古木を守る
遺伝子銀行


 今年3月、神奈川県鎌倉市の鶴岡八幡宮にあった樹齢800年以上といわれる大イチョウが倒れました。静岡市清水区では、樹齢650年以上といわれる伝説の「羽衣の松」が弱ってしまったため、10月で世代交代することになりました。各地で古木のピンチがあいつぐ中、守る活動が始まっています。

 

クローンの苗木を育てて保存

 

東京・上野公園のローソンヒノキのクローンのようすを見る板鼻さん=茨城県日立市の林木育種センターで。この木はアメリカの第18代大統領だったグラントさんが1879年に植えたことから「グラントヒノキ」の名で親しまれてきました。近年、弱ってきて、2005年度に東京都から依頼を受け遺伝子銀行に保存されることになりました

 農林水産省・森林総合研究所林木育種センターで貴重な木の遺伝子を保存する板鼻直栄さんは古木の価値について「長く生きてきた古木は虫や風の被害に強い可能性があり、とても貴重な資源です」と話します。

 

 このセンターは2003年から「林木遺伝子銀行110番」という事業を始め、貴重な木を苗木の状態で保存しています。全国各地の天然記念物などに指定された古木などの枝などをあずかり、さし木などで元の木とまったく同じ遺伝子をもったクローンの苗木を育て、センターに保存する一方、一部は里帰りさせています。

 

 これまでこの制度で集めた例は128件。センターはこの制度以外でも独自に数百本の古木を保存しています。

 

  「もしその木が枯れたり、山火事などで失われたりしても、同じ木を復活させることができます」

 

 保存している木の中には、スギやアカマツなど、どこでも見られるような種もあります。「屋久島(鹿児島県屋久島町)の縄文杉など、さまざまなスギを保存しておくと、将来スギが健全に育つことの保険になり、品種改良にも役立つ可能性があるからです」と板鼻さん。

 

 わたしたち人間の顔や性格が一人ずつちがうように、スギという一つの種にも性質のちがいがあります。いま日本に植えられているスギは、木材として加工するのに適したまっすぐ育つなどの性質をもった木が多く、昔から自然に生えていたさまざまな性格をもったスギが減っているそうです。

 

 「近い遺伝子の木ばかりで実を結ぶと病気になりやすくなる可能性もあり、多様な木を保存することが大切なのです」と板鼻さんは話します。

 

 遺伝子銀行が保存する前に、絶滅したり、野生が姿を消してしまったりした木もあります。

 

 ツクシアキツルイチゴとソロハギの2種が絶滅してしまいました。またコブシモドキは、鳥でいえばトキのように、人の手で育てられているものはありますが、野生の姿は見られなくなってしまいました。

 

ネットワーク 全国の活動を結ぶ

 

屋久島の縄文杉=屋久島町提供

 福島県郡山市の市民団体「千年の会」は「第2の大イチョウをつくるな」を合言葉に全国の木を登録し、ネットワークを作ろうとしています。木の代理人をつとめる自治体の首長や、団体が集まって、どうやって守っていくかを話し合っています。

 

 まだ鹿児島県屋久島町の「縄文杉」や、山梨県北杜市の「山高神代桜」など六か所の木が参加しているだけですが、事務局は「今年中にも50か所の木に広げたい」といいます。

 

 今年は縄文杉を代理する屋久島町長が会長となり、同町で会合を開きました。屋久島の地域づくりの専門官、松田賢志さんは「全国の古木をかかえる自治体は、その価値をもっと広く知ってもらい、町おこしに役立てたいと思っています」。

 

 屋久島は1993年に世界自然遺産に登録され、「それまで年間約7万人だった観光客が約30万人に増えました。そのうち7割が縄文杉を見に来る」といいます。町には活気が出ましたが、問題も起きています。

 

 「一番大きいのはトイレやゴミ処理です。また大勢の人が登山道を歩くので、木の根への影響も心配され、人数を制限するなどのルール作りを考えています」と松田さんは話しています。


朝日小学生新聞2010年7月30日付

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