朝日小学生新聞
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東京オリンピック・パラリンピック2020 

マセソン美季さんコラム「自分を信じて」

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マセソン美季 東京都出身、カナダ在住。1998年のパラリンピック長野冬季大会のメダリスト。日本財団パラリンピックサポートセンター勤務。


第79回 みんなちがうから、おもしろい
 (朝日小学生新聞2020年2月6日)

 「人とちがうから目立ってしまうし、ジロジロ見られるのが、はずかしい。みんなと同じだったら安心できるけど、みんなとちがうからいつも不安になる。どうしたらいいですか」。このような質問を受けたことがあります。
 私は、大学生の時、交通事故に巻きこまれて、車いすで生活をするようになりました。車いすを使って初めて外に出た時、周囲の目が気になりました。みんなとのちがいや、自分ができないことに気を取られてしまったこともあります。
 世の中にはいろいろな価値観を持っている人がいます。今は、「みんなが同じだったらつまらないし、ちがいがあるからいい」と考えられるようになりました。他の人の「当たり前」に自分を合わせる必要はありません。いろいろな見方ができる人の方が、豊かな人生を送っていると気がついたからです。
 この夏、東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されます。大会をきっかけに、ちがいが尊重される社会になったらいいなと思っています。大会のエンブレムは、異なる3種類の四角形がつながりあうことで、「多様性と調和」が表現されています。みんなちがうから、おもしろい。ちがうけれど、つながれる。たがいに認め合い、支え合いながら、一つになる時代がやってくる。そんな思いがこめられているそうです。
 ちがいがあることは、悪いことではありません。あなたのことをわかってくれる人は、必ずいます。自信を持ってくださいね。

第78回 限界決めず目標に向かって
 (朝日小学生新聞2020年1月16日)

 みなさんは、新年に目標を立てましたか? 年末年始にかけて、目標のかなえ方について質問されることが多かったので、参考になりそうな考え方を紹介します。
 限界を自分で決めない。「私には無理かも」「ぼくにできるわけがない」と思っていたら、力を発揮できません。まずは「できる」と自分を信じるところから始めましょう。 
 私は「パラリンピックで金メダルを取りたい」という目標に向けてがんばっていました。当時はわからなかったけれど、ふり返ってみると、気づくことがあります。それは、うまくできないことを人や物のせいにしたり、不満やぐちが出たりするときは、気が散ったり、なまけたい気持ちが出ていたりするサインだったということ。
 そんな時は、自分の目標を見直します。人と比べず、昨日の自分、1か月前の自分と比べ、少しでも成長していたら自分をほめるのが効果的です。他人や、周りの状況は変えられませんが、自分の考え方や行動は変えることができます。日記や記録は自分の状況をつかむのに役立つので、書いて残しておくことをおすすめします。
 夢や目標は、動きません。向かっていくのも自分。逃げるのも自分です。ここまで読んで気づいた人も多いかもしれませんが、キーワードは「自分」です。自分を信じ、自分で決めたことに責任を持って努力すれば、その経験は成長の栄養になります。
 2020年がみなさんにとって充実した一年になりますように。

第77回 ともに活躍できる社会のため
 (朝日小学生新聞2019年12月19日)

 来年の東京パラリンピックのチケットは、第1次抽選販売の申込数が約311万枚に上ったと発表され、大会への関心の高さがうかがえます。応援する人、出場する人、支える人、様々な形で関わった人すべてが「よかった」と満足できる大会となることを期待しています。
 そして、この大会の開催がきっかけとなり、ちがいを認め合い、だれにも活躍のチャンスが与えられるインクルーシブな社会が実現することを願っています。
 インクルーシブな社会は、どうすればつくることができるのでしょうか。
 私たちは、国際パラリンピック委員会公認教材『I’mPOSSIBLE』日本版を開発し、学校に配っています。パラリンピックを題材に、共生社会への気づきをうながす教材です。
 現在、この教材を活用し、インクルーシブな社会づくりに役立つ活動をした2校を選ぶ『I’mPOSSIBLE アワード』への応募作品を募集しています。表彰式は、パラリンピックの閉会式で行われます。
 身近なところから社会を変える多様なアイデアや、それを実現させるためのすばらしい取り組みを世界に向けて発信したいと考えています。

第76回 自分の可能性、決めつけないで
 (朝日小学生新聞2019年12月5日)

