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2018年8月12日付
安倍晋三首相が7月17日、欧州28カ国でつくる欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)に署名した。モノの行き来をより自由にし、経済を活発化させるためだ。他国との取引に壁をつくる「保護貿易」に動く米国を日欧が手を組んでけん制する狙いもある。
世界の国は、他国から輸入するモノに税金(関税)をかけている。輸入品が安いと国内でつくったモノが売れなくなり、自国の産業が弱ってしまうからだ。
EPAや自由貿易協定(FTA)は、お互いに関税をできるだけなくし、モノの行き来をより自由にする約束のこと。自国の産業を保護するより、自由に貿易できたほうが、互いの経済活動が活発になってメリットが大きいと考えられている。
世界全体の貿易額の約4割を占める日本とEUのEPAで、巨大な「自由貿易圏」ができる。来年3月までには効力が発生する見通しだ。
日本がEUから輸入するモノでは、ワインにかかる関税(現在は価格の15%)がすぐにゼロになる。ナチュラルチーズ(29.8%)の一部は徐々に下げて15年でゼロに。パスタ(1キロ30円)やチョコレート(10%)も発効から10年でゼロになる。
EU側では、日本車(10%)の関税が7年でゼロ、しょうゆ(7.7%)や日本酒(100リットル最高7.7ユーロ)はすぐに関税がなくなる。最終的に、日本側は輸入品目数の94%、EU側は99%の関税がなくなる。
関税が下がれば、その分、日本の消費者はスーパーで安く買える。逆に日本の自動車の関税がEU側で下がれば、EU内で日本車の価格が安くなって売りやすくなる。
ただ、いいことばかりとも限らない。EPAで日本側は、EU産の豚肉の関税を10年かけて引き下げるものの、完全にゼロにはしない。安い豚肉を輸入しすぎると国内産が売れなくなり、国内の養豚業者への影響が大きそうだからだ。
日本にとっては特に農畜産物や木材での影響が心配されている。全体で日本側は輸入品目のうち94%の関税をなくすが、農林水産分野に限ると関税がなくなるのは8割ほどの品目にとどまる。
世界では、二国間に限らず、自由な貿易を進める交渉が数多く行われている。日本を含む11カ国による環太平洋経済連携協定(TPP)もそのひとつだ。
いま、こうした自由貿易の枠組みづくりと正反対の動きをしてるのが米国のトランプ政権だ。大統領就任直後の2017年1月にはTPPを離脱。今年3月には、日本産を含む鉄鋼・アルミ製品の輸入に、最大25%の関税を新たにかけた。日本車を含む輸入車への高い関税をかけることも検討している。米国でつくられたものを優遇して産業を保護するためだ。
日本とEUのEPAは、両者が手を組んだことをアピールし、米国の「保護主義」の動きをけん制する狙いがある。自由貿易こそが世界経済を成長させるとトランプ氏に理解してもらおうという作戦だ。
EPA締結の署名を終え、握手をする安倍晋三首相(中央)とEUのトゥスク首脳会議常任議長(左)。
右はユンケル欧州委員長=7月17日、首相官邸
どちらも(C)朝日新聞社
解説者
久保智
朝日新聞東京本社
経済部記者
記事の一部は朝日新聞社の提供です。