こどもアサヒ

東大の研究室で先端科学に迫る

 日々新しい事実が発見され発展を続けている科学の世界。科学者たちはどんなふうに自然界の謎に挑んでいるのでしょう。朝日中学生ウイークリー読者の中学生が東京大学の研究室を訪れ、最前線の研究の一端に触れさせてもらいました。

嶋田正和先生(右から3人目)の研究室を中学生が訪問=どれも東京都目黒区の東京大学駒場キャンパスで

読者が訪問 院生が案内

生物の行動・進化を研究
昆 虫

 生物の行動や進化などを研究している、総合文化研究科の嶋田正和教授の研究室。アズキを食べるアズキゾウムシや、アズキゾウムシに寄生して生きるハチ、ハエなど、小さな昆虫を使って研究しています。昆虫を飼育する恒温器が並び、行動を記録するビデオカメラや顕微鏡、コンピューターなどが置かれたなかで、学生らが熱心に実験や観察をしていました。

 訪問した中学生は、アズキゾウムシの産卵を観察することに。アズキゾウムシの入ったシャーレにアズキを加えると、メスはアズキを調べるように上に乗ってグルグルまわり始め、やがて白い卵が一個だけ産みつけられました。幼虫がほかの幼虫とえさを取り合わずに成長できるよう、メスは産みつけられた卵が少ないアズキを選んで産卵するのです。昆虫の「頭の良さ」を実感しました。

 

培養しているES細胞を顕微鏡で観察する中学生たち

 嶋田先生は「小さな昆虫と豆という簡単な材料ですが、データを解析したりすることで、自然界の謎の深いところが解き明かせるのです」と話しました。

 

するなど活動を続けています。今後は禁止地区が広がることが目標。同じような取り組みが静岡市以外に広がっていくことも願っています。

再生医療で注目の研究
ES細胞

 総合文化研究科の浅島誠教授の研究室は、カエルやイモリなどを使って、生物が受精卵からどのように各器官を作って個体になるかを解明しようとしています。浅島先生は「世界のアサシマ」といわれる生物学者で、これまでに試験管の中で心臓など22の人工器官を作り出すことに成功し、再生医療の扉を開いたともいわれます。

 ここでは、体のすべての組織になれることから「万能細胞」と呼ばれ、再生医療で注目される「ES細胞」も研究しています。37度に保たれた恒温器の中には、大学院生らが培養しているマウスのES細胞が入っていました。

 訪れた中学生は、ES細胞が神経や内臓、筋肉など様々な「細胞種」に分化していくことを理解するため、一週間ほど培養したES細胞を顕微鏡で観察。ガイド役の大学院生・林洋平さんは「様々な証拠を集めて、本当かどうかを調べることが科学の本質」と、ES細胞の特徴や分化を確かめる実験法も教えてくれました。

アズキゾウムシ(上)と天敵のゾウムシコガネコバチ(下)=嶋田先生提供
アズキゾウムシの産卵をじっくり観察
中学生に説明する大学院生の堀部直人さん(東大院生・荒川雅さん撮影)

▼大学院生の堀部直人さん(博士課程)

昆 虫

ライバルと天敵両方いると全滅しないのは?
進化の視点から行動の謎を解く

 こんにちは。研究者の「幼虫」です。「成虫」になることを目指し勉強する毎日です。いま僕は昆虫の行動という自然界のパズルに挑んでいます。とっておきのパズルを一つ紹介しましょう。

 主役はアズキゾウムシ(体長2〜3ミリ)。彼らはアズキを荒らす害虫で、同じくアズキをめぐって戦うヨツモンマメゾウムシというライバルがいます。さらにゾウムシコガネコバチ(体長1〜2ミリ)という天敵もいます。どちらと一緒にいても、アズキゾウムシは全滅してしまいます。でも、ライバルと天敵の両方がいると、なかなか全滅しません。なぜ?

