朝日小学生新聞
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吉野彰さん ノーベル賞

朝日小学生新聞 2019年10月11日付け

リチウムイオン電池開発

 スウェーデン王立科学アカデミーは9日、今年のノーベル化学賞を、リチウムイオン電池を開発した吉野彰さん(71歳)とアメリカの2人の教授に贈ると発表しました。リチウムイオン電池は私たちの身の回りで広く使われています。日本のノーベル賞受賞は、27人目です。

 「リチウムイオン電池が受賞対象になったことは非常にうれしく思いますし、またいろんな分野で若い人たちが研究なさっています。そういう人たちの大きなはげみになってくれるのでは」。ノーベル賞の発表直後に開かれた記者会見で吉野さんは力強く語りました。


リチウムイオン電池の模型を手に、笑顔を見せる吉野彰さん
=9日、東京都千代田区の旭化成東京本社、八木みどり撮影

くり返し充電できる
 リチウムイオン電池はくり返し充電できる電池です。それまでの充電池と比べて、たくわえられる電気の量が多いのが特徴です。これにより、スマートフォンやパソコンなどを軽く、小さくするなど、私たちの生活を便利にしてきました。

 

 最も軽い金属のリチウムを使った電池は多くの人が長い年月をかけて開発してきました。今回いっしょに受賞が決まったスタンリー・ウィッティンガムさん(77歳)が1970年代に、リチウムを電極に使う充電池を初めて作りました。

 

  また、もう一人の受賞者となるジョン・グッドイナフさん(97歳)がリチウムイオンをふくむ物質をプラス極に使うことで電圧を高くできることを発見しました。ただ、いずれも爆発などの危険性がありました。だれでも使える製品にするため、もっと安全なものにする必要がありました。

 その課題を乗りこえたのが吉野さんです。マイナス極に炭素材料を使う方式を開発し、85年に基本特許を出願。安全性が高まり、いまのリチウムイオン電池の元になりました。

 さらに高性能な充電池の開発は今も多くの研究者が進めています。吉野さんは「現在は、AI(人工知能)やロボットなど、次の大きな変革が始まっています。そういうものと合わさりながら、新しい世界をつくっていくんだと思います」。

 研究者には「頭のやわらかさ」と「あきらめないこと」が大事だという吉野さん。「大きな壁にぶちあたったときも、『なんとかなるわね』というやわらかさがいると思います」といいます。


イラスト・池田圭吾

みんなの近くにあるよ
 ノートパソコンやゲーム機、電動アシスト自転車、ロボット型掃除機。リチウムイオン電池は、私たちの身の回りで、さまざまな形で使われています。みなさんも探してみましょう。

 リチウムイオン電池がない世の中だったら、スマートフォンなどは今よりずっと重くて使いにくかったことでしょう。

  最近は電気自動車や飛行機、はやぶさ2などの探査機や国際宇宙ステーションなど、ますます活用が広がっていて、私たちの生活に欠かせない存在になっています。

ゲーム機、スマートフォンなど
電動アシスト自転車
ロボット型掃除機
ハイブリッド車

小4で化学好きに
 吉野彰さんは大阪府吹田市で育ちました。今は万博記念公園や住宅地が整っていますが、吉野さんが子どものころは太平洋戦争が終わってほどなく、竹やぶだらけでした。よくトンボをとって遊んだといいます。

 

 化学に興味を持ったのは吹田市立千里第二小4年の時。学生時代に化学を学んでいたという担任の先生が、1冊の本をすすめてくれました。イギリスの科学者ファラデーの『ロウソクの科学』でした。

  「ロウソクはなぜ燃えるのか、炎はなぜ黄色いのかといった内容で、子ども心に化学はおもしろそうだなと思った」と吉野さんはふり返ります。

 「好きこそものの上手なれ(人は好きなことに対しては熱心に努力するので上達が早い、という意味のことば)。子どもが関心を持つと、どんどん得意になるんです」

 身の回りの材料で実験に熱中しました。トイレの洗浄のために置いてあった塩酸を、近くで拾った鉄のかたまりにかけては、ボコボコと出る泡を見て、おもしろがったそうです(今は6年生の理科で習う実験です)。