 バングラデシュの経済学者で、2006年にノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌスさんの講演を聞く機会がありました。利益を追求するのではなく、社会課題を解決することが目的の「ソーシャルビジネス」を呼びかけている人で、貧困のない世界をつくるために活動しています。
 ユヌスさんは、「貧困は貧しい人たちが原因ではありません。そして、貧しい人は様々な機会をうばわれているのです」と説明しました。その状況を改善するために、それまでお金を借りるチャンスがなかった人たちにもお金を貸す仕組みを、バングラデシュでつくりました。
 その結果、長い間貧しい暮らしを強いられていた人たちがビジネスを始め、自らの力で生活水準を向上させ、経済的にも心理的にも以前より豊かな生活を送れるようになっているそうです。
 印象的だったのは、「自分のおかれた環境や、周りの人たちの言動に左右されて、自分の能力や人生を小さく見ている人が多いのが残念」と話していた点です。
 人生には、予想もできない出会いや出来事が待っていて、人間の可能性は未知数です。ユヌスさんは、難しいことに直面していても、自分の可能性を信じて生きることが大切といいます。
 自分の力ではコントロールできないことに悲観することなく、自分の可能性を信じて、物事に取り組む姿勢を大切にしてほしいというメッセージは、パラリンピックの精神と同じだなと思いました。

第75回 乗馬で新鮮な世界に出あう
 (朝日小学生新聞2019年11月21日)

 いつも見慣れた風景を、ちょっとちがった高さとスピードで経験する機会がありました。馬を育てている農家の友だちにさそわれて、自宅の近くを乗馬で散策したのです 。
 私は交通事故が原因で、両足が使えなくなってから20年以上、車いすで生活しています。立ち上がることができないので、車いすにすわった目線に慣れました。ですから、馬の背中から見える視界は、新鮮でした。信号も渋滞もない田舎の一本道は、いつもは車でさっと通り過ぎる場所です。馬のペースで歩いてみると、全くちがう場所にすら感じられるのが不思議でした。
 道ばたに生えている草花のにおい、冬眠の支度をしている小動物たちの姿など、自然の中でゆっくり観察する時間になりました。
 ちょうど肌寒くなる季節でしたが、馬から伝わる温かさが快適で、馬の体温が人間の体温よりも高いことを体感しました。なんとも言えないゆれが心地よかったです。
 馬は、いやしのパートナーだと言い、いそがしいトレーニングの合間に自分をリセットするため乗馬しにいくというカナダのパラリンピアンに会ったことがありますが、その意味が理解できました。
 みなさんもたまには、スローな生活をしてみてはいかがでしょうか。

第74回 成功につながる毎日の過ごし方
 (朝日小学生新聞2019年11月7日)

 カナダ人のトッド・ニコルソンさんと先月、日本で会いました。アイススレッジホッケー(現パラアイスホッケー)という競技の元選手です。パラリンピック冬季競技大会に、1994年のノルウェー・リレハンメル大会から、2010年のカナダ・バンクーバー大会まで、5回連続で出場しました。
 アイスホッケーの強豪国では、代表メンバーに選ばれるだけでも大変ですが、トッドさんは7年間キャプテンを務めた実力者です。 アスリートとして成功するための秘密を聞いてみました。競技成績の8割は、試合当日までにどんな準備をしてきたかで決まるといいます。練習が必要なのはもちろんですが、練習以外の時間をどう過ごしているかに注意をはらうことがかぎになる、と教えてくれました。
 規則正しい生活や、栄養のバランスのとれた食事、適切な休養は当たり前で、どんな状況でも自分の心をコントロールする力が最も大切です。失敗したときは、原因と解決策を見つける姿勢を忘れなければ、成長のエネルギーになります。人や用具を大切にし、感謝する気持ちを忘れてはいけません。
 勉強などでも、成功につながる過ごし方だといいます。

第73回 ミュージアムで大会の魅力発信
 (朝日小学生新聞2019年10月17日)

 先月、東京都新宿区に「日本オリンピックミュージアム」がオープンしたので、見学に行ってきました。「へえ、知らなかった」「そんなカラクリがあったんだ」と、だれかに伝えたくなる発見がたくさんありました。
 大会の歴史のほか、メダルや聖火トーチが間近で見られたり、競技が体感できたりするスペースもあります。展示の中には日本オリンピック委員会会長の山下泰裕さん、スポーツ庁長官の鈴木大地さん、オリンピック・パラリンピック担当大臣の橋本聖子さんらが日本代表選手としてメダルを獲得した当時の写真もありました。かつて選手として活躍した人たちが、来年の東京オリンピック・パラリンピック大会を支える側として活躍しています。
 ミュージアムは、東京2020大会の開閉会式が行われる新国立競技場の近くにあります。建物の天井などに使われている木は、1964年大会のときに各国の選手たちが持ってきた種を、北海道遠軽町で育てたものだそうです。
 わが家では、いろいろな記念日に植樹をし、思い出の森をつくっています。森にするだけでなく、植えた木で思い出の品を作るのもいいなと感じました。
 展示フロアの一角には、パラリンピックのことを紹介するコーナーもありました。もし私がパラリンピックミュージアムの館長さんになれるとしたら、何をどう見せて、どんな魅力を発信したいだろう。そんなことを考えながら見て回りました。