 このようなパズルに答えていくことで、自然に対する個別の知識が増えていきます。長年にわたり蓄積されてきた自然界の知識から、法則を導くこともできます。

 たとえばさっき紹介したパズル。天敵のハチが、競争する2種のゾウムシのうち数が多い方を重点的に食べる(実際はゾウムシの幼虫にハチが卵を産む捕食寄生)「スイッチング捕食」があるため、というのが答えです。ここから、「2種が競争している中にスイッチング捕食者が入ってくると、2種の共存が促進される」という一般則を導くことができるのです。

 いままでに発見された最大の法則は「進化」です。僕が専門としている行動生態学は、進化という視点から行動の謎を解いていく学問分野で、自分の子孫をたくさん残すように動物は振る舞うと考えます。実際この考えで、カクレクマノミの性転換やライオンの子殺しなどのパズルが解けてしまいます。

 人の心を進化から説明しようとする進化心理学という分野もあります。

 小さな昆虫から導かれた法則が人の心にもあてはまるかもしれない。魅力的だと思いませんか?

 研究室に来てくれた中学生たちは、いつ声をかけようか困るくらい、じっと小さな虫を観察していました。観察は秘密に迫る一番の方法です。何かの「卵」であるみんなも、まわりをじっくりと観察して立派な「成虫」になってください。

参加した中学生の声
子孫を残す大切さ知る
 笹倉くん(一年)
 顕微鏡で見なければならない大きさのハチが世の中にいるということに驚きました。ほかの虫の幼虫に卵を産むなんて、とても横着な生き方だと思いました。しかし生き物にとって、どんな手段をとろうとも、子孫を残すことがそれだけ大切なことなのだと思いました。ぼくがこれまでに育てたことがある昆虫の中にも、いろいろな生き方をするものがあったことを思い出しました。


 

 

 

 

 

 

▼大学院生の林洋平さん(博士課程)

▲神経細胞の顕微鏡画像。いびつな三角形やアメーバーのような形で、細長い糸のような「軸索」を伸ばしています
▼観察したES細胞をスケッチ。形は様々でした
▲パソコンを使って、ES細胞の分化を確かめる実験法を説明する林さん
▼林さんの説明を熱心に聞く中学生たち

ES細胞

いったい何面相? 体のすべての組織になれる細胞
発生を解明し、再生医療の道ひらく

 僕が研究しているES細胞は、体のすべての組織になることができる細胞で、顕微鏡でその様子を観察することができます。ES細胞自体は丸い細胞で、多くの細胞が集まった「コロニー」(かたまり)を形成しています。培養条件を変えることで、様々な細胞種へと分化、つまり変身します。

 ES細胞が分化した神経細胞は、細長い「軸索」を伸ばして隣り合う神経細胞と結びつき、ネットワークを作ります。分化した心筋細胞は、培養皿の中でドクンドクンと拍動もするのです。研究で最初に感動したのは、こうした細胞の形の変化を直接見られることでした。

 ES細胞という万能細胞の研究は、今後ますます重要になってくるでしょう。その理由としては、まず生物が受精卵から個体になっていく過程、つまり「発生」を詳しく解き明かすのに非常に有効だからです。培養皿の中で万能細胞を分化させることは、発生の一部を再現していることになります。

 もうひとつは、万能細胞から分化させた特定の細胞を、傷ついた組織に移植して治療を行う「再生医療」への期待が高まっているからです。学問・研究の世界だけではなく、新しい医療として社会に大きく貢献できる可能性があります。

 「発生」と「再生医療」のどちらも、まだまだ解決しなくてはならないことだらけです。だからこそ僕たち研究者は常にチャレンジする気持ちを持って取り組んでいけます。普段の研究生活は、細胞や実験動物の世話など、中学生の君たちが毎日受けている授業と同じように(?)、地味で退屈になってしまうこともよくあります。でも、将来の夢に向かって常に努力することが大切なのは誰しも同じことです。

 今回の見学会では、僕が研究して最初に感動したことを中学生に同じように感じてもらいたいと思い、内容を考えました。顕微鏡をのぞく中学生の姿を見て、僕自身、初めて研究に触れたときの新鮮な気持ちを取り戻すことができました。

参加した中学生の声
不思議な生き物に驚き
 木村さん(三年)
 生まれて初めて「ES細胞」というものを見ました。ES細胞の中には神経や筋肉になる細胞があり、実際に見たとき、「えっ!? こんなのが神経や筋肉になっちゃうの」と驚きました。私にとってES細胞は不思議いっぱいの生き物(笑)でした。


 


朝日中学生ウイークリー4月13日号

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