 好きが高じて、その後、化学が得意科目になりました。

【ノーベル賞】
 「人類に最大の貢献をもたらした人々に毎年、賞金をおくるように」。ダイナマイトの発明で大金持ちになったスウェーデンの科学者アルフレッド・ノーベルの遺言で、1901年に始まりました。

 今は物理学、化学、医学生理学、文学、平和、経済学の6部門です。賞金は900万スウェーデンクローナ(約1億円)。授賞式は12月10日にスウェーデンの首都ストックホルム(平和賞はノルウェーの首都オスロ)で行われます。


イラスト・佐竹政紀

【朝日小学生新聞の新刊】『日本のスゴイ科学者』

 朝日学生新聞社出版部は、ノーベル賞級の科学者のことがよくわかる書籍『日本のスゴイ科学者』を発売しました。

『スマホの電池ってどういうしくみなのだろう?』
 本書では、ノーベル化学賞に選ばれた旭化成名誉フェロー・吉野彰さんの発明や、「未来の電池はどうなるのでしょうか?」「なぜ科学者になったのですか?」などのインタビューを掲載。

スマホの電池をつくった人

旭化成名誉フェロー吉野 彰先生

 みなさんは電池のしくみを知っていますか? 電池のなかには、金属などでできたマイナス極(電子という電気のもとを出すところ)とプラス極(電子を受け取るところ)があります。マイナス極から出た電子が、プラス極に流れることで電気が流れるのです。逆向きに電子が流れる現象が、充電です。
 家にある電池を探してみましょう。スマートフォン(スマホ)、デジタルカメラ、ゲーム機などに入っているのがリチウムイオン電池です。軽くて小さいのにたくわえられる電気の量が多く、安全にくり返し充電できることが特徴です。このリチウムイオン電池の開発者が、吉野彰先生です。吉野先生は、現在のような安全にくり返し充電できるリチウムイオン電池を1983年に発明しました。さまざまな組みあわせをためし、マイナス極に炭素素材、プラス極にコバルト酸リチウムを使いました。
 これまで世界中の科学者は、リチウムを使った充電池をつくろうとしましたが、実用化はできませんでした。金属リチウム電池は、1960年代にマイナス極にリチウムを用いて開発されました。しかし、リチウムは水と激しく反応することや、充電するとトゲトゲの結晶をつくって電池をこわす危険性も知られていました。だれでも使える製品にするため、一番に安全性を考える必要がありました。
 吉野先生は、リチウムをマイナス極ではなくプラス極に使うという逆転の発想をしました。その背景には、2000年にノーベル化学賞を受賞した白川英樹先生の研究が大きく影響をあたえています。さらに、吉野先生が使ったコバルト酸リチウムは、物理学者の水島公一先生の研究によるものです。
 リチウムイオン電池がない世の中を想像してみましょう。スマホは、今より大きくて重く使いづらいでしょうね。リチウムイオン電池は世界を変えた電池なのです。今では、電気自動車などの分野でますます広がり、これからもっと欠かせない存在になるかもしれません。リチウムイオン電池を見たら、日本人の基礎研究がギュッとつまった、ノーベル賞級の製品だということを思い出してください。


吉野彰先生の経歴

◉小学校
 大阪府吹田市立千里第二小卒業
◉中学校
 大阪府吹田市立第一中卒業
◉高校
 大阪府立北野高卒業
◉1970年
 京都大学工学部卒業
◉1972年
 旭化成(旧・旭化成工業)に入社
◉2001年
 旭化成電池材料事業開発室長
◉2017年
 旭化成名誉フェロー
 名城大学大学院理工学研究科教授
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《吉野先生インタビュー》