第72回 選手や観客が楽しめる環境を
 (朝日小学生新聞2019年10月3日)

 来年のパラリンピックに向け、本番を想定したテストイベントが多数開催されています。私は先日、ゴールボールの「ジャパンパラゴールボール競技大会」に2日間、ボランティアとして参加しました。会場は、本番と同じ千葉市にある幕張メッセで、日本チームのほか、アメリカとブラジルのチームが出場しました。
 ゴールボールは、視覚に障がいのある選手がボールの中に入った鈴の音をたよりに競技するので、声援があると競技が進まないスポーツです。私が担当したのは、会場内で「QuietPlease(お静かに)」と書かれたサインボードをかかげる係でした。ゴールの裏側のポジションだったので、普段はなかなか聞けない選手同士の会話や、ベンチからの指示なども聞こえ、得した気分になりました。ところが、試合に集中してしまうと、うっかりサインボードを出すタイミングがおくれそうになることもあり、これまでの試合観戦とはちがう経験になりました。
 選手がストレスなく競技に集中できるよう、また、観客のみなさんが楽しい思い出を残せるよう、大会の運営には多くの人の思いがこめられます。
 関わって初めて気づくこと、考えることもありました。みなさんも機会があればボランティアを体験してもらいたいと思います。

第71回 国旗や国歌から大会楽しむ
 (朝日小学生新聞2019年9月19日)

 先日、息子が通う小学校で、パラリンピックについて話をする機会がありました。来年、東京で行われる大会を、どんなふうに楽しみたいか聞いてみると、様々なアイデアが出てきました。
 中でもおもしろいなと思ったのは、「ぼくはスポーツが苦手だし、テレビ観戦も好きではないけれど、地理の勉強が好きなので、開会式と閉会式の選手入場を楽しみにしています」という意見でした。
 国名の書かれたプラカードを持つ人といっしょに、選手たちが行進します。彼の楽しみは、旗手が持つ国旗を見て国名を当てたり、国名を聞いて地図上の場所を当てたりするゲームを家族とすることだと言います。
 ちなみに2016年のブラジル・リオデジャネイロ大会に参加した国・地域は、オリンピックは206、パラリンピックは159でした。紛争などの影響で国をはなれていて、自分の国・地域から出場できない選手たちによる「難民選手団」も出場しました。
 スポーツの国際大会では、開会式、閉会式の入場行進以外にも、試合が始まる時や表彰式で国旗がかかげられたり、国歌が歌われたりします。みなさんは、国旗や国歌だけで国名を当てることができる国は、どれぐらいありますか?
 公用語がフランス語と英語のカナダでは、国歌に二つの言語の歌詞があります。また、スペインの国歌には、歌詞がないそうです。 大会をきっかけに、国旗や国歌から、その国・地域のことを調べてみるのもいいかもしれません。

第70回 すてきな文房具でやる気アップ
 (朝日小学生新聞2019年9月5日)
 

 カナダの学校は、9月から新年度がスタートします。学年が変わる節目で、文房具を買いかえる子どもたちが多いようです。この夏、日本で息子やお友だちからたのまれた品物を求めて文房具売り場をめぐりました。
 今回たのまれたものは、消せるボールペン、空のペットボトルにつけて使えるえんぴつけずり、書き心地のいいノート、針を使わず紙をとじることができるホチキス、好きなキャラクターの付せん紙などです。最近は、パラリンピックのマスコット「ソメイティ」の柄がついたえんぴつや消しゴムのリクエストも増えました。
 私は文房具売り場が大好きです。日本の売り場は種類が豊富で、アイデアやこだわりがつまった物がたくさんあります。商品の説明を読んで、使う場面を想像し、試して選ぶ過程が楽しいです。日本の文房具は、デザインも機能も質もいいので、海外におみやげで持っていくと大喜びされます。
 「なんだか勉強に気乗りしないな」という時でも、やる気スイッチを入れてくれるすてきなアイテムもあります。お気に入りのものを使えば、勉強がはかどったり、モチベーションを上げたりすることにもつながりますよね。ちなみに、わが家では、蛍光ペンのように使える極細の付せん紙のおかげで、以前よりみんな読書の量が増えました。
 みなさんも勉強や読書をするのがワクワクするような、お気に入りのアイテムを探してみてはいかがでしょうか。

