで「適任」として選ばれた。
アビー氏は10代で軍に入隊した後、2010年に国会議員になった。昨年4月、41歳の若さで首相に就任した。
エチオピアでは1993年に独立した隣国エリトリアと国境線をめぐる争いが続いてきた。98年には武力による衝突が起き、約10万人が犠牲になった。
アビー首相は就任したばかりの昨年7月、エリトリアの首都アスマラを訪問。同国のイサイアス大統領と歴史的な会談を実現させ、紛争を終わらせることで合意した。
会談後、アビー首相は「私たちの間にあった壁をこわすことに同意した。この先、両国の人々にとって戦争は選択肢にならない。私たちが必要としているのは愛だ」と訴えた。平和の訪れは多くの人々に歓迎された。過去の政権がオロモやアムハラの人々を殺したことについても謝罪。数万人ともいわれる政治犯の解放も進めた。
今回の授賞決定後、アビー首相は「平和のために取り組むすべての人に深く感謝する。この賞はエチオピアとアフリカ大陸に対するものだ。私たちは平和のもとに繁栄していく」とツイッターに投稿した。
課題もある。国内ではアビー氏の改革に反発する勢力の活動が続いていて、今年6月には一部の軍兵士がクーデターを試み、軍参謀総長らを殺害した。
10月には、オロモ人の一部勢力がデモを実施。治安部隊との衝突などで、約90人が死亡した。来年5月には総選挙があるため、権力争いが激しくなって治安が悪化する恐れもある。
■解説者
石原孝
朝日新聞ヨハネスブルク支局長
(C)朝日新聞社
記事の一部は朝日新聞社の提供です。