朝日中高生新聞
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ISの拠点都市モスルをイラク軍が奪還

2017年8月13日付

 過激派組織「イスラム国」(IS)が3年前に「国家」の樹立を宣言し、住民を支配してきたイラク北部の都市モスルを、イラク政府軍が今年7月に奪還した。最大の拠点都市を失ったISの弱体化は必至だ。だが、米欧や異教徒を敵視するISの思想は世界中に広がり、テロのきょうはなお続いている。

宗派対立につけ込み、「解放者」を装って占拠

「国家」樹立を宣言、住民を恐怖で統治

 ISは2014年6月にモスルを占拠した。数百人の戦闘員が州庁舎や軍の施設を襲った際、警察や軍はほとんど抗戦できずに撤退した。背景にあったのはイラク国内の宗派対立だ。
 イラクでは人口の多いイスラム教シーア派が権力を独占する政治が続き、スンニ派住民は不満を募らせていた。そこにつけ込んだのがISだ。シーア派をテロの標的にし、社会の分断をあおった。スンニ派が多数を占めるモスルで、ISは「解放者」を装った。
 だが、モスルで200万の人口を支配し、「国家」の樹立を宣言したISが始めたのは、住民を恐怖で服従させる統治だった。喫煙や飲酒を禁止し、女性には全身をおおう服装を義務づけた。住民には重い税を課した。異教徒を奴隷にして売買したり、外国人のジャーナリストを捕らえて公開処刑したりした。

モスル全域を「解放」、中・西部の拠点の奪還作戦も開始へ

根絶には時間、過激思想の除去も課題

 イラク政府軍は16年10月、モスルを奪い返す作戦に着手した。大砲や爆弾、狙撃手によるISの抗戦に遭いながら、米軍をはじめとする有志連合軍の空爆と連携して次第に包囲をせばめ、今年7月にようやく全域の「解放」を宣言した。
 ISは、「首都」と称してきたシリア北部のラッカでも劣勢が続く。イラク中部や西部の拠点に対しても、イラク軍が奪い返す作戦を開始する見通しで、地域を支配する「国家」としての姿を失いつつある。
 だが、ISの根絶には時間がかかりそうだ。モスルから避難した人たちは、市民のふりをしてISと連携してきた「スパイ」が避難民にまぎれ、報復の機会を探っていると証言した。
 住民同士がお互いを疑わしく思う状態が広がるなか、政府が宗派対立を助長したり、復興をおろそかにしたりして対応を誤れば、再び反政府組織が台頭しかねない状況だ。
 ISが3年間の支配の間に子どもたちに植え付けた過激思想を取り除くことも課題だ。ISは「不信心者と戦うことがイスラム教徒の務め」とする教育を徹底した。イラク軍に保護されてもなお、「不信心者と戦う」と口にする子もいる。
 米国や欧州、その同盟国を敵視する思想や、身近な対象をねらうテロの手法は、インターネットなどを通じてすでに世界中に広がった。劣勢のいまもなお、テロを呼びかけるプロパガンダの発信を続けており、フィリピンなど中東以外でも関連組織による活動が活発化している。各国によるテロ対策はいっそう難しくなっている。

荒廃したモスルの街の写真
ISとイラク政府軍との激しい戦闘で荒廃したモスルの街=6月23日

少女と、その肩を抱く女性の写真
ISの戦闘員に拉致され、3年ぶりに家族のもとに戻った少女
=6月11日、イラク北部アルビルの国内避難民キャンプ

シリアとイラク周辺の地図
どれも(C)朝日新聞社

渡辺淳基記者の写真
解説者
わたなべじゅん
朝日新聞
ドバイ支局長

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