 |
武田康男/文・写真
草思社 1900円+税 |
おすすめする人 作家・瀬名秀明
この夏からパイロットの免許取得訓練を受け始めた。それをきっかけに、大きく変わったことがある。以前よりもずっと空を見るようになったのだ。
それまで雲の高さや形なんてあまり気にしたことはなかった。でもいまは「地上から何千フィートくらいの高さだな」と見当がつくようになってきて、これがとても嬉しい。
今回紹介する本は、そんな新しい世界を発見するための最良のガイドブックだ。見事な写真ばかりが厳選されていて、しかも添えられた説明がわかりやすい。これ一冊読めば、いままで何気なく見ていた景色がまったく新しいものとして見えてくるはずだ。
例えば、沈もうとする夕陽が平たくつぶれているのを見たことがあるだろう。なぜつぶれるのか、この本にはきちんと写真つきで説明してある。大気の密度差で光が曲がって目に届くからだ。では夕陽が地平線に隠れる瞬間、緑色の光が見えることは知っているだろうか。ちゃんとその実物写真も載せているのがこの本のすごさだ。きみはブロッケンの妖怪伝説を知っているだろう。眼下の霧に自分の影が映る現象だ。その写真まで載っている。幻日、彩雲、光柱、名前だけでしか知らなかった気象現象の数々が、しっかりこの本には掲載されている! こんなにクオリティの高い写真集をまとめるまで、いったいどれほど長い時間、著者の武田さんは空を見続けてきたのだろう。
今度夕焼け空を見たとき、きみはそれぞれの雲が層をなして、色づき具合も違っていることに気づくだろう。巻雲とひつじ雲とわた雲では高度も違うことがわかってくるだろう。蜃気楼の見える理屈を知った後は、春の蜃気楼が上に長く伸びて、冬の蜃気楼が海面より浮かんでいることを実感するだろう。この本が素晴らしいのは、美しい写真を眺めることで現象が理解できることだ。その瞬間から世界が鮮やかに生まれ変わる。
さあ、空を観察しよう。
(朝日中学生ウイークリー 2006年10月15日号より)
|