第69回 先生たちがパラ競技を体験
 (朝日小学生新聞2019年8月15日)

 今年の夏休みは、先生たちを対象にした研修会で講師を務めることが多いです。
 私は、パラリンピック教育の進め方やパラリンピックスポーツの教え方を担当しています。2学期以降、学校の授業でパラリンピックの話題をあつかってもらうためです。実際にスポーツを体験することで、パラリンピック競技の魅力を理解してもらえるようにします。
 視覚に障がいのある人のために開発された、ゴールボールという球技を紹介しました。アイシェードと呼ばれる目かくしをして、鈴が入ったボールを使って行う、チーム対戦型の競技です。バスケットボールと同じぐらいの大きさのボールを転がすようにゴールに向かって投げ合い、得点を競います。
 この競技を体験することで、目からの情報がさえぎられた時のコミュニケーションを学ぶことができます。参加した先生からは「気づきや発見がたくさんあった」などの感想をいただきました。運動が苦手で、スポーツには抵抗があると言っていた先生も、笑顔で参加してくださったのが印象的でした。五感を使った体験は、記憶に残ります。情報の8割は視覚情報から得ていると言われていますが、聴覚、触覚、味覚、嗅覚も意識してみてください。

第68回 東京五輪・パラへ進む準備
(朝日小学生新聞2019年8月1日)

 来年7月24日は、東京オリンピック(五輪)の開会式です。大会開幕の1年前というタイミングで、都市鉱山から作られたメダルのデザインが発表になりました。首都圏では、大会期間中の交通渋滞対策の一環として、大規模な交通規制テストが行われました。着々と準備が進められています。
 海外のメディアが発信しているニュースをチェックしてみると、過去の五輪では予定より競技場の整備が遅れている例が多かったようです。しかし、東京は競技場の工事などがおおむね予定通りに進められていて、「すばらしい」と評価されているそうです。
 出場をめざしている選手たちのコメントには、暑さを心配する声が多いようです。そこで、暑さ対策に役立つ情報を集めたり、人工的に東京の夏の蒸し暑さを再現したりして、最大限の力を発揮できるように備えているといいます。
 東京五輪の後にはパラリンピックが開かれます。最近、海外から応援にかけつけようとしている人たちから、私に寄せられる質問も増えてきました。
 日本で食べられる料理のほか、公共の場所や観光施設でのWiFiの利用環境はどうなっているのか、日本語が読めなくても電車で移動ができるのか、など質問内容はさまざまです。
 海外の人も楽しみにしている大会を盛り上げていきたいですね。みなさんも競技体験ができるイベントに参加したり、大会の歴史を調べたりして、理解を深めてほしいです。

第67回 「孤立」せずたより合える関係を
 (朝日小学生新聞2019年7月17日)

 日本は、自然災害が多い国です。地震だけでなく、広い範囲で豪雨も記録されています。
 鉄道やバスが運休したり、道路が使えなくなったりします。水が出ない、電話が通じないなどの影響が出ることもあります。
 災害時には、早めの行動と安全な避難が求められます。しかし、なかには避難をあきらめる人がいることを知っていますか。
 例えば、車いすを利用していて、自力では避難場所までたどり着けないから行かない人。人と接するのが苦手な家族がいて、慣れない環境での生活がストレスになるから逃げない人。「自分が移動することで、他の人に迷惑をかけるから遠慮する」などさまざまな理由があるようです。
 カナダで脊髄損傷患者のためにボランティアをしようと、トレーニングを受けていた時のことを思い出しました。
 だれの力にもたよらずに、自分で生きていけることを「自立」と考える人が多いですが、それは「孤立」です。それよりも、たよれる人やモノを増やすことです。困っているときは、困っていると伝えます。助けが必要な時は、どんな助けが必要なのか、安心して言える関係を築くことが最も大切、という話を聞きました。
 災害時に発生するかもしれない被害を、できるだけ少なくするための取り組みを「減災」といいます。たより合える人との関係を日ごろから築くことを意識して、災害対策をしてみませんか。

第66回 大切な人に暑中見舞いを
(朝日小学生新聞2019年7月4日)

