人がぶら下がれるほど強い糸
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ジョロウグモ。糸の強さはクモの世界でもチャンピオン級という |
「御釈迦様はその蜘蛛の糸を……遥か下にある地獄の底へ、まっすぐにそれを御下しなさいました」
有名な芥川龍之介の小説『蜘蛛の糸』の一節です。
地獄にはカンダタがいた。人殺しだが、クモを助けたことがある男だ。御釈迦様は男を助けてやろうと考えたのだ。男は糸を上り始めた。ふと見ると、ほかの罪人も上ってくる。助かるのは自分だけで良い。「下りろ」。叫んだ瞬間、糸が切れた――という話です。
小説とはいえ、クモの糸に人がぶら下がれるものなのか?
奈良県立医大の大崎茂芳教授は、コガネグモの縦糸19万本を集めて太さ2.6ミリのひもをよりました。そのひもを部分的に使ったハンモックを作り、自分(体重65キロ)で乗ってみた。大丈夫でした。2007年、学会で発表。満員の会場は拍手喝采でした。
信州大繊維学部の中垣雅雄教授によると、「米デュポン社は『鋼鉄より強いナイロン』より強いといっている」といいます。
軽い防弾服などをめざして、カナダ、アメリカ、ドイツなどで人工的にクモの糸を作る研究を進めています。
中垣教授はこの強さを絹に生かそうと、約10年前から、カイコにクモの遺伝子を組み込むことに挑戦。07年、ジョロウグモの横糸成分が10パーセント混じった絹糸(スパイダーシルクと命名)を吐くカイコを作ることに成功しました。
横糸は弾力性が大きく企業の協力で、2年後に靴下として製品化する計画です。同時に、横糸より強い縦糸成分を吐くカイコも開発中です。
クモは嫌われ者。中垣教授も「あまり好きじゃない」という。でも、古くなった巣も食べて新しい糸を作るなど、リサイクルの面でもすぐれ者のクモ。見直してやりたい。
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