朝日中高生新聞
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海賊版サイト対策、「接続遮断」めぐり混迷

2018年11月11日付

 インターネットで漫画を無料で読める「海賊版サイト」の対策を話し合っていた政府の有識者会議が、結論を出せないまま休眠状態になった。政府が目指す、特定のサイトに強制的につながらないようにする仕組みの法律作りに、反対意見が根強かったためだ。

法律作り目指す政府が設けた検討会議で賛否割れる

「最後の手段」か、「通信の秘密」侵害か

 ことの発端となったサイトは「漫画村」。作者の許可を得ないまま勝手に載せられた漫画が無料で読め、今年2月までの半年間にのべ6億2千万人が訪れた。お金を払わずに最新の漫画を読めれば、雑誌や本は売れなくなり、作者は利益が得られず作品を作り続けられなくなる。ほかにアニメの海賊版サイトなどもある。
 政府は対策として「サイトブロッキング(接続遮断)」の法律作りを目指した。インターネットの回線をつなぐ接続事業者(プロバイダー)が、利用者が海賊版サイトにアクセスしようとしても強制的につながらないようにする仕組みだ。ただ、技術的には、名指しされた海賊版サイトを見ようとする人だけでなく、すべての利用者のアクセス先を確認した上で、問題のサイトにつながらないようにすることしかできない。電話や手紙などの通信を誰にも知られることなくやりとりできると保障する憲法の「通信の秘密」を侵害する恐れがある。
 政府は接続遮断について話し合うため、関係者を集めた検討会議を6月に始めた。ところが、接続遮断だけが有効な「最後の手段」だという出版社などの賛成派と、憲法学者などの反対派の意見が激しく対立した。政府の一員でもある総務省の職員からも「ネット社会が監視の方向に進む」と否定的な声があがった。

著作権教育など、ほかの対策案も挙がっているが…

意見まとまらず、会議は無期限延期

 検討会議が9回目となった10月15日、司会役の座長は、賛成と反対両方の意見を載せた報告書をまとめようとした。ところが、座長2人を除く委員18人のうち、半分にあたる9人が強く抵抗。反対する人たちは「もともと政府は法律を作りたいのだから、賛成意見も載った報告書がまとまれば、反対を無視して無理やり法律作りを進めるのではないか」と警戒したのだ。
 検討会議は、これ以上話を続けても折り合えないと、期限を決めず「延期」となった。半月後の10月30日、座長が「接続遮断の法律を作ることについては、意見がまとまらなかった」という報告書を公表した。
 問題の発端となった漫画村は、今は見られない。ところが次々と別の海賊版サイトが現れている。検討会議では、海賊版は作者の大切な権利を侵害するものなのだという教育や、海賊版サイトが資金源とするネット広告を出させないようにするなど、ほかの対策案も挙げられた。それでも接続遮断の法律作りに踏み込むのか、ほかの対策に取り組むのか――。判断は政府にゆだねられている。

海賊版対策の会議の様子の写真
中間まとめができなかった海賊版対策の会議=10月15日、東京都千代田区
どちらも(C)朝日新聞社

海賊版サイト対策の図

上田真由美記者の写真
解説者
うえ
朝日新聞文化くらし報道部記者

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