朝日中高生新聞
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性別を変えたアスリート、東京五輪目指す

2018年8月26日付

 2020年の東京で、性別変更をした選手が初めてオリンピック(五輪)に出場する可能性が広がっている。国際オリンピック委員会(IOC)は五輪憲章で性的指向による差別を禁じており、競技者の性別認定基準をゆるめた。性別を変えたアスリートはすでに多くの競技で活躍している。

新たなルール設けた国際競技団体も、国内の団体はまだ

IOCが認定基準ゆるめ、道が広がる

 同性愛や両性愛の性的少数者は、夏冬の五輪に多数参加している。IOCは2015年、性別変更についてもガイドラインを変えて、それまで求められていた性別適合手術を条件から外した。
 女性として生まれた選手が男子競技・種目に出ることに条件はない。男性として生まれた選手が女子競技・種目に出るには、性別変更を宣言して4年間変更せず、血中の男性ホルモン(テストステロン)の値が12カ月間一定レベルを下回っていることを証明することが必要だ。
 陸上とテニスの国際団体も、性別変更の規約を設けた。米国ではバレーボール、トライアスロンなど、英国ではサッカー協会などが、明文化したルールで性別変更に対応している。
 国内には性別変更のルールを備えた競技団体はない。日本スポーツ協会は内部規則で戸籍変更を求めており、事実上、IOCが撤廃した性別適合手術を条件としている。

自転車、重量挙げ、バレーボール…すでに多くの競技で活躍

出場かなえばメダル候補の選手も

 米コロラド州・コロラドスプリングスに住むジリアン・ベアデンさん(38)は、東京五輪の自転車女子ロードで米国代表を目指す。
 12年まで男子で活躍。プロ契約の話もあった。妻と2人の幼い子どもがいる。だが、心の中は女性だった。生きる意欲が消え、自転車もやめ、自殺を考えたこともあった。そして14年、女性になることを決め、ホルモン治療を始めた。妻は決断を受け入れてくれた。
 健康のために練習を再開すると、かつて17分で駆け上がっていた急坂に20分以上かかった。「男性だった時は気合を入れたらパワーが出たが、治療後は激しい気持ちがわかなくなった」。専門家に測定してもらうと、運動能力は11%も下がっていた。
 IOCが性別変更ガイドラインを変更したと知った時、すぐに米自転車協会に電話で相談した。16年、レースに復帰。17年、性別変更した女性として初めてプロのレースに出場し、2勝した。
 米自転車協会は、ベアデンさんの事例をもとに17年、IOCより寛容な独自の性別変更ルールを定めた。同協会のレース出場資格6クラスのうち、下位3クラスでは自己申告のみ。その結果、性別を変えた選手は2桁を超えたという。
 ニュージーランドの重量挙げ選手のローレル・フバードさん(40)は、男子で活躍した後、30代で性別を変更。昨年の世界選手権女子90キロ超級で銀メダル。出場がかなえば東京五輪でもメダル候補になる。
 バレーボールでは欧州のプロリーグでプレーしたブラジル人の男子選手が、現在はブラジルの女子プロリーグで活躍。代表入りの議論が起きている。

【性別適合手術】

心と体の性が一致しない人について、性器の切除や卵巣の摘出など体を心の性に合わせるための手術

●スポーツでの性別検査と性別変更をめぐる主な出来事

1966年 英連邦大会で女子選手に性別検査。陸上欧州選手権で「女性確認検査」を導入。
    検査の拒否や引退表明した選手も
 68年 グルノーブル冬季五輪で性別確認のための染色体検査を導入
 99年 IOCが性別確認検査の廃止を決定
2004年 IOCが性別変更選手の五輪参加を承認
 15年 IOCが性別変更選手の五輪参加条件を緩和。
    性別適合手術を条件から除外

自転車を手にするジリアン・ベアデンさんの写真
性別変更をして自転車女子ロードで東京五輪出場を目指すベアデンさん
=米コロラド州コロラドスプリングス
(C)朝日新聞社

忠鉢信一記者の写真

解説者
ちゅうばちしんいち
朝日新聞東京本社
スポーツ部記者

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