朝日中高生新聞
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米・ロの中距離核戦力全廃条約が消滅へ

2019年3月3日付

 米国のトランプ政権は2月1日、30年以上前に当時のソ連と結んだ中距離核戦力(INF)全廃条約から抜けると正式にロシアに伝えた。条約は米ソが冷戦時代に共に一部のミサイルを捨てることを約束した歴史的なものだ。条約がなくなることで、世界で兵器開発競争が進む心配がある。

冷戦終結のきっかけにもなった歴史的な約束

「ロシアが違反」と米国が離脱告げる

 条約は1987年にレーガン米大統領とソ連のゴルバチョフ書記長が署名し、冷戦が終わるきっかけにもなった。ソ連が崩壊後は、ロシアに条約は引き継がれていた。
 条約では、陸上から発射するタイプで、飛距離が500~5500キロの中距離ミサイルを禁止して、今後も持たないということを約束した。既にあったミサイルは米ソで計2692基が廃棄された。
 条約ができる以前は、ソ連が欧州を狙って新型のミサイルをたくさん配備して、米国も欧州にミサイルを置いて対抗した。それで緊張が高まり、話し合いが本格化した。条約では、ソ連側からミサイルを発射しても欧州が標的にならないようにして、禁止する飛距離が決められた。条約の名前には「中距離核戦力」とあるが、核兵器だけでなく、普通の爆弾を積むミサイルも禁じられた。
 だが、トランプ政権はロシアが条約に違反するミサイルを持っていると批判して、ロシアにミサイルを捨てるように要求した。しかし、ロシアは違反を認めずに話し合いでは解決しなかった。そのため、米国は条約から抜けることを決定した。規定により、ロシアに正式に伝えてから6カ月後に条約が消えることになる。

米・ソ2大国時代との世界情勢の変化も背景に

中国巻き込みミサイル開発競争の恐れ

 トランプ政権はロシアの違反を条約から抜ける理由にしたが、30年前とは世界の状況が変わっていることもその背景にある。
 当時は、2大大国だった米ソがお互いに兵器を減らせば十分だった。だが、ミサイルや核の技術は世界に広がった。米国が特に心配するのが、中国の存在だ。
 条約に入っていない中国は、条約が禁止する飛距離に近いミサイルを1400発以上持っていると推測されている。トランプ大統領は、米国だけが条約に縛られる状況に不満を繰り返し、「(条約は)古い」とまで言ってきた。トランプ氏は、中国や他の国も入れた新たな条約を作ることを提案しているが、実現する可能性は低い。
 中国は米国が条約を抜けることをすぐに批判して、新たな条約にも入らないと断言している。中国にとっては中距離ミサイルは戦略の中心で、それを捨てることはほとんどあり得ないことだ。米国が条約を抜けて、新しいミサイルをアジアに置けば、中国も巻き込んでミサイル開発競争が起きるかもしれない。米国が新ミサイルを置く先は日本が有力視されており、日本も無関係ではない。

米国のINF全廃条約離脱をめぐる各国の動きをまとめた図

中国の軍事戦略の柱とされる中距離弾道ミサイルの「東風(DF)26」を写した写真
中国の軍事戦略の柱とされる中距離弾道ミサイルの「東風(DF)26」。米軍基地があるグアム島を射程におさめていることから通称「グアムキラー」と呼ばれ、米国の脅威となっている=中国・北京、2015年9月3日撮影どちらも
(C)朝日新聞社

杉山正記者の写真
解説者
すぎやまただし
朝日新聞
アメリカ総局員

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