朝日中高生新聞
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50周年ASEANの光と影

2017年8月27日付

 東南アジア諸国連合(ASEANアセアン)が設立から50周年を迎えた。日本とも関係の深い東南アジアの国が集まった地域協力機構だ。当初は対立もあったが、やがて乗り越えて協力を進め、アジア外交で存在感を発揮してきた。一方で、域内の人権侵害に対処できないといった課題は今も残る。

東南アジアの5カ国で設立、冷戦後は10カ国の地域協力機構に

大国と渡り合い、アジア外交で存在感

 ASEANが誕生したのは1967年8月8日。インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイの5カ国が設立を宣言した。
 タイ以外の4カ国は、欧米の植民地支配から独立して日が浅く、国の情勢はまだ安定しておらず、域内に領土問題を抱えていた。設立はこうした状況の中、互いの不信感を取り除くことが目的だった。
 また、当時は共産主義陣営と資本主義陣営が争う東西冷戦のまっただ中。ベトナム戦争が激化する中、共産主義に対抗するための政治同盟という意味合いも強かった。
 だが、冷戦が終結すると、ベトナムやカンボジアなども加わって加盟国は10カ国に。軸足は経済協力へと移っていった。昨年の加盟国の国内総生産(GDP)は2兆5547億ドルと日本の半分強で、人口は6億3862万人と日本の約5倍だ。
 個々の国は小さくとも集まることで大国と渡り合う交渉力が生まれた。日本、中国、韓国を招いた「ASEANプラス3スリー」、ASEANに米国やロシア、オーストラリアなど8カ国が加わる「東アジアサミット」といった枠組みもでき、アジアの外交で中心的な役割を果たすようになった。

「内政不干渉」「全会一致」の原則が人権侵害への対処の障害に

中国の影響力拡大で結束揺らぐ懸念も

 ASEANは、「内政不干渉」と「全会一致」を原則としている。民族や宗教、政治体制や発展の程度が異なる国々をまとめるための「知恵」とされるが、そのために域内の人権侵害などに対処できないとの批判がある。
 軍事政権下のミャンマーで、民主化運動指導者だったアウンサンスーチー氏が自宅に軟禁されるなどの人権侵害が指摘された際も、軍政は内政不干渉を盾にとり、ASEANも表だった働きかけをすることはなかった。
 そのスーチー氏が国家顧問となった現在も同国は、イスラム教徒ロヒンギャへの人権侵害問題を抱える。イスラム教徒が多い国は不満を募らせており、全員が賛成する「全会一致」が難しい場合には、賛成国だけで物事を先に進めてはどうかとの提案も出ている。
 また最近、ASEAN諸国の結束に影を落としているのが、中国との関係だ。
 今年8月、ASEANと中国は、一部加盟国と中国が領有権を争う南シナ海での活動のルールを作るための枠組みに合意した。だがその内容は、法的こうそくりょくを持つかどうかの言及がなく、中国の意向が強く反映されたものだった。
 これまでASEANは、自らはまとまり、外に向かっては複数の大国との間でうまくバランスをとることで存在感を高めてきた。だが、経済援助などを通じて中国の影響力が急速に増す中、域内での大国間のバランスが崩れ始めていることが懸念されている。

日本と中国、韓国、ASEANの財務相・中央銀行総裁会議での写真
日本と中国、韓国、ASEANの財務相・中央銀行総裁会議で記念撮影する麻生太郎財務大臣(中央)と日本銀行の黒田東彦(はるひこ)総裁(右隣)ら=5月5日、横浜市

ASEAN10カ国と加盟年の図
どちらも(C)朝日新聞社


守真弓さんの写真
解説者
もりゆみ
朝日新聞
シンガポール支局長

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