 暑さがきびしくなる時期です。先日、息子の通う小学校で「見るとすずしくなる」を題材にした絵画コンテストがありました。
 ホッキョクグマが氷河の上を歩いている姿、分厚く張った氷に穴を開けるアイスフィッシングを楽しんでいる様子、オーロラを見上げる子どもたちなど、すずしくなるのを通りこして、寒そうな様子を描いたものが多かったのが印象的でした。でも、暑い季節にながめると、すずしい気分になれそうな絵だなと思いました。
 先週、フランスでは、45度をこえる気温を記録したそうです。これから日本でも暑さが少しずつきびしくなります。暑中見舞いなど、大切な人の健康を気づかう短い便りを送ってみてはいかがでしょうか。すずしさを届けられるような絵をそえるのもいいでしょう。 暑中見舞いを送るのは、小暑から立秋の前日までの期間がよいそうです。今年は7月7日から8月7日までです。また、暦の上で「夏」とされるのは、立夏から立秋前日まで。その中でも最も暑さがきびしいとされているのが、夏の土用と呼ばれる約18日間で、この期間が「暑中」にあたるそうです。今年は7月20日からなので、夏休みに入ったらすぐ暑中見舞いを書くとちょうどいいタイミングになりそうです。
 外国へ送る人もいるかもしれません。日本から送るはがきは規定の大きさであれば、多くの国・地域に船便は60円、航空便は70円で届くそうです。ぜひ、メッセージを届けてみてください。

第65回 雨はきらいと思っていたけど
 (朝日小学生新聞2019年6月20日)

 梅雨の時期です。みなさんは、雨は好きですか? 私は外出しなければいけない日が雨だとおっくうで、雨は大きらいだと思っていましたが、息子の「お母さんは雨が好きだよね」という言葉に意表をつかれました。
 かさを持ちながら車いすをこぐのがやっかいなので、雨の日はきらい、と思っていたのです。ところが、よく考えてみれば、息子に言われたように、実は私は雨が好きでした。リラックスしたい時や集中したい時には、雨の音のBGMを利用しています。
 そして、雨の日の、あの独特のにおいも大好きです。英語では「ペトリコール」と呼ばれています。ギリシャ語で石を意味する「ペトラ」とギリシャ神話の中に出てくる神様の体を流れる不老不死の血「イコル」が語源だそうです。
そういえば、車いすの陸上競技をしていたころ、雨の日の練習は好きでした。車いすのレースでは、選手たちはグローブを使って、ハンドリム(ホイールの内側にある小型の輪)をこぎます。雨の日には、すべり止めの松やにをつけて臨みます。つけすぎると引っかかりが強すぎて、スピードに乗れないこともあり、足りないとすべってしまいます。私は、ちょうどいいあんばいを見つけるのが得意でした。
 雨の日はきらい、と頭から決めつけていた私は、息子の言葉のおかげで雨のちがう面に気づくことができました。きらいとか苦手だと思っていることも、ちょっと見方を変えれば、ちがうものに見えてくるかもしれません。

第64回 限られる移動手段や情報
 (朝日小学生新聞2019年6月6日)

 先日、使いなれている駅に到着したら、およそ2か月間エレベーターが工事中で使用できないとわかりました。幸いその駅には2か所エレベーターが設置されているので、遠い方のエレベーターに向かいました。ところが、そちらも工事中でした。
 エスカレーターを使おうとすると、警備員さんに止められました。安全対策のため、車いすを使う人の利用を制限している施設は少なくありません。「車いすを降りて、立って乗ってくれたら、係員がとなりで体を支える。別の係員が降りるところで車いすを持ってお待ちすることはできる」と言いますが、私には立ち上がるという選択肢がありません。
 別の場所に行けば車いす対応のエスカレーターがあると聞きました。「車いす運転モード」に切りかえれば、平らなスペースができて、車いすに乗ったまま移動ができるのです。仕方なく、その切りかえを待つことにしました。ところが、切りかえの判断をする人が常駐しておらず、30分後にならないと準備ができないそうです。
 警備員さんは、最終手段として、車いすのまま利用できる階段昇降機の利用をすすめました。ただ、時間がかかるので、ホームに着くまでに40分かかるというのです。
 車いすを利用している私は、いつも時間に余裕を持って出かけます。電車の遅延などは乗り換え案内のアプリなどで確認ができるのに、2か月動かないエレベーターの情報や稼働に時間がかかるエスカレーターの情報は見つけられません。結局、早めに出たのに大幅な遅刻でした。

第63回 暮らしやすい社会にするには
(朝日小学生新聞2019年5月16日)

