朝日中高生新聞
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研究不正相次ぎ、大学が防止教育

2018年5月13日付

 東京大学や京都大学などの有名な機関で研究をめぐる不正が相次いでいる。危機感を募らせた大学の間では、学生たちが不正に手を染めたり、不正に巻き込まれたりしないように、独自の教育プログラムを取り入れる試みが広がり始めている。

過去の事例を題材に学生が討議する授業も

独自のプログラム取り入れる試み

 「どこが、どう怪しいのか。どう修正すべきか。考えをまとめてください」
 滋賀県立大学のたかくらこういち准教授が学生に呼びかけた。受講する十数人の学生が持ち寄ったのは、健康器具や化粧品のチラシ。他社製品との違いをアピールする言葉が並ぶ。
 「事例紹介ばかりで、肝心のデータがない」「グラフの目盛りを操作して効果を大きく見せている」
 学生たちが、互いに意見をぶつけあう。大学院の「環境研究倫理特論」という授業のひとコマだ。
 授業は昨年秋から今年2月まで15回行われ、画像の切り貼りなどを見抜くソフトの使い方を教えたり、過去の研究不正の裁判記録を読み解いたりした。
 不正の中には、上司の指示で組織的に行われるものがある。若手は生活のために、理不尽な指示に従わざるを得ない。「特論」を企画したはら准教授は「学生には怪しい論文や研究室を見抜く目を持ち、近づかないようにしてほしい」と話す。
 東京工業大でも、大学院の修士課程で、選択科目として研究倫理の講義を行っている。ほぼ毎回グループ討議を行う。過去の不正事例を題材にして、不正の起きた原因や背景などについて、学生同士で話し合う。

ビデオ教材の視聴などが中心で、「不十分」の声

専門の教員を雇う予算措置が課題

 京都大iPS細胞研究所で1月に発覚した研究不正は、30歳代の研究者が起こした。成果を出さないと次のポストが得られない若手研究者の不安定な環境が、不正の背景として指摘されている。
 海外では、たとえば米国のカリフォルニア大学が、討議やロールプレー(役割演技)などのプログラムを導入し、研究者として生き残るため、自分ならどうするかを考えてもらう授業を行っている。趣旨に賛同した研究者たちによる同様の取り組みが、各地で広まりつつあるという。
 日本では文部科学省が不正防止教育を大学などに求めているが、ビデオ教材の視聴などが中心で、不十分との指摘は多い。一方、滋賀県立大や東京工業大のように学生たちが議論に加わる「参加型」の授業をカリキュラムに組み込む例は全国でも数えるほど。必要な専門の教員を雇う十分なお金が大学側にないという事情もある。
 専門家は「大学の研究教育の一分野として確立する必要がある。そのための予算と教員の措置は、ぜひとも必要だ」と指摘している。

「環境研究倫理特論」の授業風景の写真
「環境研究倫理特論」の授業風景。各テーブルで学生と教員らが議論します=2月5日、滋賀県彦根市の滋賀県立大学
(C)朝日新聞社

科学研究をめぐる近年の主な不正事例の年表
(C)朝日新聞社

朝日新聞化学医療部記者の嘉幡久敬氏の写真
解説者
ばたひさとし
朝日新聞科学医療部記者

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