私が住む富山県の海、富山湾は、"天然のいけす"と呼ばれるほど魚介類が豊 富な海で、私にとっては自慢の場所です。しかし、世界に目を向けると、今、海では大変なことが起こっています。2008年にはカナダの海で、クジラの一種であるイッカクが1000頭以上死んだという報告がありました。原因としては、海底調査に用いられるエアガンの騒音がイッカクの行動パターンを狂わせたためと考えられています。また2022年には、地中海にある黒海で、延べ2500頭以上のイルカの死骸が打ち上げられているのがニュースになりました。 ウクライナ侵攻により、黒海を航行するロシア軍艦に備えられていたソナーがイルカの聴力に影響を与えた可能性があると専門家は指摘しています。海での音の研究が進む昨今、船舶騒音や潜水艦の探知ソナーなど、海がどんどんうるさくなっていることが分かってきました。海洋生物を守るためには、騒音との関係について、もっと調べる必要があります。
そこで私は、昨年度から富山高等専門学校の先生と一緒に、騒音が魚に与える影響について、プラスチックの模型船舶を使って実験を行っています。富 山湾で先生と一緒に魚を釣ってきて、富山高専の練習船のエンジン音を収録し、魚に聴かせて反応を調べる実験を実施するなど、様々な知見を得てきました。実験を発表する場にも恵まれ、全国の研究者の方にも研究発表を聴いてもらいました。
しかし、海洋生物を騒音から守る研究は、マイナーな部類の研究であることを知りました。理由は単純でした。お金にならない、予算がつきにくい研究だから。私はもどかしさを感じました。利益をうむ研究だけが優遇されるのはおかしいと思いました。このままでは、海洋生物を騒音から守る研究は見向きもされず、海を守ることができなくなってしまいます。今こそ世界 中の人たちが海の騒音や異変を知る必要があります。海洋生物の危機を知る必要があります。
そこで私は、世界的規模のラジオ・ フォ ーラムの創設を提案します。これは世界中で聞くことのできる国際放送のラジオ番組で、海の危機について、政府や企業、学者などの力を持つ団体や市井の人々が話し合うことのできる場です。SNSやメ ールでの会話が主流となり、人と人が直接言葉を交わすコミュニケ ーションが減っており、それがあらゆる人に害を与えています。ラジオであれば、ネット環境の整っていない発展途上地域の人々にも声が届くと思います。ラジオだからこそ、感情が声にのって、各国の政策立案者やリ ーダーと市井の人々が真剣に議論できると信じています。海を守るためには、まず世界中の人々が話し合いのテ ー ブルについて、利害関係なくコミュニケーションをとることが大切だと強く思います。
(参考文献:朝日新聞GLOBE+ 2019年2月27日の記事より)