 シンガポールで見つけた「グリーンマン・プラス」をご紹介します。横断歩道の青信号の時間を延長できるサービスの名前です。高齢者や体に障がいのある人が横断歩道をわたる時、押しボタンの上にあるパネルにICカードをかざすと、必要に応じて3~13秒延長されるという仕組みです。利用者からは、数秒のちがいが安全と安心感を生み出していると評判だそうです。
  「アクセシビリティー」という言葉を聞いたことがありますか? 英語で「利用しやすさ」「近づきやすさ」という意味です。来年、東京にはオリンピックとパラリンピックがやってきます。パラリンピックの運営を担う国際パラリンピック委員会は、大会の開催をきっかけに、アクセシビリティーの向上をうながすことを目的の一つにしています。例えば、公共交通機関の便利さや、情報の入手しやすさ、わかりやすさを改善することです。
 その結果、より多くの人にサービスが行きわたるようになり、障がいのある人もない人も暮らしやすく、居心地の良い社会になります。グリーンマン・プラスは、アクセシビリティー向上の良い例です。
 発想を変えたり、わずかな工夫をしたりすることが、大きな変化を生むこともあります。みなさんのまわりで改善できることはありますか?

 

第62回 自分の言葉で自国を説明しよう
(朝日小学生新聞2019年5月2日)

 この季節、カナダの自宅の庭には、こいのぼりが泳いでいます。息子が生まれた時、両親が送ってくれたものです。
 こいのぼりは、男の子の健康や成長を願うために、端午の節句にかざるものですが、その意義や歴史は、うろ覚えでした。「なぜ鯉なの?」「なぜ5月なの?」「ふき流しや矢車の意味は?」。夫や友だちに聞かれても、当時は明確な説明ができませんでした。日本で生まれ育っていたのに、自分の国の文化について、自分の言葉で伝えることができないのはとてもはずかしかったことを思い出します。
 実は、日本の年中行事に興味を持ち、くわしく調べるようになったのは、海外で生活をするようになってからでした。
 「留学したいけれど、何を勉強したらいいですか」「外国の人と交流したいですが、何かアドバイスはありますか」などと、相談を受けることがあります。
 別の国の言葉や文化に目を向け、情報を集めるのはすばらしいことです。でも、まずは自分のことや身近なことを、自分の言葉で説明できるようにするのがいいと私は思います。そうすることで、ちがいがわかったり、より深く相手の国のことを理解できるようになったりするからです。

第61回 パラリンピックのはじまり
(朝日小学生新聞2019年4月18日)

 来年の東京パラリンピックまで500日を切りました。今回は、パラリンピックの歴史を簡単にご紹介しましょう。
 パラリンピックとは、障がいがあるアスリートが出場できる世界最高峰の国際競技大会です。第2次世界大戦後に、イギリスのストーク・マンデビル病院で働いていたドイツ人医師の考えで始まりました。
 このグットマン博士は、パラリンピックの父と呼ばれています。戦争で負傷し、車いすで生活をすることになった人たちのリハビリに、スポーツをとり入れました。
 患者がスポーツをするという考えがまだ新しかった当時、「スポーツなんて危ない」と反対する人も多かったそうです。でも、スポーツのおかげで、自信を取りもどし、体力や筋力をつけ、短期間で社会復帰できる人が増えていきました。そして、スポーツの効果は少しずつ認められていきました。
 この病院で1948年に開催されたアーチェリーの大会がパラリンピックの原点で、16人の選手が参加しました。60年には、イタリアのローマで23か国から400人の選手が集まり、大会が開催されました。この大会が後に、第1回パラリンピック競技大会と呼ばれるようになりました。

第60回 パラリンピックの魅力を伝える
(朝日小学生新聞2019年4月4日)

 来年の東京パラリンピックまで、4月13日で500日になります。みなさんにとって、2020年の大会はどのような存在でしょう。
 私はこれまで、複数のパラリンピックに選手、メディア、ボランティアなど様々な形で関わってきました。現在は、国際パラリンピック委員会の教育委員も務めていて、各国の教育現場から大会をもり上げようという活動に取り組んでいます。
 私が競技をやっていた20年ほど前は、まだパラリンピックという名前すら知らない人も多かったですが、最近は日本の学校を訪れるたび、競技の名前やルール、選手の名前を知っている人が増えてきたと感じています。来年には世界中から選手がやってくるので、多くの人に応援してもらい、ファンを増やしたいです。
 パラリンピックは、単なるスポーツの祭典ではありません。大会を開催することで、住みやすい社会に変えていこうという考え方があります。パラリンピックには、多種多様な障がいのある選手が出場します。それぞれの選手たちが活躍できるよう、用具やルールなど、様々なところに工夫があります。
 工夫の仕方や、発想の転換のアイデアをパラリンピックから学び、その知識を競技場以外の場所でも適用することができれば、私たちが住んでいる社会は、より多くの人にとって住みやすいものになるのです。
 このコラムでは、住んでいるカナダのこと、仕事で訪れる多くの国の状況などをお伝えしながら、来年の大会の魅力、各国の選手たちの思いなどにせまりたいと思います。

