朝日中高生新聞
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今年の国際情勢は?

2019年1月6日付

 2019年は米国と中国の対立の行方が焦点だ。経済力世界1位の米国と2位の中国が18年に始めた通商紛争は、既存の大国と新興の大国の「覇権争い」となり、国際社会の不安定要因になっている。欧州では右翼政党の勢力拡大などの不安定化が懸念される。

ハイテク分野の覇権争いが根源との見方も

米中2大国の対立、世界経済に影

 「米国第一」を掲げるトランプ米大統領は昨年、中国からの輸入品に対して「知的財産の侵害」を理由に高関税措置を次々発動し、そのたびに中国も対抗措置を講じた。2大国の「報復合戦」は世界経済に影を落としている。
 トランプ氏とシーチンピン・中国国家主席は昨年12月、アルゼンチンで会談。米側が今年1月から予定していた対中制裁関税のさらなる引き上げを当面見送り、知的財産侵害などをめぐる争いを90日の期限で交渉することで合意した。
 米中は通商紛争の激化はひとまず回避したが、対立点は何も解消されていない。「問題解決の先送り」とみる識者も目立つ。90日の期限内に合意できなければ、米国は引き上げに踏み切るとみられる。
 米ブルッキングス研究所・東アジア政策研究センター所長のミレヤ・ソリス氏は「米国が問題の根源と考えているのは、ハイテク分野で世界の覇権を握るという中国の野心。中国はこの野心をあきらめることはない。米中の争いは長期化するだろう」と指摘する。
 世界3位の経済大国で、主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の19年の議長国を務める日本の責任は重い。米中を仲介できるか、注目される。

移民・難民への反発と欧州統合への不信が広がる

右翼政党が台頭、試練続く欧州

 欧州では、欧州連合(EU)の「顔」と言えるドイツのメルケル首相が21年の任期終了後に政界を引退する。引き金は、シリアなどから欧州に押し寄せる移民・難民を100万人以上受け入れ、世論の反発を招いたことだ。17年の総選挙では、与党は議席を大きく減らし、「反移民・難民」を掲げる新興右翼政党が躍進した。
 ドイツに限らず、欧州では中道政党の衰退とともに、大衆扇動に走る新興右翼政党の台頭が目立つ。18年の総選挙で、イタリアでは右派と新興の両ポピュリスト政党が連立政権を組み、スウェーデンでは右翼政党が躍進した。共通するのは、移民・難民への反発と欧州統合に対する不信だ。長年かけてつちかった一つの欧州構想は、大きく揺らいでいる。
 19年も欧州は試練が続く。英国のEU離脱は3月末に予定されているが、離脱条件をめぐって英国内の分断は深刻で、先行きは見通せない。5月下旬にある欧州議会選挙では、「反移民・難民」を訴える右派政党やポピュリスト政党が躍進する可能性がある。
 一方、35万人以上が命を奪われ、「今世紀最悪の人道危機」と呼ばれるシリア内戦は、終わりが見えてきた。ロシアとイランが支援するアサド政権が、反体制派を北西部イドリブ県に追い詰めている。アサド政権が同県を制圧すれば、シリアにロシアとイランの覇権が確立することになる。

演説をするドイツのメルケル首相の写真
キリスト教民主同盟の党首として最後の演説をするドイツのメルケル首相=2018年12月7日、ドイツ・ハンブルク
(C)朝日新聞社

欧州連合と英国の年表
(C)朝日新聞社

春日芳晃記者の写真

解説者
春日かすがよしあき
朝日新聞国際報道部次長

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