人類の歴史から新たな発想力を

Q リチウムイオン電池はどんどん小型軽量化していますね。
A はい。一番大きな理由は、プラス極やマイナス極に使う材料の改良が進んでいることです。1980年代の電池とくらべ、体積が12分の1ほどになりました。
Q 今後、電池が重要になっていく分野は?
A 自動車や蓄電システムがあげられます。次世代の乾電池には、2019年の2倍近い性能が求められています。性能を上げるとともに、安全性も考えなければいけないため、しばらく時間がかかりそうです。
Q 未来の電池はどうなるのでしょうか?
A 高性能になるのはもちろんのこと、みんなで共有する形になっていくと思います。車とスマートフォンの電気がシェアできるなど、充電のやり取りができるようになるでしょう。
Q なぜ科学者になったのですか?
A 小学校の先生に、イギリスの科学者ファラデーが書いた「ロウソクの科学」という本を紹介してもらい、おもしろいと思いました。やってみないと何が起こるかわからないところが科学のおもしろさです。
Q 実験がうまくなるには?
A だめだったとしても、うまくいかなかった理由を考えるのが一番の近道だと思います。その理由がわかれば次はうまくいくはずです。うまくいかない方が実は楽しいし、それが成功につながるんです。
Q 科学者に大切なことは何ですか?
A 自分の国の言葉を理解しないと、自分たちの文化が理解できません。英会話のようにツールとして必要な勉強と、新しい発想を生み出すための勉強はちがうんです。
Q 新しい発想を生み出す勉強って?
A 人が考えないような独創的なことを見つける勉強のことです。科学者は、自分なりに未来を考えるような発想がいります。リチウムイオン電池も「きっとこんな未来になっている」と考えてつくりました。
Q だれでも発想力はつきますか?
A 歴史を勉強するのが大切。記憶の学問と思われがちだけど、実は歴史って人類の過去の遺産でもあります。いろんな人が失敗や成功をしているでしょう。そういう大きな流れが自分なりにわかると、未来が見えてくると思います。


吉野先生を中心とする研究室では電池に関するさまざまな研究をしていました
(どれも吉野先生提供)

吉野先生が初めて開発したリチウムイオン電池の試作機
クリックすると拡大します

 日本科学未来館の協力のもと、朝日小学生新聞で2017年に連載したコーナーを書籍化しました。

「スマホの電池ってどういうしくみなのだろう?」
「細胞ってどうつくられているの?」
「免疫でがんを治すってどういうこと?」
「世界一正確な時計って?」
「地球がリサイクルされるってどういうこと?」

 私たちが当たり前のように使っているものや知識は、この本に登場する29人の日本人科学者の発明や発見かもしれません。医学、生物学、化学、物理学、地学など、自然科学の第一線で活躍する「スゴイ科究者」を取りあげています。

  難しくみえる研究をイラストでわかりやすく解説し、最新の研究や科学の豆知識も新たに盛りこみました。 科学者の思いや人となりが伝わるように、子ども記者によるインタビューもたくさん掲載しています。「科学者の最高栄誉賞」といわれるノーベル賞の特集もあります。

▼掲載する29人の科学者(掲載順・敬称略)
・医学 本庶佑/坂口志文/満屋裕明/遠藤章
・生物学 岡崎令治/岡崎恒子/郷通子/森和俊/竹市雅俊/平野達也/沈建仁/神谷信夫/鳥居啓子/根井正利
化学 中西香爾/岸義人/藤嶋昭/吉野彰
・物理学 森田浩介/十倉好紀/細野秀雄/古澤明/中沢正隆/香取秀俊/佐藤勝彦
・地学 山口耕生/廣瀬敬/巽好幸/金森博雄

<編著プロフィール>
日本科学未来館

 今、世界に起きていることを理解し、どんな未来をつくっていくかをともに考え、語りあうサイエンスミュージアムです。展示や、科学コミュニケーターによるワークショップなどを通し、テクノロジーや地球環境、宇宙の成り立ち、生命の不思議まで、先端の科学技術を体験することができます。

■インターネット書店やお近くの書店、朝日新聞販売所(ASA)でお求めください。
■お問い合わせは、朝日学生新聞社出版部(電話番号03・3545・5436、平日午前10時~午後6時)。

<商品情報>
『日本のスゴイ科学者』
2019年月10月7日発売
ISBN 978-4-909064943
本体価格1500円+税
ウェブサイト商品ページ( https://www.asagaku.jp/kikan/kako/2019.html#201920
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