第59回 調べようパラリンピック
(朝日小学生新聞2019年3月15日)

 私は、スーツの左えりに東京オリンピック(五輪)・パラリンピックのピンバッジをつけています=写真。日本に住んでいるみなさんは、見かけたことがあるロゴマークではないでしょうか。最近は新聞や雑誌、テレビコマーシャル、スーパーに並ぶ商品でも目にする機会が増えました。まだ見たことがない人は、ぜひ探してみてください。
 最近は、海外出張に出かけた先でも、このピンバッジのロゴに気がつく人が増えました。知らない人から、来年の2020大会に関する質問をされる機会が多くなりました。「TOKYO 2020」は世界から注目をあびているのです。12日は五輪の500日前でした。4月13日はパラリンピックの開催まで500日の節目です。
 春休みには、ぜひパラリンピックに関することを調べてみてください。小学生のみなさんが選んだマスコットは、外国におみやげに持っていくと、とても喜ばれます。キャラクターの名前や特徴を知っていますか。五輪では33競技、パラリンピックでは22競技が行われますが、競技の名前をいくつ言えますか。
 スポーツが体験できるイベントも各地で開かれるので、参加してみるのもいいですね。
 選手たちは、自分がやっているスポーツのことを多くの人に知ってもらい、応援してもらうことで大きなパワーをもらいます。今年はプレ大会が開かれ、海外から事前合宿にやってくる人たちもたくさんいます。大会をより楽しむために、今から、いろいろな情報を集めてみてください。疑問があれば、ぜひ質問をお寄せください。

第58回 将来の自分にメッセージ
(朝日小学生新聞2019年3月1日)

  日本では春は別れや出会いの季節。もうすぐ卒業式のシーズンですね。
 卒業式といえば、私はいまだに、小学校の卒業式の答辞を覚えています。何度も暗唱の練習をしたおかげなのか、今でもスラスラと内容を思い出せます。原稿を覚える時に使っていたイラストが、今も頭にうかびます。
 卒業アルバムは、もらったばかりの時には何度もながめていましたが、そのうち押し入れの奥にしまったままになっていました。
 再びアルバムを手にしたのは、20歳をむかえた年の同窓会。当時の仲間と卒業アルバムをめくって思い出話に花をさかせました。写真を見ながら、運動会や遠足などの学校行事を思い出し、関連したエピソードがつきず、楽しい時間が続きます。
 わが家は父親の仕事の関係で転校することが多かったので、卒業アルバムを見ても自分が写っている写真が少なくて残念に思うこともあります。でも、アルバムの最後の方に書かれた友だちからのメッセージを読み返すと、顔が目にうかび、当時はあんなことを考えていたのかとなつかしいような、はずかしいような思いにもなります。
 友だちの卒業文集やアルバムにメッセージをそえる時は、心をこめて、今のあなたにしか書けない思いを記しておくといいと思います。そして、将来の自分に向けたメッセージを残しておくのもおすすめです。
 自分の夢や願いを書きとめておくことはとても大切です。アウトプットすることで、より具体的なイメージとなり、それが現実となるからです。
 まもなく卒業するみなさん、ご卒業おめでとうございます。

第57回 スケートリンクで学ぶ
(朝日小学生新聞2019年2月15日)

 

 カナダの首都オタワは、1月末から2月にかけて最も寒い時期をむかえます。運河の水がこおり、世界最長の屋外天然スケートリンクとして開放されます。「ウィンタールード」と呼ばれる冬のお祭りも開催され、大勢の人々が寒い冬空の下、楽しみます。このリドー運河は、全長およそ202キロメートルの世界遺産で、1832年に開通した当時とほぼ同じ姿で使われています。スケートリンクとして開放されるのは7・8キロメートルです。
 スケートリンクを管理する人に話を聞く機会があり、こおった運河の一部から円筒状に切り取った氷を見せてもらいました。70センチほどの厚みの氷には、白い部分とすき通った部分があります。気泡が少なく強度が高い透明な氷が30センチ以上あれば、運河が一般開放されます。
 話を聞いた日、気温はマイナス17度で、よく晴れた日でした。氷の表面がとけてしまわないかと心配する子どもたちの質問には、「やっかいなのは日光ではなく雪。氷と雪の間にできた空気の層が氷をとかしてしまうので、積雪後は速やかに除雪する」と答えていました。
 説明してくれたブルースさんは「知らなかったことを知り、わからなかったことがわかるようになるのが勉強。だからいろいろなものに興味を持ってほしい」といいます。「勉強」と聞くと「難しい」「苦手」と連想する子どもも少なくない中、説明を聞き、目をキラキラかがやかせている子どもの姿が印象的でした。

第56回 「大丈夫」と言い聞かせて
(朝日小学生新聞2019年2月1日)

 

 この時期、中学の入試をひかえている人もいるかもしれません。試験の前は不安になったり、心配になったりすることもあると思います。でも大丈夫。自分を信じて最大限のパワーを引き出せる方法があります。これまで一生懸命勉強してきたことが、ストレスのせいで発揮できなかったら、もったいないですよね。
 心と体は、深く関係しています。やる気が出ない時、不安でつぶれそうな時は、どうしても体が丸まったり、縮まったりしがちです。心の状態が、体に表れることは理解しやすいと思いますが、心と体の関係は一方通行ではないことを知っていますか。つまり、体や行動が心に影響をあたえることもあるわけです。
 姿勢を正しくして、胸を張って堂々とした態度をとってみましょう。2分間その姿勢を持続することで、不安な気持ちが軽くなったり、自信がわいてきたりすることが、研究で明らかになっています。姿勢や態度を変えることで、感情やストレスが調整できるのです。
 車いすテニスの国枝慎吾選手は、世界一の座に何度も君臨していますが、ラケットに「おれは最強だ」と書かれたテープを貼っていることが知られています。鏡に向かって、「おれは最強だ」と毎日言い続けたこともあるそうです。
 受験生や、やりたいことに挑戦する人も、鏡の前で自分をふるい立たせる言葉を自分に言ってみてください。望む通りの結果が出て、喜んでいる姿を想像してみましょう。そして、本番では、弱気な自分を消して、「大丈夫」「できる」と自分に言い聞かせて、最高の結果を残してください。


第55回 目標に向かって、高く高く
(朝日小学生新聞2019年1月18日)

 

 今年最初の海外出張で、アラブ首長国連邦にあるドバイに行ってきました。私たちが開発や普及に携わっている国際パラリンピック委員会公認の教材「I’mPOSSIBLE」日本版の功績が認められたのです。日本パラリンピック委員会が「ムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム クリエイティブスポーツ賞」を受賞し、その表彰式に参加してきました。
 スポーツにおける先進的な取り組みをした人や団体が、世界中の候補者の中から選ばれます。私たちは、パラリンピック教育を通し、スポーツと教育の力で社会を変えようと活動していますが、その取り組みが認められたのは、大変うれしいことでした。
 表彰式が行われた日の夜は、「世界一高い場所で、世界一の人たちと受賞の喜びを分かちあっていただきたい」という主催者の粋な計らいがありました。ドバイには、ブルジュ・ハリファと呼ばれる世界一高いビル(高さ828メートル、206階建て)があり、そこにのぼりました。息子たちが小さいころ大好きだった「100かいだてのいえ」シリーズの絵本を思い出し、2倍もあるんだなあと、ふと考えました。
 「サウジアラビアに建設中のビルは、高さ約1千メートルで2020年に完成するそうだ」とだれかが言うと、「それならまた世界一になって、そのビルの上でもお祝いをしなくちゃね」と。みなさんも、目標に向かってがんばり続けられる1年でありますように。


第54回 自分の国を自分の言葉で
(朝日小学生新聞2019年1月4日)

 新年あけましておめでとうございます。みなさんは年末年始をどのように過ごしましたか? わが家は例年のように、クリスマスは夫の両親の家で過ごし、お正月はわが家でゆっくり家族とむかえました。
 私にとって、日本の文化や伝統を一番意識するのは、毎年この時期のように思います。正月にまつわる行事や風習、正月かざりやおせち料理にこめられた意味や由来など、みなさんはどんなことを知っていますか?
 わが家では毎年、おせち料理を作っていますが、近年は息子たちも手伝ってくれるようになりました。日本の大切な伝統として覚えてもらうために、材料や料理にこめられた意味などを、ていねいに説明しながら作りました。気がつけば、日本に住んでいる時に比べて、かなりくわしくなりました。
 いよいよ来年は、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されます。東京だけでなく、日本全国に外国からたくさんのお客様が訪れます。自分たちとはちがう国で生活する人たちに、聞いてみたいことはどんなことでしょう?
 みなさんが伝えたい日本の伝統行事や文化は何でしょうか? 伝えたいと思う魅力はどんなところにありますか? 多文化に興味を寄せることはもちろん大切なのですが、まずは自分たちの住んでいる国のことを、自分の言葉でしっかりと説明できるようにしてみましょう。
 国際理解を深めるために、まずは日本の魅力について考えたり、発信したりしてみてください。

 
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